シリーズ:バーから2020を考える
その1 モクテル(ノンアルコールカクテル)問題
<前編>

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シリーズ:バーから2020を考える
その1 モクテル(ノンアルコールカクテル)問題
<前編>

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宮澤英治さん by 「Bar Orchard Knight 」×安藤裕さん by「アルト・アルコ」

バーの視点で2020年を考える新シリーズ。第一弾のテーマはモクテル(ノンアルコールカクテル)!ノンアルコール専門インポーターとモクテルを積極的に扱うバーオーナーと、未来のモクテル・シーンを考える。

文:Ryoko Kuraishi

昨年7月に(株)アルト・アルコを設立した安藤裕さん(左)と、(株)オーチャードナイト、(株)カクテルワークスを経営する宮澤英治さん(右)。photos by Kenichi Katsukawa

ノンアルコール飲料への注目がすさまじい

2020年に向けて新しいバーの動向を探る新シリーズ「バーから2020を考える」。
第一弾のテーマは、モクテル。
ビーガン、ローカーボ、グルテンフリーなどますます多様化する現代の食シーンにあって、世界的にはアルコールフリーやローアルコールが市民権を得つつある。


今月は、アルト・アルコ代表の安藤裕さんと、Bar Orchard Knight を始め、都内&軽井沢に6軒のバーとバーツールショップを展開する宮澤英治さんをゲストに迎え、モクテル問題についてのフリートークをお届けしよう。
果たして、日本でのモクテルの可能性は?!


前編は、世界のノンアルコールシーンについて。


——安藤さんはノンアルコールスピリッツに注目し、オルタナティブアルコール飲料(お酒の代わりに飲めるノンアルコール飲料)だけを専門に取り扱う商社を日本で初めて立ち上げたということですが、ノンアルコールを商材と決めた理由は?


安藤 元々ワインの輸入会社にいたのでヨーロッパ諸国に足を運ぶ機会が多かったのですが、向こうではノンアルコール飲料、特にノンアルコールスピリッツの盛り上がりが凄まじく、これからのニーズを感じさせました。


一方で、日本ではこうした新しい飲料を持ってきている会社がなかったので、それでは自分で扱ってみよう、と。
現在は禁酒法時代に盛んに飲まれていたというドリンクに着想を得たビネガーベースの飲料、「シュラブ」を扱っています。

対談を行ったのはフレッシュフルーツを使ったカクテルを提供するBar Orchard Knight (千代田区神田淡路町2-6 益川ビル1F TEL 03-6206-9198)。フレッシュフルーツというキーワードでの来店者が多いため、モクテル需要も少なくない。

海外でノンアルコール市場が盛り上がるわけ

——世界のノンアルコール市場の現状ってどうなっているんでしょう。


安藤 データでいうと、今後3年のノンアルコール飲料のRTDの市場の年平均成長率はイギリスでもアメリカでも40パーセントほどと言われていて、スピリッツフリーバーというノンアルコール飲料専門のバーも増えています。


日本では、酒類消費量は平成のピークから20パーセント減少したと言われています。
昨年の国税庁の調査結果を見ても若い世代のアルコール離れは如実にデータに表れていて、そういうデータを鑑みるにノンアルコール飲料には可能性があるなと感じています。


宮澤 とはいえ東京に限っていうと、若い人のアルコール離れはかなり地域差があるように思います。


弊社は主にダイニングの要素を兼ねるバーを展開していますが、いわゆるオフィスワーカーが多い神田、東京駅エリアではアルコール離れを感じる事はほぼないですね。
ターミナル駅に近いバーでも同様の印象でした。
東京店では試験的に、メニューにローアルコールというキーワードを入れています。

左から、シュラブ・オリジナル、シュラブ・ライム&ジュニパー、シュラブ・オレンジ&ジンジャー、シュラブ・アップル&シナモン。モクテル&カクテルにはもちろん、そのまま飲んでも美味しいビネガーベースのドリンクだ。

安藤 イギリスでは2013年に「Dry January」という、1ヶ月間を素面で過ごそうという断酒キャンペーンが始まりました。


初年度は4,000人程度だった参加者が、今年は420万人という規模にまで拡大しています。
とはいえ、その間の1ヶ月の酒類の売り上げは1.9%くらいしか落ちなかったというから、参加を表明しても続かない人が多かったのかもしれません。


ただ、ノンアルコールへの意識は確実に高まっていますね。同じようなキャンペーンがベルギーやオーストラリアでも始まっていますから。


——その背景にはどんなことがあるのでしょう。


安藤 そもそも海外では、日本に比べると依存症や過剰飲酒などアルコールにまつわる社会問題が深刻化しているのではないかと思います。


例えば、スコットランドでは"Minimum Unit Pricing”という、アルコールの最低価格にまつわる制度が導入されました。つまり国民の健康を守るために国が動かざるを得ない事情があるということです。


日本ではアルコールはそこまで悪者ではないですよね。
どこでも買えるし、外で気軽に飲むこともできる。

バーテンダーの力量が試される!?

——バックグラウンドが違うので日本と海外を単純比較することはできないようですが、インバウンド需要を見込むならアルコールの背景の違いを理解しておいたほうがよさそうですね。


宮澤 日本人にはモクテルという言葉自体、浸透しているとは言い難い。
いまだに「ノンアルコール=ソフトドリンク」というイメージが根強いんですよ。


ということは、僕たちバーテンダーはノンアルコールカクテルについていままで以上に引き出しを増やし、同時に、提供の仕方やシーンの掘り下げもしなくてはいけませんね。


外国人の来店も多くなり、しっかりとしたメニューを置くバーが増えてきたように思えます。
そこにモクテルというカテゴリーを加えて発信を強めていくことで、利用者やシーンの受け皿が広くなり、いい意味でバーの立ち位置が変わるかもしれません。


安藤 「ノンアルコール=ソフトドリンク」と捉えられてしまうと、果たしてそれにいくら払ってもらえるのかというのが由々しき問題で。


ノンアルコールスピリッツが入ってきても、現在の市場だと受け入れられないんじゃないかな。
それなりの値段になりますからね。

時にネガティブに捉えられることもあるノンアルコール飲料を、「ボタニカル・ドリンク」としてイメージアップを図りたい、と安藤さん。実際、「シュラブ」にはさまざまなスパイスやボタニカルを使われている。

宮澤 ただ、モクテルはノンアルコールとはいえ、カクテルと同じ値段をつけていい時代になっていると僕は思っています。値段にはバーテンダーの力量が反映されるものですから。


それに一昔前と現在とでは、そもそもの材料費が全く違いますよね。
自ずとカクテルの単価も上がっていきます。
スピリッツはもちろん、副材料もビーガンやオーガニックを謳った高品質なものがどんどん生まれている時代ですから。


安藤 価格の問題もありますが、日本のマーケットにモクテル、あるいは高級ノンアルコール飲料をどうアピールすれば皆さんの心に響くのか。


一つ言えるのはやはり、バーという空間にふさわしいビジュアル、テイスト、存在感ですね。
例えばスタンダードカクテルを飲んでいる仲間と乾杯しても疎外感を味わわずにいられる。
あるいは、お酒を飲む・飲まないに関わらず、選択肢の一つに入れられる。


そういうモクテルを提供してくれるお店は日本ではまだ限られていますから、僕ももっと面白い提案をしていかなくてはと思っています。


——後編では2020年のシーンの変化を予測していただきます。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

アルト・アルコ
東京都荒川区東日暮里6-52-2 404号
TEL:03-5615-0720
URL:https://www.alt-alc.com/

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