広島初のクラフト、「SAKURAO GIN」は
ローカル&エコフレンドリー!
<後編>

PICK UPピックアップ

広島初のクラフト、「SAKURAO GIN」は
ローカル&エコフレンドリー!
<後編>

#Pick up

ディスティラー山本泰平さん by「SAKURAO DISTILLERY」

今月は広島のクラフトジン「SAKURAO GIN」を大解剖。宮島の在来植物を使うなど、「メイド・イン・広島」への思いと、宮島の自然を守るための造り手たちの取り組みをレポートする。

文:Ryoko Kuraishi

本社1階に設けられたビジターセンター。テイスティングカウンターには、「SAKURAO GIN」と飲み比べられるよう、世界のジンがずらりと並ぶ。

県内各地から最高の素材が集まった。

リキュールで培った生産者とのコネクションを生かして、広島産の柑橘や地元の桜、牡蠣殻などなど、県内各地から最高の素材を調達した「SAKURAO DISTILLERY」山本泰平さんら開発チーム。


お眼鏡にかなう素材が集まったら、次は素材の選定である。
選に漏れた素材を見る度、、生産者の顔が浮かんで辛かった、と山本さん。


とにもかくにも、いい素材を確保できた。
ようやく、目指すゾーニングに近づけるためのレシピの組み立てに集中できるようになったのだが……。


「実は、試験室で完成したレシピを基にテスト蒸留してみたら、目指した香りとは全く違うものになってしまったんです。
そこから大幅にレシピを調整することになりまして、すでに発売日が決まっていましたから、さすがに焦りました。


開発途中に、国産のジンが発売されたこともあり、開発チームは当時、『早くリリースしろ』という猛烈なプレッシャーにさらされていたんですよ(笑)」

左は広島県内のバーにだけ卸す限定ボトル。ジュニパーベリーの使用量をさらに高めており、キリッとした香りがバーテンダーに好評だ。

こうしてオール県内産の17種のボタニカルを贅沢に使ったジンができあがったが、問題は価格だ。


「すべて県内の素材でという私たち造り手のこだわりが、そのまま価格にも反映されてしまいました。
さすがにこれ1銘柄だけでは現実的ではないということで、国内の原料に海外の素材も取り混ぜて、バーで気軽に使ってもらえるもうひと銘柄を造ることにしたんです。


こちらを『ORIGINAL』、広島のボタニカルだけを使ったものを『LIMITED』としてリリースすることになりました」


できあがったのは、バーテンダーがイメージした味をそのまま表現できる、カクテルに仕立てやすいドライジン。


「現代はボタニカルの個性を強調したジンも人気がありますが、バーでの使い勝手を考え、ドライな飲み口を追及しました。
そういう意味ではバーテンダーなどプロ向けのプロダクトだと思っています」

ジンで、地元の自然環境を守る。

「ORIGINAL」、「LIMITED」に加え、さらに個性的な限定商品を作ろうと考えていた山本さんは、広島市植物公園の門を叩いた。


「何か香りのいい、広島らしいボタニカルはないものか」、そうボタニカルの専門家に尋ねたところ、宮島に自生する在来の植物の存在を教えてもらう。


「ハマゴウと言います。世界遺産の宮島の、沿岸部にだけ自生する植物です。
ミントのような爽やかな香りで、平安時代からお香に用いられていたそうです。


宮島にある広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所の坪田博美先生を紹介していただき、ハマゴウを使わせていただくことになりました。


そうしてできたのが限定ボトルの『HAMAGOU』です」

世界自然遺産に登録されているのは厳島神社とその背後にある弥山原始林だが、周辺の海域も含めて宮島には実に豊かな生態系が残されている。


島という独立した環境にあること、また、島全体が社寺林のような形で信仰の対象となっており、人の手が入りづらかったことから、この島に特有の自然が守られてきたのだ。


「ジンの開発をきっかけに、自分たちのお膝元にある宮島とその自然の豊かさをあらためて知ることができました。
これをみんなで次世代に残していこうという気持ちになりまして、中国醸造全社で環境保全活動に取り組むことになったんです。


現在ではハマゴウが自生する海岸の清掃活動や、宮島ロープウエー獅子岩駅周辺の植生回復活動、地元中学生が行なっている在来植物の植樹活動のサポートなどを行なっています。
さらに『HAMAGOU』の売り上げの一部を環境保全活動に寄付しています」

広島の柑橘を使ったリキュールも造っている。レモンとハッサクの2タイプ。

次のステップは、広島初のシングルモルトウイスキー。

現在はさらなるジンの開発のため、産地ごと、種類ごとのボタニカルの香味成分を調べ、蒸留の違いによる香りの出方など、香りの”引き出し”を増やしているところ、と山本さん。
「HAMAGOU」に続く、広島の香りを閉じ込めたクラフトジンに期待したいところだ。


また、広島初となるシングルモルトウイスキーの製造も開始しており、バーボン樽、シェリー樽、新たに作ったミズナラの樽で熟成させているという。
こちらは2021年以降にお披露目になるというから、待ちきれない。


「ウイスキーができるのはまだまだ先になりますが、4月からスタートする新しい蒸留所ツアーでは、完成に先駆けてウイスキーの貯蔵庫をお見せすることになりました。
さらに、この中にテイスティングバーを設ける予定です。


産声をあげたばかりの小さな蒸留所ではありますが、全国のバーテンダーのみなさんに『SAKURAO GIN』を知ってらもらい、『SAKURAO DISTILLERY』に興味を持っていただけたら嬉しいですね」

SHOP INFORMATION

SAKURAO DISTILLERY
広島県廿日市市桜尾1-12-1
TEL: 0829-32-2111
URL:https://www.sakuraodistillery.com

SPECIAL FEATURE特別取材