米ポートランドで進化する、
奥深き自家製ビターズのいま。

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米ポートランドで進化する、
奥深き自家製ビターズのいま。

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クラフト文化が根づくアメリカ西海岸のポートランドは、実は世界有数のビターズの街。大小十数軒のビターズブランドが切磋琢磨するなか、自宅のキッチンからスタートした注目の2軒をピックアップ!

CY(ポートランド在住)

「ザ・ビターハウスワイフ」創業者のジュヌビエーブ・ブラゼルトンさん。

「Do It Yourself(自分でやろう)」。DIY精神が息づく街、米オレゴン州のポートランド。

人に任せてばかりではなく、自分でもやってみよう。

そんな気概を持つポートランドの住民たちは、もちろんモノ作りに積極的。

「市販のモノもいいけれど、自分でも作ってみたい」

そんな人たちが多いからか、自宅のキッチンで手作りした「自家製の〇〇を商品化しました」といったエピソードをそこかしこで耳にする。

事実、クラフト系のワークショップも大人気。

中でもここ数年、ポートランドでじわりじわりと確実に裾野を広げてきたのがビターズだ。

新発売となった缶入りドリンク「ビターズ&ソーダ」。

最近では石鹸やチーズ、ピクルスなど「メイカー・ワークショップ」を開催するオレゴン科学産業博物館のモノづくりプログラムにも、ビターズのクラスが組み込まれているんだとか。

5、6年前に比べると、アニスやキナの樹皮といった薬草や香料が、市民の生活にグッと近づいてきている印象だ。

さて、そんなポートランド産のビターズの中でも、すっかり地元を代表する名産品のひとつとなったのが「ザ・ビターハウスワイフ(The Bitter Housewife)」。

人気商品のカルダモンビターズは、優れたクラフト食品に贈られる「グッド・フード・アワード」を2018年に受賞するなど、確実に支持を集めている。

今年(2019年)9月には、新商品として炭酸水にビターズを加えた、その名も「ビターズ&ソーダ」という缶ドリンクの販売もスタートさせた。

「ザ・ビターハウスワイフ」の人気商品、カルダモンビターズ。

同ブランドの創業者で長年バーマネージャーを務めてきたバーテンダーのジュヌビエーブ・ブラゼルトン(Genevieve Brazelton)さんはこう話す。

「創業時の2012年と比べると、本当にたくさんのビターズブランドが誕生しました。当時は、ファーマーズ・マーケットやギフトショップでビターズを見かけることはほとんどなかったので……」

彼女のお気に入りのビターズの使い方は、カルダモンビターズをホイップクリームやコーヒーに数滴垂らすというもの。

料理などで使う人も多いが、意外だったのは「うちのビターズを炭酸水に混ぜている人が多かったこと」だという。

ビターズをカバンに入れて持ち歩いている人や仕事場などに常備している人も少なくないそうで、購入者からのそういったフィードバックから着想を得て作ったのが上述の缶ドリンク「ビターズ&ソーダ」だ。

また自家製のアロマティックビターズを再開発した際は、ノンアルコール&ノンシュガー仕様に仕上げ、ビターズの魅力をカクテルファンだけでなく、より幅広い層へ広めることを目論んでいる。

「ポートランド・ビターズ・プロジェクト」創業者のシンディー・カパレリさん。

カクテル以外のビターズの用途を挙げると、他にもクッキーやチョロレート、キャンディーなどのお菓子作りから、肉の味付け、ヴィネグレットソースなどのサラダのドレッシングに使っている人も多い。

「あとは、胃もたれや滋養強壮にも効果があります!」

そう語るのは「ポートランド・ビターズ・プロジェクト(PORTLAND BITTERS PROJECT)」の創業者、シンディー・カパレリ(Cindy Capparelli)さん。

彼女もまた自宅のキッチンから始めたビターズ職人のひとりだ。

2013年秋の創業以来、人気のローズやベイマツにペパーミントやビターオレンジを加えたウッドランドビターズのほか、ラベンダーやカカオなど全7種のビターズを開発してきた。

また、カクテル作りのワークショップも積極的行なっており、ポートランド市民に地元のビターズの魅力を広めている。

「創業当時に比べると、最近は若い人たちもカクテルの奥深さに興味を示してくれています。私が20代の頃にもっともツイストが効いたカクテルといえばブラック・ルシアンでしたが、いまは、酸味、甘味、辛味、渋味などより複雑なバランスを持ったビターズカクテルに関心を持つ人たちが増えている印象です」

「ポートランド・ビターズ・プロジェクト」の7種のラインナップ。

最近は、地元のビール醸造所「カスケード・ブリューイング・バレルハウス」と、ビターズを使った新しい「サワー・ビール(エール)」を開発中だという。

インスピレーションは「オールド・ファッションド」。

特徴的な酸味と、発酵や樽熟成による複雑な味わいに定評があったカスケード・ブリューイングのサワー・エールに、同じく地元産のビターズを加えるとどんな化学反応がおこるのか。

作り手もオーディエンスも、そういった実験的なことに寛容なのは「クラフトの聖地」ポートランドの良さだと両者はいう。

「ポートランドの人たちは新しい試みや挑戦に寛大。だからこそ、ビターズブランドも愛好家も増えて市場が拡大したのだと思います。もちろん、それには良い面と悪い面がありますが、最終的には上質なものだけが残る。ポートランドには、そういった市場の厳しさも適度にあって、切磋琢磨し合えるのがいいですね」とシンディー・カパレリさん。

彼女によれば、ポートランドの地元の食や飲料のビジネス・コミュニティには、それぞれの経験や技術をシェアし合い、お互いを高め合っていこうという共助の精神が根付いているそうだ。

また消費者たちの間に地産地消、大量生産商品よりも地元のブランドをサポートする消費行動が浸透していることにも助けられているという。

一方、前述した「ザ・ビターハウスワイフ」のジュヌビエーブ・ブラゼルトンさんはこう話してくれた。

「いまは、ポートランドに限らず、米国内の各都市に、必ず1つか2つは地元産のビターズブランドがあるのではないでしょうか。とはいえ、まだまだビターズについて知らない人もいますからね。ビターズの魅力については、これからも積極的に伝えていく必要があると感じています」

ビターズが地元の名産品になるなんて日本では信じられないかもしれないが、ここポートランドを筆頭に、アメリカではビターズがそれくらい市民生活に浸透しているってこと。

近い将来、日本にもビターズの波が来るかもしれない。


★ザ・ビターハウスワイフ(The Bitter Housewife)
https://thebitterhousewife.com/

★ポートランド・ビターズ・プロジェクト(PORTLAND BITTERS PROJECT)
https://www.portlandbittersproject.com/

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