日本橋の夜を彩る、
美しき女性バーテンダー。
<後編>

PICK UPピックアップ

日本橋の夜を彩る、
美しき女性バーテンダー。
<後編>

#Pick up

栗原幸代さん by「マンダリンバー」

女性バーテンダーが迎えてくれる日本橋「マンダリンバー」。女性ならではの苦労、だからこその喜び、オリジナルカクテルを生み出す感性の磨き方とは。

文:Ryoko Kuraishi

こちらが栗原さんのスペシャル、「Glorious Martini」(¥2100)。Photos Tetsuya Yamamoto

半蔵門にあるダイアモンドホテルから品川のインターコンチネンタルホテルへ、
そして「女性バーテンダーだけのバーを」というマンダリン オリエンタル 東京の誘いを受けて、マンダリンバーの初代チーフバーテンダーに就任した栗原幸代さん。

はじめはホテルマンを志望して専門学校で学んでいたが、
ふとしたことからバーテンダーという仕事の面白さに触れ、バー配属を希望するようになった。

「学生時代、ホテルのバーでアルバイトをしていました。
一つのお酒からさまざまな色のカクテルが出来上がっていく、その様子が面白くて。

たとえば、赤いドレスをお召しのゲストに、ドレスを同じ色合いのカクテルを差し上げたり。

いったい、バーテンダーという人たちはどんなもので、何を作っているんだろうと興味を持つようになりました」

洗練された所作もおもてなしの一つ。カクテルができるまでの一連の流れをも満喫できる。

ただのアルバイトながら自宅でカクテルブックを読みあさり、見よう見まねでシェーカーを振り続けた。

「あのときの経験が今の私の原点です」

オープン当初は
「バーに女性だけ、というと色眼鏡で見られる部分もありますから、正直言って怖いという気持ちもありました」


バーテンダーはカクテルを作るだけではない。
バーのムードをも作り上げなければいけない。


「今はもうありませんが、オープン当初はクレームなどもありましたし…。

酔いつぶれてしまうようなゲストもいらっしゃいますから、どうケアするかもバーテンダーの力量です。
その場合、酔いつぶれてしまったゲストはもちろん、周囲の方々へのケアもスムーズにできなくてはならない。

もちろん、大柄なお客様の介抱など物理的に大変なこともありますけれど」


そうなる前にスマートに対処する。
栗原さん流のトラブル対処法だが、そのスマートさがいかにも女性らしいと言えるかもしれない。

焼酎をベースにオレンジジュースを合わせた「Japanese Mojito」(¥1900)。ミントの香りが際立つ。

「トラブルを未然に防ぐ。それって、ちょっとした目配りと工夫があれば難しいことではないんですよ。

たとえばあのお客さまはマティーニを飲み続けていらっしゃるな、と思ったらちょっとだけアレンジしたものを差し上げたり。
バーテンダーにはそうした、シチュエーションを読み取る力も必要ですね。

バーに立ち続けているうちに、おのずとついてくるものと思いますが
私はいつも、トラブルになる前にトラブルの芽を摘むということを心がけています。
それがゲストのためでもあるし、何よりも自分のためにもいいですから」

エボニーでまとめた落ち着いた佇まいが、夜の幻想的なライティングに映える。

ゲストに「『オーラが変わったね』とおっしゃっていただけた時は嬉しかった」という栗原さん。
全てを采配しているという自信がオーラに現れるのだろう。
そう言われるようになってからは、懸念していたクレームもなくなったという。


それよりも今は、女性バーテンダーならではのサービスが喜ばれているそうだ。

「たとえばカクテルを作るときの動きのしなやかさ。
手先にまで神経の行き届いた所作が自然にできる、それは女性ならではの強みですね。

それから香りに対してセンシティブであること。
これは香りが特徴であるカクテルを扱う上で、とても重要なこと。

たとえば、マティーニにレモンピールをどうあしらうか、
それひとつをとっても、最後まで香りが残るよう常に意識しています。

自分のお気に入りの香水は一日を通して長く楽しみたいと思うものですが
香り立ちやその残り香を意識する、
そこには女性ならではの感性や視点が活かされていると思います」


マンダリンバーといえば、20種を数えるバリエーション豊かなオリジナルマティーニを誇る。

ホテルのバーというとスタンダードなカクテルが多いが、栗原さんの考えは別だ。
人気のモヒートだって、焼酎をベースにしたジャパニーズ・モヒート、バナナリキュールをあわせたトロピカル・モヒートなど計4種を揃える。


オリジナリティを大切にする栗原さんならではの工夫といえそうだ。
「メニューにはあえてオーソドックスなものを載せず、オリジナルカクテルを提案しようと思った」、
そのラインナップには女性バーテンダーらしい繊細な感性が活きている。

バーテンダーの中村淑恵さん。コンペティションにも積極的に参加している。

そうした栗原さんの考え方は、あとに続くバーテンダーたちにも少なからず影響を与えているようだ。

街場のバーを経てオープン当初から栗原さんの下で働くバーテンダー、中村淑恵さんはこう言う。

「マンダリンバーには若いながらもやる気と向上心のあるバーテンダーが集まってきます。
バーテンダー同士が切磋琢磨しながら感性を磨いて、よりよいバーを作り上げていけたらと思っています」


12月でマンダリンバーは5周年を迎えた。
ここでの歳月を栗原さんはこう、振り返った。

「女性バーテンダーだけで、どきどきしながら続けた5年間。
振り返ってみれば山も谷もあったけれど、いまは何よりもここまで来た!という達成感が大きいです」


さらさらと流れる水のように、刻々と姿をかえゆく日本橋。
その日本橋にあって5年後、10年後、
マンダリンバーと女性バーテンダーたちは、そこにどんな色をのせていくのだろうか。

SHOP INFORMATION

マンダリンバー
103-8328
東京都中央区日本橋室町2-1-1 
マンダリン オリエンタル 東京 37階
TEL:0120-806-823
URL:http://www.mandarinoriental.co.jp/tokyo/dining/bar/

SPECIAL FEATURE特別取材