注目の若手バーテンダー!Vol.3
20代ならではの感性で勝負する。
<後編>

PICK UPピックアップ

注目の若手バーテンダー!Vol.3
20代ならではの感性で勝負する。
<後編>

#Pick up

Kishida Marina/岸田茉利奈/ Bar Amber、Kawase Ryuta/川瀬颯太/Niwaka bar

どりぷら編集部が注目する、若手バーテンダーを紹介する不定期連載第3弾。後編でも引き続き、バーシーンで輝く注目のアンダー30をご紹介します。

文:Drink Planet編集部

「Bar Amber」でコーヒーを淹れる岸田さん。

バリスタとバーテンダーを自在に行き来。

後編でご紹介するのは、西麻布「Bar Amber」の岸田茉利奈さん。バリスタとバーテンダー、2つの顔をもつ岸田さんのストーリーとは?


岸田さんはどうしてバーテンダーになったのですか?


イタリアのバール文化が好きだったことから、大学卒業後、母校に残って大学職員として勤務する傍ら、週末はバリスタ見習いとしてカフェで働いていました。

コーヒーを勉強するなかでコーヒーカクテルに出合い、それをきっかけにバーの世界に引き込まれたんです。

大学職員と飲食業の二足の草鞋を2年ほど続け、一昨年から飲食業一本にシフト。現在はバーをメインにしつつ、週に2回はバリスタとして働き続けています。


岸田さんにとってバーはどういう存在でしたか?


実はこの仕事をする前までは、バーは私にとってハードルの高い場所でした。そのハードルをぐっと下げてくれた存在がコーヒーカクテルだったんです。

初めてコーヒーカクテルを口にしたのはスターバックスリザーブロースタリー。大渕(修一)さんや山本(奈衣斗)さんたちが丁寧に仕上げてくれたカクテルでお酒の奥深さに触れ、カクテルの魅力に開眼しました。

カフェでも気軽にオーダーできるコーヒーカクテルは、バーが身近でない20代にとってバーやカクテルとの橋渡しになってくれるはず。

そんな思いからコーヒーカクテルにはとりわけ思い入れがあり、「ジャパン コーヒー イン グッドスピリッツ チャンピオンシップ」にも挑戦しています。

「カンパリグループ・カクテルグランプリ2022」のために考案した岸田さんのシグネチャーカクテル「Casa nostra」。カンパリに実山椒をインフューズドしたジン、蕎麦とブドウのジュース、ブランジェリコなどを合わせた、さっぱりとしたカクテル。

岸田さんのモチベーションはなんでしょうか?


一昨年からバーテンダー見習いとして働き始めましたが、同年代のバーテンダーたちによる練習会が大きな刺激になっています。

池袋「Bar Libre」のバーテンダーたちが中心となって実施している練習会に通っており、基本的なバーテンディングスキルやスピリッツのことを教わりました。

知識や技術だけでなく横のつながりもうまれたことも大きいです。実は「Bar Amber」との縁も、この練習会をきっかけに生まれたものなんです。

昨年は大会(「カンパリグループ・カクテルグランプリ2022」セミファイナル進出)にも参加しましたが、大舞台となるとメンバーがみんなで応援に来てくれる。大きな励みになりますね。

上は岸田さんが勤務する「Bar Amber」、下は川瀬さんはヘッドバーテンダーを務める「Niwaka bar」。

「20代はいくつもの軸を磨いて勝負する」(岸田さん)

自分たちのような20代のバーテンダーの特徴はなんだと思いますか?


この業界に限らず、20代は一つの軸で勝負するのではなく、いくつもの軸を持とうとしている。そんな風に感じます。

バーテンダーでいえば、クラシックとフレアを両立していたり、ショコラティエやパティシエとバーテンダーを兼ねていたり、料理の世界とバーの世界を自在に行き来していたり。

食、お茶、スイーツ、コーヒー、アート、建築……一つの領域にとらわれない幅広い好奇心が、バーテンディングにもポジティブな影響を与えるのではないでしょうか。

私自身、バーとコーヒーという2つの世界を行き来して「バリステンダー」と名乗っていますが、いずれはお酒とコーヒーの間にある垣根を取り払うことを目標に活動しています。

そして将来は、バー、そしてコーヒーという2つの世界の循環がよりよくなるような仕組みを作って、たくさんの人にバー文化やコーヒーの世界に親しんでもらえる空間や場を仕掛けていきたいと思っています。

そのために必要な知識を、さまざまな経験から身につけているところです。


続いてご紹介するのは、大阪で注目のスポット、「Niwaka bar」のヘッドバーテンダーを務める川瀬颯太さん。

18歳で自分のアパレルブランドを立ち上げた後に、アルバイトとして入店した「Niwaka bar」で、バーテンディングを独学したという異色のキャリアの持ち主だ。そんな川瀬さんが考える理想のバーとは?

