厚岸のウイスキー蒸溜所、
来年秋、ついに蒸溜開始！
＜後編＞

アイラモルトのようなピーテッドウイスキーというビジョンを持ち、地場のものとマリアージュするという風土性を掲げる厚岸蒸溜所。大麦栽培、ピート＆モルト造りと、厚岸らしさを強調するウイスキー造りに挑む。

文：Ryoko Kuraishi

淡水と海水が混じり合う厚岸湖。豊かな海産資源に支えられ、漁業が発達してきた。

2015年秋現在、厚岸蒸溜所では施設建設が始まり、スコットランドでは厚岸仕様のポットスチル製作が順調に進んでいる。


「工場の図面を見て機械の配置位置を考えるところまで携わり、文系なりに苦労した」という樋田社長だが、今まで一ウイスキーファンとして外から見ているだけだったウイスキー造りの現場を内側から仔細に眺めるようになり、ウイスキーへの理解が深まる毎日だ。


当初は必要最低限の人数で製造ラインを回す予定なので、コンパクト、かつ最先端の設備を考えた。
蒸溜棟1棟と事務所1棟を建設、ポットスチル2基と発酵槽6基を備える。
来年春ごろには建物が完成し、そこから機械を運び込んで設置、夏には完成させる予定。
「いちばんワクワクする」と樋田社長が楽しみにしているポットスチルの備えつけは、夏以降になりそうだ。

2015年7月、視察旅行で訪れたジュラ島にて。小川の水にピートが溶け出しているが、河川の規模の大小を問わずそういった川がスコットランドには多いという。

設備面は目処がついてきたが、やることはまだまだたくさんある。
まずは大麦栽培に適した場所探し。
厳しい寒さに見舞われる厚岸ゆえ、厳寒期には蒸溜所も稼働できなくなるが、そうした時期を狙ってピートの調査なども行うつもりだ。
厚岸産のモルトも、伝統のフロアモルティングにより5年以内には着手したい。


そんな風に現場に関わる樋田社長に、日本ならではのものづくりの心得を伺ってみた。


そもそも、食品の原材料を扱っている堅展実業。
堅展実業が輸入した原材料に、日本のメーカーが加工して一つの商品に仕上げている。
そういう意味で日本のものづくりの製造の一端に携わっているという自負はあったというが、１から10まで自社で製造を行うのはまったくはじめてのこと。


「あらためて自分たちにとってのものづくりの意味を考えた時、まず私たちのウイスキーは基本を大切にしたものでありたいと思っています。
ある方のアドバイスによれば、たとえばピートの効いたウイスキーを目指した時、まずはノンピートを造り、その品質が安定してからピーテッドに切り替えたほうがいいということでした」

親潮と厚岸湖のおかげで海産物が豊富な厚岸町。水揚げされる海の幸は50種以上、なかでも牡蠣は全国的に有名だ。ウイスキーとの相性も抜群、厚岸は「ウイスキー造りにおいてさまざまな可能性を与えてくれる」とか。と

つまりピートという応用は、ノンピートという基本がしっかりしているから生きてくる。
基本を大切にしっかりとした土台を築き、そこに創意工夫しつつ日本人らしいきめ細やかなウイスキー造りを行っていきたい。
それが厚岸蒸溜所の目指す姿のようだ。


また、樋田社長が好むスコッチウイスキーも、「スコッチ」と一言でいってもスコットランドにはあれだけの数の蒸溜所がり、その味わいは実に多彩。
一つの蒸溜所内でもさまざまなバリエーションをリリースしており、どれがどこのものかわからなくなるほど複雑になっている。


そんななかでもラガヴーリンやアードベッグのように、一口飲むだけで「あそこのウイスキーだよね」と飲み手にわかってもらえる風味。
そのなかで厚岸という風土が醸し出せ、さらに長期熟成などのバリエーションを造っていければ…..と、夢は膨らんでいく。

ラフロイグのピートボグでピート掘りをする田中さん。

「アイラ島は牡蠣とホタテが有名ですが、厚岸も牡蠣の一大産地です。
実は先日、厚岸の牡蠣のカリスマ養殖業者に会ってきたんです。
このときウイスキーをお土産に持って行きまして、まずウイスキーのファンになってもらいました（笑）。
今後、ウイスキーと牡蠣でそれぞれに合うものをコラボして造っていければと思っています。


また、根釧といえば日本随一の酪農地区ですからウイスキーにあうチーズというのも考えられますね。
エゾシカも多い地域ですが、スモーキー同士ということで燻製とウイスキーのマッチングも楽しみ。
まだ先の話ですが、厚岸の地のものとのマリアージュは積極的に提案していきたいですね」


2016年秋、蒸溜スタート。
最初の一滴を楽しめるのは2019年になる予定だ。
厚岸ウイスキーがどんな味わいを醸すのか、４年後のそのときをどうぞお楽しみに。