日本のものづくり、再見!
ラムに託した職人の心意気。
<後編>

PICK UPピックアップ

日本のものづくり、再見!
ラムに託した職人の心意気。
<後編>

#Pick up

竹内義治さん by「ナインリーブズ蒸留所」

遂に動き出したジャパニーズ・ラム「ナインリーヴズ」プロジェクト。日本人による、日本でしか表現できない新しい味わいのラムを目指して。創業者にして蒸留責任者、竹内義治さんのたったひとりの挑戦は続く。

文:Ryoko Kuraishi

いよいよこの春より発売される「ナインリーヴズ ゴールド」。竹内さんの試行錯誤は続く...。

滋賀県大津市で建設が始まったナインリーヴズ蒸留所。
ハード面は固まってきたが、ソフトも着実に形になってきていた。
まず、原料。
多くのラムは糖蜜かサトウキビの搾り汁を使うが、サトウキビの搾り汁は沖縄の会社でない限り、ほとんど手に入らない。
沖縄のサトウキビは大手砂糖商社が一括して買い上げているためだ。


そこで思いついたのが黒糖だ。
サトウキビは刈り取った瞬間から鮮度の管理が必要なため、サトウキビの栽培地の近くでないとアグリコール製法が行えない。
が、黒糖を使えばこの問題も解決できる。


沖縄には7つの製糖工場があり、いずれもが独特の個性を備えているが、味見をしてみて多良間島産の黒糖を使うことにした。
雑味のないすっきりとクリアな甘さ、そしてなによりサトウキビらしい青くさいニュアンスにピンときた。
アグリコールラムならではのあの「緑の香り」、あれを程よいバランスでラムの中に表現できると考えたからだ。

池袋「itten bar」の関さんが考案した「真冬のモヒート」¥1,500。「ナインリーヴズの風味を殺さないよう、ミントの香りはあえて控え目に。レモングラス、レモンバーム、ペパーミントと3種のハーブを使いました」と関さん。

「確かにこの製法はトラディショナルではないかもしれない。
でも単式蒸留器しか使えない日本ではやっぱり、バカルディみたいなラムは出せないわけです。
ですから、ナインリーヴズはモルトウイスキーのものさしに合わせて造りたいと考えました。


黒糖はサトウキビの出来によって毎年味わいが異なる。
ということはラムの風味も変わってくる訳です。
マイクロディスティラリーの存在意義に照らし合わせて考えるなら、そうした風味の違いこそが『個性』になるんじゃないか。
その個性のなかで自分たちの味わいをいかに表現できるのかが、酒造りの面白みだと思うんですね」


こうして最初のナインリーヴズが誕生した。
2013年3月のことである。
最初から最後まで全ての工程を見届ける。
隠しごとなく誠実に、正直にラム造りを行っていく。
そうした気持ちを込めて、ナインリーヴズ第一弾であるホワイトラムにはあえて「クリアラム」と名付けた。


クリアというネーミングの中には、竹内さんのビジョンや想いが込められている。
いわく、クリアとは「長石鉱山から湧き出る水の清々しさ、(長石は焼き物の釉薬に用いられるが)長石の釉薬の透明な美しさ、そしてラム造りへのまっすぐな情熱、材料も工程もウソ偽りのない誠実さ」を表しているのだ。

ナインリーヴズを使ったオリジナルカクテルがいただける、itten bar。重厚なアンティーク家具や希少な初版本、額に収められた寺山修司の生原稿が迎えてくれる。(豊島区南池袋1-17-13 8階 03-3981-0018)

こういう信念が理解され、竹内さん、そしてナインリーヴズへの理解者も少しずつ増えてきた。
池袋のバー「itten bar」関明さんもその一人。
竹内さんがサンプルを持って銀座のとあるバーへ飛び込み営業をしたとき、客としてたまたま来店していた関さん。
そのときテイスティングしてくれた関さんのアドバイスが大いに参考になった。


「今でも覚えているんですが、関さんはひとことこうおっしゃったんです。
『うまい。でもこいつ、キレがよすぎる』って。


賛否両論あったサンプルですが、おっしゃる通り、確かにキレる。
キレのいいカクテルを作ってもらうと、キレがよすぎて物足りないんですね。
関さんのアドバイスを元にカッティングを調節してみたら、ちょうどいい余韻が生まれるようになりました。
夜毎お客さんと接しているバーテンダーが楽しく薦められる、そんな味わいにしたいから、ナインリーヴズを扱ってくれるバーテンダーからのアドバイスやリクエストにはいつも感謝しています」


正式リリースからもうすぐ1年。
今年はクリアに次ぐ第二弾として、4月にゴールドをリリース予定だ。
アメリカンオークとフレンチオーク、2種の樽で半年仕込んだもので現在サンプリング中だが「華やかなアメリカン、コクのフレンチ」とそれぞれ個性が異なり、どうブレンドするか現在、大いに頭を悩ませているそう。


もちろんダークラムにも挑戦している。
数年後にそれを発表するその日まで、また違った楽しみ方ができるものづくりの形を模索していきたいのだそう。

徳島産の香り高いすだちとナインリーヴズの絶妙なマッチングが楽しめる「ナインソニック」¥1,100。こちらもitten barオリジナル。

長年、製造業に携わってきた竹内さんが、ついに行き着いた理想のプロダクト=ラム。
現在の竹内さんが理想と思い描くものづくりの形って、一体どんなものなのだろう?


「理想は、先人に教わった『モノ言わぬものがモノいうものづくり』。
ものが全てを語ってくれる。
僕が何を思い、どんな信念でものづくりを行っているか、ナインリーヴズが語りかけてくる。
そんなものづくりを貫いていけたら本望ですね。


いまね、念願のラムを作れるようになって、毎日が本当に楽しい。
リア充ってやつです(笑)。
やっぱりでかい設備の見えない箱の中で、どんどん何かができあがってきちゃう製造業より、自分の行動一つで出来上がりが左右されちゃう、そんなアナログなものづくりが嬉しい。


そして、そうして出来上がったものに対してバーテンダーや飲んでくれた人からアドバイスや感想を直接いただける。
ひとえに、『おいしい』という言葉を聞きたくて作業しているんだなって痛感しますから。
いまや、僕にとってのナインリーヴズはかわいい箱入り娘。
大事な娘を少しでもたくさんの人にお披露目したくて、日々蒸留作業に勤しみ、バーに飛び込み営業しています」

SHOP INFORMATION

ナインリーブズ蒸留所
520-0862
滋賀県大津市石山平津町字平津西山603
URL:http://www.nine-leaves.com

SPECIAL FEATURE特別取材