学生時代はプロサッカー選手を目指していたという川瀬さん。

サッカー→アパレル→バー、華麗なる転身。

バーテンダーになった経緯を教えてください。


実はお酒が苦手で、体質的にもあまり飲めませんでした。そんな僕が本格的にバーテンダーを志そうと思ったのは後関慎吾さんとの出会いがきっかけです。

バーでアルバイトを始めて半年ほど経ったころ、知り合いに紹介されて初めて「The SG Club」に足を運びました。そこであの世界観や佇まい、後関さんのバーテンディングに圧倒されたんです。

スピリッツやリキュール、さまざまな副材料の組み合わせの奥深さ、複雑さ。それぞれのレシピにひそむストーリー。1杯のカクテルには一つの物語に匹敵するような濃密な内容が潜んでいることを知ったんです。

バー1本で勝負するなら中途半端なことはできません。それまで続けていたアパレルの仕事を畳み、カクテルの勉強に本腰をいれることにしたんです。


川瀬さんのシグネチャーカクテルはユニークなものが多いですが、イメージソースはなんでしょうか?


料理、映画、音楽、ありとあらゆるものがイメージソースになっています。あるシーンを目にして、「この場所ではこんなカクテルが飲みたい」とアイデアが湧いてくることもあります。

先日、メニューに加えた「ポルチーニ&チル」というカクテルは、山にキノコ狩りに行った帰りに、キャンプをして焚き火を囲みながら飲みたいなと思って考案しました。

バターソテーしたポルチーニをブランデーにインフューズド。カカオを組み合わせたホットカクテルで、ガーニッシュとしてバーナーで焦がしたマシュマロを添えています。

ネーミングは「Netflix&Chill」というスラングをもじったものですが、山登り好きなバーテンダーの山の話に触発されました。

左は寒い季節にぴったりのカクテル「ポルチーニ&チル」。右は「Niwaka bar」内観。カウンター8席のみという小さくて居心地のいいスペースだ。

「バーはインクルーシブなコミュニティを作ることができる」(川瀬さん)

店づくりで意識していることはなんですか?理想のバーのありかたとは?


ゲストバーテンダーとしてカクテルイベントに参加したり、いち参加者としてお酒関係のイベントに顔を出したり、さまざまな会場、お店に出かけますが、まったく別のイベント、コンセプトにも関わらず、お客さまの顔ぶれがある程度固定されていることが気になっていました。

これはつまり、バーの常連でないお客さま以外の開拓が進んでいないことを意味します。

新規のお客さまに足を運んでいただけない限りバーの裾野は広がりませんから、「Niwaka bar」では初めてカクテルを口にする、これまでバーを経験したことがないというエントリー層のお客さまに楽しくお過ごしいただくことを意識しています。

実際、僕たちのお客さまは男女を問わず20〜60代と年齢層が幅広く、カクテルに詳しくないバービギナーが多いことが特徴です。

「Niwaka bar」は、バー上級者でない方々にもバーの世界に親しんでもらえる、バーと社会をつなぐ窓口のような存在でありたいんです。

そのために必要なのはお酒を飲める人も飲めない人も、年齢も仕事もバックグラウンドも性的嗜好もさまざまな人が、同じように楽しめるコミュニティの存在ではないでしょうか。

リアル、バーチャルを問わずみんなが自分の居場所を探している現代でバーができることは、そんなインクルーシブなコミュニティを提供することだと信じています。

だって、カウンターに横並びに座って楽しくカクテルを飲めたら、世界中の分断をなくせるはずだって思いませんか?

ですから、クリエイティブな刺激やおいしいカクテルを求める人が夜な夜な集まる、インクルーシブなコミュニティが存在するバーであり続けたいと思っています。

そのためには人に刺激を与えられるよう、自分自身が進化し続け、夜の世界のアイコンでいなくてはいけないのかもしれませんね。

SPECIAL FEATURE特別取材