チーズの副産物“スイートホエイ”から作る
サステナブルな「Wheyward Spirit」!

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チーズの副産物“スイートホエイ”から作る
サステナブルな「Wheyward Spirit」!

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チーズを作る際に固形物と分離された副産物として大量に発生する「スイートホエイ(乳清)」。これを主原料にしたまったく新しい蒸溜酒が、米国オレゴン州ポートランドで誕生し、話題沸騰中!

Rika Higashi(ポートランド在住)

「Wheyward Spirit」創業者のEmily Darchuk。

主原料はスーパーフードのホエイ!

「Wheyward Spirit(ホエイワード・スピリット)」は、オレゴン州ポートランドでフードサイエンティストのEmily Darchuk(エミリー・ダーチャック)氏によって開発された、「スイートホエイ(以下ホエイ)」をアップサイクルしたこれまでにない蒸溜酒だ。

ホエイは、タンパク質や乳糖、カルシウム、ビタミンなどが豊富で栄養価が高く、近年は健康食品としても注目されている。

(日本では「乳清」や「乳漿」と呼ばれることも)

しかし実際は、まだまだ流通の仕組みなどが整備されておらず、毎年アメリカで生み出される1000億ポンド(454億kg)ものホエイの半分以上が破棄されている。

しかも、破棄する際には栄養価の高さが仇になる。

処理しないまま捨てると有害な藻やバクテリアの大繁殖を促してしまうのだ。

食品廃棄物の削減に貢献する蒸溜酒。

1ポンド(約450g)のチーズを作るために、9ポンド(約4kg)ものホエイが生み出されるという。

自然食・乳製品業界で働いていたEmilyは、地元の小さな酪農家がホエイの処理に悩んでいることを知り、フードサイエンティストとしての経験を活かして新たな解決法を模索し始めた。

ホエイを単に処理するだけではなく、価値のあるものとしてフードシステム内で活用したい。

そんなEmilyの想いから導き出された回答が、この「Wheyward Spirit」というワケ。

乳製品から蒸溜酒を作ることは昔から行われてきたそうだが、それらは190プルーフ(約95度)までアルコール純度を高めた、無味無臭のウオッカに近いものであった。

しかしEmilyは、原材料に忠実に、ホエイならではの風味を活かすことにこだわった。

そのために、まずは、地元酪農家から直接譲り受けるホエイの乳糖を酵母に分解させ、ホエイ独特の甘酸っぱい風味を残した「ホエイビール」を醸造。

その後、ホエイビールを蒸溜して、独特の風味を凝縮した。

2年ほど試行錯誤を繰り返し、ようやく納得できるフレイバーにたどり着いたそうだ。

カクテルにも応用しやすいよう「無色透明」にもこだわったという。

フレイバーは「日本酒とウオッカの子供」!

Emilyの自宅兼オフィスに設けられたバーで彼女の勧めに従い、まずは「Wheyward Spirit」を常温のストレートで試飲してみた。

アルコール度数は40度。

見た目も無色透明でウオッカのようだが、実際には甘い香りがあり、喉ごしも想像以上にスムーズ。

原材料を知っているためか、甘酸っぱい乳酸菌飲料を思い起こした。

高級ハンバーガーチェーン「シェイク・シャック」や全米屈指の予約の取れないレストラン「ユニオンスクエアカフェ」の創業者であるDanny Meyer(ダニー・マイヤー)氏は「すばらしい! 日本酒がウオッカと子供を作ったら、こんな感じ」とその味を讃えたそうだが、さすがに上手な表現だと思う。

付け加えるなら、日本酒は辛口ではなく、フルーティーなにごり酒といったところか。

続いて「氷が溶けるにつれての味わいの変化も楽しめるのよ!」と勧められたのは、レモンピールと氷を1つ入れたロックスタイル。

こちらは、ぐっと爽やかになり、飲みやすい。

Emilyは「素材の良さを引き出すことにこだわった」というが、熟成していないにも関わらず、熟成したようなまろやかさと独特の複雑なフレイバーがあり、ロックでも十分に飲み応えがある。

オリジナルカクテルの「Waste Not Sour」。

カクテルにも使いやすい無色透明へのこだわり。

続いてEmilyが作ってくれたのは、「Wheyward Spirit」をベースにした「マティーニ」。

カクテルにも幅広く活用ができるよう「無色透明」であることにもこだわった。

ジン、ウオッカ、ホワイトラムといった無色透明の蒸留酒ならそのまま1対1の割合で代替できるそうだが、なかでもマティーニは一番「Wheyward Spirit」の特長が伝わるカクテルだという。

「ジンやウオッカがシャープな感じなのに対して、ホエイワードは丸みや深みがある」とEmilyが語る通り、確かにまろやかで甘めの飲みやすいマティーニであった。

また、デトロイトのバーテンダーが開発したというレモン果汁とアクアファーバ(卵白の代用として使えるひよこ豆の茹で汁)、シンプルシロップを加えたオリジナルカクテル「Waste Not Sour」も試飲させてもらったが、スムーズな喉越しと「Wheyward Spirit」の甘酸っぱさが一層際立ち、クセになる味わいだった。

「例えば、パーティーでフムス(中東の定番料理)を作った際に出る豆の茹で汁と、レモンピールを使った残りのレモン果汁でこのカクテルを作るとか?」とEmilyは笑うが、確かに名前通り(Waste Not=無駄のない)サステナブルさを象徴するユニークなカクテルだ。

他にもEmilyの一番のお気に入りだと言うホエイワード版「ネグローニ」や「フレンチ74」、サイトに挙がっている「オールドファッションド」にインスピレーションを得たという「New Era」、りんご、柑橘類、セージなどを加えた「Wheyward's Harvest Moon」他、さまざまなカクテルに使えるのは間違いない。

バーテンダーにとっても「Wheyward Spirit」をベースにしたカクテル開発は、きっと楽しいチャレンジになるだろう。

「Wheyward Spirit」のボトルに描かれるのは、ブランドを象徴するメスのハイランド牛。

「マグニフィセント」が体現するスピリット。

「Wheyward Spirit」のボトルには、ブランドマスコット「マグニフィセント」の写真が使われている。

自由気ままに歩き回るマグニフィセントは「退屈な牛じゃなくて、一緒に飲みに行きたくなるような」メスのハイランド牛。

「Wheyward Spirit」の原料が牛乳に遡ることはもちろん、確固としたビジョンを持ち、周囲と違うことを恐れない「wayward spirit (強く毅然とした気性)」や、女性が創業・運営しているビジネスを象徴しているのだとか。

新型コロナウイルスによるパンデミックが続くなか、2020年9月にオンラインで販売を開始したこの商品。

大手メディアで取り上げられたり、ブラインドテイスティングで審査される「Good Food Awards 2021」のファイナリストになる(受賞者発表は1/22)など反響は上々で、すでにアメリカ全土から注文が殺到しているんだとか!

750mlのボトル1本に対して約6ガロン(約23リットル)のホエイが使われる。

Emilyは「いまはまだ小さいけれど、将来的には多くの人に『Wheyward Spirit』を味わってもらい、みんなで楽しい時間を過ごしながら、食品破棄問題により大きなインパクトを与えたい」と意欲をみせる。

始まったばかりの丑年は、「Wheyward Spirit」にとって飛躍の一年になるだろうか。

世界中の有名バーのバックバーに、この蒸溜酒が並ぶ日が楽しみだ!

★Wheyward Spirit
https://www.wheywardspirit.com/

SPECIAL FEATURE特別取材