日本初のオー・ド・ヴィー誕生へ。
mitosaya蒸留所がついに始動!
<前編>

PICK UPピックアップ

日本初のオー・ド・ヴィー誕生へ。
mitosaya蒸留所がついに始動!
<前編>

#Pick up

江口宏志さん by「mitosaya薬草園蒸留所」

日本ならではのオー・ド・ヴィーを造る!新進ディスティラー、江口宏志さんが2017年から取り組んできた「mitosaya薬草園蒸留所」がこの夏、ついに操業スタート!いち早くその全貌をお伝えする。

文:Ryoko Kuraishi

ロゴはmitosayaの「み」の字をモチーフに。 Photos by Yasuo Yamaguchi

「日本ならではのオー・ド・ヴィーを造る」という新進ディスティラー、江口宏志さんが2017年から取り組んでいるプロジェクト、「mitosaya薬草園蒸留所」。


地元産を中心に日本各地のフルーツやボタニカルを使い、日本らしい発酵のエッセンスを取り入れ、この地の風土に寄り添ったボタニカル・ブランデーを手探りしながら造っていくという。


千葉県大多喜町でこの取り組みがスタートしたのは、2017年春のこと。
「自然をぎゅっと凝縮してそのエッセンスを取り出す」という蒸留の面白さに魅せられ、ドイツはシュテーレミューレ蒸留所で研修を積んだ江口宏志さん。
(修業の模様は「ドイツ蒸留所留学!日記」から。)


マスター・ディスティラー、クリストフ・ケラー氏のもとで蒸留酒への知識を深める中で、日本の果実や植物を使ったボタニカル・ブランデー造りに思いを馳せるようになった。

左上:蒸留所入り口。 右上:エントランスを入ると楕円形のホールが。左下:もともとトイレだったという蒸留室は、タイルを剥がしたらインダストリアルな雰囲気に。右下:木桶発酵槽が存在感を発揮。Photos by Yasuo Yamaguchi

2016年に帰国後、理想とするロケーションを探して全国を回ったというが、縁あって大多喜町の薬草園跡地を借り上げることになった。


大多喜町を選んだのは、他の生産地とつながりやすいという地の利と薬草園の存在だ。
「国産の果物やボタニカルを使った日本らしいブランデーを造るのに便利な場所だし、薬草園にある薬草をアクセントに使ったら面白いことができるかなと思って」


1987年に開園、2016年にクローズした大多喜町薬草園には500種以上の草花、樹木、薬草や漢方になる植物が植えられていた。
江口さんは「GRAND ROYAL green」の井上隆太郎さんと相談しながら、残せるものは残し、そこに新しいボタニカルを加え、化学肥料や農薬を使わずにアップデートする植生プランを考えた。

こちらがセラー。断熱材を厚めに吹いてもらったら、どこか洞窟を思わせる不思議な質感に仕上がったとか。

それでは早速、蒸留所を案内していただこう。


まずは、仕込み、発酵、蒸留、ボトリング、熟成など一連の作業が行われる蒸留所へ。
仕込み室はもとの展示室で、ここにマッシャーや発酵槽が設置されている。


メインの発酵槽は巨大な木桶で、容量は3,000リットル。
小豆島にある「ヤマロク醤油」が行なっている、「木桶職人復活プロジェクト」の一環として提供されたものだ。


ドイツの蒸留所では蒸留の工程に重きをおいていたが、発酵を重視するのが日本らしい酒造り、と江口さん。
小豆島産の木桶が発酵過程に関わることで、日本ならではのオー・ド・ヴィーができるのではないか。


「今月から蒸留を始める(予定)ですが、季節柄、ナシやブドウあたりからスタートしようと考えています。
ナシは地元の農家から、ブドウカスも近隣のワイナリーから提供してもらいます。
まずは地元の農家や生産者と手を組んでいきたいと思って」

江口さんが初めて手に入れた蒸留機もここに。

その隣にある小さなタンクは、容量300リットルのもの。
こちらはより小規模な生産者によるフルーツや、薬草園内のボタニカルを使ったオー・ド・ヴィーの発酵槽として使う予定だ。


実は千葉県には、パッションフルーツのようなトロピカルフルーツを栽培する農家もいるそう。
「様々なフルーツと薬草園のハーブやボタニカルを組み合わせた、ユニークなオー・ド・ヴィーを小規模多品種で造ってみたい」という江口さんにとっては、トライ&エラーを楽しめる絶好のロケーションだ。
蒸留と蒸留時間、素材となるフルーツやボタニカルの組み合わせには、無限の可能性が秘められているのだ。


続いて、アーチ状の入り口が印象的な蒸留室へ。
中央に据えられているのが、1990の年代に製造されたドイツの名門蒸留機メーカー、KOTHE社製の60リットルのコラムスチル。
「熱を加え、蒸気を冷却する」という蒸留の工程をそのまま具現化したような、シンプルを極めた形状が好みだという。

「『バスケット法』のバスケットを取り付けることもできないし、使い勝手がアップデートされていないのでいろいろ手がかかりそうですが、一つ一つ工夫を凝らしていくプロセスが楽しいんですよね」と江口さん。

仕込み室の反対側にあるのがセラーだ。
まるで洞窟のような趣きのこちらには、上段にガラスボトルが、下段にミルク缶がずらり。
フルーツのフレッシュな状態をそのまま引き出してみたいと、まずは木樽ではなくガラスボトルやメタル缶で熟成させることにした。


「ガラスボトルは15リットルか20リットルの2サイズ。
ミルク缶は小さいものが50リットル、大きいものでも100リットル。
60リットルの蒸留機でできるのはせいぜい15〜20リットルですから、このくらいのサイズ感がちょうどいいんです」


いちばん奥はボトリングおよびオフィスのスペース。
もともとの建物に備わっていた天窓を活かしたいと試行錯誤した結果、天井から自然光が差し込む明るい空間に。


蒸留棟の先には温室をそのまま活かしたテイスティングルームと、江口さん自慢の植物園が広がる。
こちらの案内は後編にて!


後編に続く。

SHOP INFORMATION

mitosaya薬草園蒸留所
千葉県夷隅郡大多喜町大多喜486
TEL:0470-64-6041
URL:http://mitosaya.com

SPECIAL FEATURE特別取材