ガラス食器の名プロデューサーと
ドリンク×グラスの関係について考えた。
<前編>

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ガラス食器の名プロデューサーと
ドリンク×グラスの関係について考えた。
<前編>

#Pick up

Kimoto Seiichi/木本誠一 by「木本硝子」

世界のラグジュアリーブランドはもちろん、サントリー「山崎」ほか、酒造メーカーとのコラボグラスも多く手掛ける「木本硝子」。今回は「木本硝子」とともに食のシーン×グラスのより良い関係を探ります!

文:Ryoko Kuraishi/撮影:Kenichi Katsukawa

「木本硝子」のショールーム。グラスを購入できるだけでなく、実際に使用し、その使い心地を体験できる。来店の際はご予約を。なお、グラスはECサイトからも購入可能。飲食店には特別価格にて提供している。まずは こちらからプロ登録を!

東京・下町発、グラスの名プロデューサーを訪ねて。

日本&世界中のガラス工場や職人、デザイナーやクリエイターと手を組み、多彩なガラス食器をプロデュースする「木本硝子」。

現在は世界12カ国で、時代のニーズにマッチしたガラス製品を販売する、ガラスのプロフェッショナル集団だ。

「木本硝子」は昭和6(1931)年、ガラス食器専門問屋として東京・浅草で創業した。

世界中のガラス工場を訪ねてはガラス食器を仕入れ、国内で販売していたが、業界の過当競争を目のあたりにし、問屋からメーカーへの転身を決意。

世界40カ国の工場や職人と築いてきたネットワークと、業界の事情やトレンドに精通している強みを生かして現代的なガラス製品を続々と生み出している。

「木本硝子」の3代目、木本誠一さん。

「現在は製品のほとんどを東京都内の工場や職人に製作してもらっています。

私たちの強みは、長年のつきあいから、造り手それぞれの個性や得意とするスタイルを把握できていること。

問屋時代に培った知見を生かし、市場が求めるものや他のメーカーが作りたがらないニッチな製品を含め、『木本硝子』独自のガラス製品を手がけています」

そう話すのは、産拠点を持たないファブレス企業を推し進めた、3代目となる代表取締役の木本誠一さん。

プロデュース業に舵を切った「木本硝子」にとって転機となった製品が、世界初の漆黒の江戸切子「KUROCO」だ。

江戸切子の伝統を守り続けていきたいとは思うものの、鮮やかな青や赤のグラスは現代のライフスタイルにマッチしづらく、とりわけ若い世代から敬遠されがち……そんな葛藤を感じていたそう。

江戸切子の世界観をモダンに伝える漆黒のベストセラー、「KUROCO」。「リング」「ストライプ」「玉市松」の3種類で展開中。

「藍色(青)や赤の切子のグラスはプロダクトとしては美しいものの、素敵なバーや飲食店、あるいはマンションにある自室でウイスキーを飲むというようなシーンには合わせづらいという声をいただいていました。

でも、江戸切子やそれにまつわる“下町の伝統”、“職人の手作り”というキーワードは誰もが好きなんです。

ならば、現代の食卓にもなじみやすい切子のスタイルを考えてみればいいのではと思い立ちました。

そこで漆黒の江戸切子の開発を始めたのです」

直線をモチーフにしたモダンな意匠と黒の組み合わせがスタイリッシュな江戸切子は一大センセーションを巻き起こした。

サントリーからも声がかかり、「山崎」×「木本硝子」のダブルネームのロックグラスが誕生したほど。

「KUROCO」という新しい技術が生まれたことで江戸切子に新しい価値を創造することができたし、高齢化が進んでいる現場においては後継者の育成にも少なからず貢献できた。

また、グラスのプロデューサーとして酒造メーカーや酒販店、飲食店に寄り添って食や酒の新しいシーンを作っていくという姿勢をアピールすることもできた。

日本酒専用グラスは、なんと130種超!平杯だけでも6スタイルがラインナップ。

食×ドリンクに、グラスのファクターも加えて提案

そんな木本さんが発信しているのが、食×ドリンク×グラスの“トリプリング”。

食中酒の世界には、食材や料理にマッチした酒を合わせてより豊かな味わいを楽しもうというペアリングがあるが、そこにグラスというファクターを加えたものが“トリプリング”。

グラスとドリンク、グラスと料理、グラスと空間という掛け合わせで、食のシーンのさらなる可能性を追求しようというもの。

「とりわけ日本酒において、飲食店においてもぐいのみもしくはワイングラスで提供されていました。

ワインの場合はブドウの産地に合わせてグラスを変えます。スパークリング、白、赤、デザートワイン、それぞれの種類に適したクラスが存在します。

日本酒は日本独自のものなのに、銘柄やペアリングに合わせたいグラスがそもそも国内に存在しないという現状があります。

それではあまりに寂しい。

僕自身、大の日本酒好きということもあり、大吟醸、発泡酒、生酛造りや山廃仕込み、熟成酒というような酒のタイプや個性、シーンによって、マッチしたグラスを選びたいという気持ちをもっていました」

無類の日本酒好きという木本さんが日本酒のタイプ別で提案するグラスは、左から大吟醸、スパークリング、山廃仕込み用。

「こうした現状に違和感をもっていること、そしてグラスを含めたペアリングを、これからのライフスタイルとして提案していきたいことを『南部美人』の久慈さんや『新政酒造』の佐藤さんたちに話してみたら、『造り手さえそこに思いを馳せなかった』と、大いに共感していただけたのです」と木本さん。

そこで、酒の個性を引き立てるさまざまなグラスを作るようになった。

現在ではなんと130種もの日本酒専用グラスがラインナップ。平杯だけで6スタイルものグラスを展開している。

「味わい、香り立ちはもとより、温度や飲み手の気分、空間など、あらゆるシーンにマッチするグラスが揃っています」

後編では、オリジナルリティあふれるグラス製造を請け負う、「木本硝子」のOEMについてご紹介します。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

木本硝子
東京都台東区小島2-18-17
TEL:03−3851−9668
URL:http://kimotoglass.tokyo/

SPECIAL FEATURE特別取材