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<後編>

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三浦武明さん by「GOOD MEALS SHOP」

手がけたカフェ、レストランは数知れず。「世界のどこの都市にあってもおかしくない、普遍的で普通の店作り」を理想とする三浦武明さん。世界の食シーンを訪ねるなかで考えた、インディペンデントな店のあり方とは?

文:Ryoko Kuraishi

千葉県鴨川市で行われた、ジントニックを主役にしたアウトドアイベント「Farmer's Garden Table」にゲストバーテンダーとして招かれた。当日は、隣の畑で調達した摘みたてのラベンダーやローズマリー、エディブルフラワーを使い、野趣溢れるジントニックを振る舞った。

カフェブームに先駆けて、ユニークなカフェやレストランのプロデュースを多数、行って来た三浦武明さん。
現在はワールド・フード・トラベルをコンセプトにする「TOKYO FAMILY RESTAURANT」とグッドミールズにこだわる「GOOD MEALS SHOP」の2店舗を運営している。


チェーン店でもなく、さほど便利なロケーションでもなく、それでも一定のファンに熱烈に支持されている理由は、それぞれの店の「個性」にあると考えている。


「飲食店で『オリジナリティ』は当たり前。
僕たちが店作りで常に意識しているのは、『オリジナリティ』以上に『パーソナリティ』です。


駅から近くはないけれど、わざわざ足を運んでもらうだけの個性。
それは逆に言えば、『あそこしかないよね』と言われる強みになる。


遠くからでも足を運んでもらえる個性があり、かつ、近所の人にも門を開いている気楽さ、ハードルの低さ。
加えて、自分たちの価値観をきちんと届けていこうという姿勢でしょうか」

同イベントでの一杯。ジンはジュニパーベリーの香りのみを強調した、スペインのメノルカ島産、「ショリゲル」。ラベンダーとプチプチした食感が楽しいフィンガーライム、エディブルフラワーを添え、プレミアムトニックウォーター、「フィーバー ツリー 」でアップした。

三浦さんにとっての「GOOD MEALS SHOP」価値観は「インディペンデントで情熱を持った作り手を紹介すること」だとか。


「それはジンに限らず、この店に携わっている人、モノすべてに通じています。
僕たちの場合は店の成り立ちが個人オーナーのインディペンデントな店ですから、やっぱり小規模に作られているインディペンデントなお酒や食材をたくさんの人に紹介していきたいんです。


そして、そういう自分たちの思いやアイデンティティを積み上げていくと、それが店の『パーソナリティ』になるんですよね」


インディペンデントな作り手の基本って「ないものは自分たちで作る」。
そのD.I.Y.的精神こそ、これからの時代のリアルを作るんじゃないかと共感した三浦さん。
作り手の思いに共感すればこその、店作りである。


思えば、こうした「リアル」な店は、2010年代ごろからポートランドやサンフランシスコなどアメリカ西海岸で、あるいはブルックリンで、一気に増えた印象がある。
大量生産のものが悪いわけではなく、逆に少量生産だからすべからくおいしい訳でもない。
ただ、自分たちが伝える価値観のひとつとして「インディペンデントの良さ」をチョイスした。
個人店だからこそできる提案である。
バーしかり。
食、あるいは酒のシーンで、こうした個人店がもたらす影響は少なくない。

「GOOD MEALS SHOP」2階の「スタンド」では、ボトルビールの角打ちのほか、スコーンやファーブルトンなどの手作り焼き菓子と最高のエスプレッソも楽しめる。米国・西海岸のサードウェーブ・ムーブメントを支る最先端のエスプレッソマシン「スレイヤー」を導入した。コーヒー豆本来の風味をじっくり抽出した、フルボディのコーヒーを楽しめる。

「TOKYO FAMILY RESTAURANT」オープン前から、世界の食文化を見つめる旅を続けて来た。
次なる店のオープンにあたり、ここには「時代の空気感」を求めることにした。


この空気感には、「世界各国で作られた食材がすぐに手に入れられる恩恵と、フードマイレージや食品添加物など、解決するべく努力しなくてはならない問題を、東京に暮らす人々においしく、ヘルシーに食べることで食を取り巻く状況に意識を向けてもらいたい」という思いも込められている。


「『おいしく、健康的に』と考える時点で、その背景には漠然とした食への不安があると思うんです。
確かに、食の世界にはまだまだ嘘も多い。
だからといって、『ヤバい、怖い』と言うのではなく、どうしたら僕たちはその不安を払拭させられるのかを考えるべきなんですよ。
そしてその答えは、代わりになるおいしものを楽しく食べてもらうしかないって思うんです。


だから僕たちはあえて、チキンナゲットやアイスキャンディをこの店のウリにしています。
“House-made、Handcraft”をキャッチーにわかりやすく提案するための、いわばファストフードへのカウンターです(笑)。
そのかわりナゲットから5種のソースに至るまで、すべて厨房で丁寧に手作りして。


オーガニック食材のみを使っているわけではありません。
自分たちの基準で信頼できる食材をセレクトしてはいますが、現状ではまだ100%オーガニックは実現できていない。
ならばそこにストイックになりすぎるよりも、大らかに食を楽しむ提案のほうが大切だと思っています」

「スタンド」の一角では、プロダクトデザイナー、角田陽太が手がける波佐見焼きの器「common」の販売も。技術に裏打ちされたモノ作りの有り様に惹かれたとか。

食って本来、楽しいもの。
「コンセプトとかいろいろ言っているけれど結局、僕たちが言いたいのはごくシンプルなことで、個人店に必要なのはそういうメッセージ性なんじゃないか」と三浦さんは考える。


インターネットやSNSの普及により、さまざまな情報が手軽に集められる現代にあって、どの店でどんな料理、酒がいくらで提供されているか、つまびらかにされている。
そんななか、シンプルに「これが好き!だからこれを揃える!」と言える強さは、個人店のメリットだ。


「うちの近くに、個人オーナーの小さな焼き鳥店があります。
ご近所さんが仕事帰りにぶらりと立ち寄るれるような、気楽なお店です。
そこの大将がいま、IPA(インディア・ペール・エール)にハマっていて、自分の店にもクラフトビールをいれたいんだけどって、相談に来られた。


僕は、個人店が進むべき方向性のひとつとしてそれがこれからの時代のスタンダードになっていけばいいなって思うんです。
どんな戦略やマーケティングよりも、自分が好きものを自分の作った料理と合わせてほしいという思いは強いし、食べ手・飲み手に伝わるんじゃないでしょうか。


だって自分の好きなものには、格別の思い入れがあるんですから」

「冷えたトニックウォーターと常温のジンなら、ほとんどステアせずとも対流によって混ざるんです」と三浦さん。

そんな思いで見つめるのは、5年後、10年後の東京にある「普通」の店だ。


「近隣の会社に務める人が打ち合わせで使ったり、ご近所のおじさん、おばさんがふらっと遊びに来てくれたり。
専門店ではなくて全方位に向けた店作りで、かつ自分たちなりの価値観がきちんと表明されている。
そういう店が『普通』になっているといいなと思うし、この店を『普通』のモデルケースとして続けられたらいい。


そして今の東京だからこそ生まれた『普通』の店が、東京に限らず世界のどこにあってもおかしくない、そんな普遍性を持ち合わせていたら……。
それが、僕が考える『理想』の店ですね」

SHOP INFORMATION

GOOD MEALS SHOP
東京都渋谷区東1-25-5 2F/3F
TEL:03-6805-1893(3F)
URL:http://flyingcircus.jp/info-gms/

SPECIAL FEATURE特別取材