日本初のオー・ド・ヴィー誕生へ。
mitosaya蒸留所がついに始動!
<後編>

PICK UPピックアップ

日本初のオー・ド・ヴィー誕生へ。
mitosaya蒸留所がついに始動!
<後編>

#Pick up

江口宏志さん by「mitosaya薬草園蒸留所」

文:Ryoko Kuraishi

植物園にはオー・ド・ヴィーに使えそうなボタニカルがたくさん。Photos by Yasuo Yamaguchi

5000坪という広大な敷地に、蒸留所の他に2つの温室、江口さんがセルフビルドした小屋、プラムやアプリコットなどの果樹園、エディブルファームが点在する「mitosaya薬草園蒸留所」。


ロマーノ・レヴィのグラッパでも知られる、ミカン科のヘンルーダ。
薬草のアンジェリカ、香りのいいセリ…… 。
西洋の珍しいハーブもあるが、クロモジやニッケイなど日本でおなじみの樹木も。


かつて有毒植物が植えられていたコーナーは「アブサン・フィールド」に変わり、ブロンズフェンネルやニガヨモギ、イソップ、アニスなどが育てられている。

テイスティングルームになる予定の温室。

こうした植物の中には、開園準備に際して行ったクラウドファンディングの、「植樹から蒸留まで」という支援コースのコンテンツとして支援者が植えた果樹もある。


果たしてこれらの植物をどれくらいオー・ド・ヴィーに使えるかは今はまだ未知数だ。
だが、園内を巡ると様々な植物からインスピレーションをもらえるのだそうだ。


「当初はドイツでやりたいという気持ちも少なからずあった」というが、日本各地の生産者と繋がり、日本の素材を使ったオー・ド・ヴィーは、よりポテンシャルが高いのではとないかと思った。


そんな江口さんのオー・ド・ヴィーに、植物園のボタニカルがアクセントを加えてくれるはずだ。

左上:古い香水瓶。右上:ボトルの要となるヴィノロックのガラス栓。左下:ロゴに待つあるアイデアメモ。右下:自ら削ったというモック。

さて、最近はmitosayaオリジナルのボトルデザインに夢中になっていたとか。
チェコのガラスメーカーが手がけるヴィノロックというガラス栓をきっかけにボトルの内側の形状に思いを巡らすように。


「スピリッツのボトルって薬瓶をベースにしているのだけれど、僕が造るのはブランデー。
薬瓶よりもう少し色気が欲しいと思っていたところ、とあるメーカーとスピリッツ用のボトルを共同開発することになって」

アイデアのベースになっているのは香水瓶だ。
古い香水瓶をいくつも手元に置き、モックを作る。


色気のあるフォルムでいて、内径はヴィノロックもコルクもスクリューキャップも使える設計。


「強いコンセプトを掲げたり、きちんとしたブランディングを行ったりはしていないので、ブランデーもボトルもふたを開けてみないとわからない(笑)。


ラベルのデザインも同様で、手探り状態。
初めなのだからまずは自分がいいと思うものを形にしてみようと思っていて、あれこれと試行錯誤を楽しんでいます」

ニガヨモギを植えた「アブサン・フィールド」。

「発酵にまつわる話に興味があるので、小泉武夫さんの著書をよく読んでいます。


発酵した後のもろみを使ってもろみ酢を作るような、無駄なもの・捨てられるものに光を当て、そこに新しい価値を付加するという点に共感するんです。
蒸留においても、蒸留した後のものから何ができるのが、そういうところにも面白さを感じているのでしょうね」


江口さんはそんな風に自身の酒造りを語ってくれた。


mitosaya薬草園蒸留所はそもそも、江口さんの「老後を楽しく過ごす」というテーマから生まれたプロジェクトである。
養蜂家のもとで養蜂を学んだり、自ら杉板を焼いてセルフビルドで小屋を建てたり。


手探りで試行錯誤するあれこれがいつしか生活として根付き、やがて小さなビジネスになれば……。
だから目指すのは、バンバン作ってどんどん売って、というビジネスではなく、あくまでも身の丈にあった蒸留所だ。

熟練の養蜂家の下で学びながら養蜂もスタートさせた。

「クリストフのおかげもあり、早いタイミングで海外からの問い合わせもいただいています。
日本のボタニカルを使うことに興味を持ってくれる方も。
クラウドファンディングの支援者を含め、楽しみに待っていてくれる人がいるから頑張れる。


この植物園の存在を含めて『mitosaya』だと思うので、なるべく早いタイミングで公開日を設け、たくさんの人に遊びに来て欲しいと思っています。
この施設、この自然、環境、からどんなものが生まれるのか、ぜひ体感してもらいたいんです」


自由闊達にものづくりを行う、インディペンデントな造り手と、ここで育つ植物やそれらが描く風景によって味わいも香りも異なるオー・ド・ヴィー。


今からそのファースト・バッチが待ちきれない。
味わいそのものはもちろんのこと、クリエイティブなスモールビジネスにはワクワクする可能性にあふれているからだ。

SHOP INFORMATION

mitosaya薬草園蒸留所
千葉県夷隅郡大多喜町大多喜486
TEL:0470-64-6041
URL:http://mitosaya.com

SPECIAL FEATURE特別取材