無冠から一気に世界No.1へ!
ワールドクラスの勝ち方とは!?
<前編>

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無冠から一気に世界No.1へ!
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<前編>

#Pick up

金子道人さん by「LAMP BAR」

2015年9月4日、南アフリカで開催された「ワールドクラス 2015」において、日本代表の金子道人さんが世界No.1の座に輝いた。優勝から2週間後、世界チャンピオンとなった金子さんを直撃!

文:Drink Planet編集部

“Against the Clock”チャレンジのワンシーン。

「最初の“Against the Clock”チャレンジで、『あっ、これイケるな!』と思いました」

自身初の世界大会となる「ワールドクラス グローバルファイナル」の率直な感想を聞くと、金子さんは開口一番こんな風に答えてくれた。

「もちろん直前までは緊張していたのですが、始まって3分くらい経った時には手の震えも止まっていたし、自分の細かいミスに気づくと同時に、冷静にリカバリーもできました。なんだ、ちゃんと落ち着いてるじゃないか。これは、意外とイケるな、と」

実はこの最初のチャレンジで、金子さんは手をカウンターに打ちつけ、出血してしまうというアクシデントに見舞われた。

しかしお客さまであるジャッジに不快な思いをさせないよう、さりげなく出血をぬぐいながら、何事もなかったようにカクテルをメイクし、自然に振る舞いつづけた。

10分間で10杯のカクテルを創作しなければならないこの“Against the Clock”チャレンジで、金子さんは20秒を残して余裕のフィニッシュ。

つくり上げたカクテルの味もクオリティも納得のいくものだったという。

「その後のチャレンジも緊張しなかったといったらウソになりますが、きちんと周りを見る余裕もあり、落ち着いて、自分の力を最大限発揮できたと思います。南アフリカに来るまでにやるだけのことはやってきたので、実をいうと、大会中は1回も練習しませんでした(笑)」

「毎晩開かれるパーティやイベントにも必ず参加しました。普段はそんなに食べないのに毎日3食しっかり食べて、お酒もフツーに飲んでましたね。それがいいかどうかは別にして、日々積み重ねてきたものがあったので、逆に現地ではじたばたせず、ワールドクラスを楽しもうと心がけました」

トップ6の6名は大会中にこんな撮影も。残念ながらビーチで遊ぶ時間はなし!

さて「ワールドクラス グローバルファイナル 2015」は、2015年8月31日から9月4日にかけて、南アフリカ共和国で開催された。

同国の厳しい持ち込み制限や、世界各国から関係者が集まることを考慮し、選手へのブリーフィングやオープニングセレモニーなどは事前にヨハネスブルグで行われ、その後、大会のチャレンジ自体はケープタウンに移動してから繰り広げられた。

(ちなみに金子さんは8月26日に地元奈良を出発し、28日にヨハネスブルグ入りしたそう)

今年は総勢約2万人のバーテンダーが予選に参加し、各国の予選を勝ち抜いた54ヵ国54名のトップバーテンダーが南アフリカに集結。

まず3日間で、“Against the Clock”“Around the World”“Retro Disco Future”“Street Food Jam”“Night & Day”という5つのチャレンジに挑み、総合得点によりトップ6が選出される。

その後、トップ6のみがファイナルチャレンジ“Cape Town Shakedown”を行い、すべての得点を合計した上で、世界No.1バーテンダーが決定する。

そして、記念すべき9月4日の夜、ケープタウンのシティホールには「ミチト~・カネコ~」の名前が響き渡った。

2015年1月に移転した「LAMP BAR」店内。

金子さんに世界一になることができた理由を尋ねると「いい意味で、吹っ切れたからではないでしょうか」という返事が返ってきた。

聞けば、それまでの金子さんはコンクールが近づくたびにイライラしたり、ナーバスになったり、大会中もひとつのミスで大きくリズムを崩してばかりいたという。

そんな金子さんがなぜいい意味で吹っ切れ、世界大会でも終始落ち着いていられたのだろうか?

一体、金子さんにどんな変化があったのだろうか?

その理由に迫るべく、まずは金子さんのバイオグラフィーから紹介していこう。

金子さんは奈良県生まれの奈良育ち。

20歳の時に先輩に連れられ、和歌山の有名オーセンティックバー「BAR TENDER」に飲みに行く機会があった。

「そこで飲んだモスコミュールが、今まで飲んでいたモスコミュールとまるで違って、衝撃的だったんです。店自体もバーテンダーの方の佇まいも素敵でした。こんなバーで働きたいと思って、直談判に行き、3か月後には『BAR TENDER』で働かせていただくことになりました」

将来的に生まれ育った奈良で独立しようと考えていた金子さんは、師匠の勧めもあって、「BAR TENDER」と並行して奈良の「Bar OLD TIME」でも働くことに。

そして2011年12月10日、念願の自らのバー「LAMP BAR」を開業した。

2015年1月には、現在の場所に店を移転。

12席だったバーは26席に増え、同時に金子さんの世界観をより色濃く反映した造りとなった。

シックなイタリア製レザーカウンター、バックバーに鎮座するポットスチル、自ら買い集めたアンティークの数々……。

年代物のトランクを埋め込んだ秘密の扉の奥には、遊び心あふれるスピークイージーバーも控えている。

「世界中からお客さまが来た時に『地方都市なのに、こんなすごいバーがあるんだ!』とびっくりしてもらいたいんです。地方の小さなバーですが、常に世界を意識してやっています」

金子さんは小さいと謙遜するものの、26席のバーをたった一人で回しているというから驚きだ。

実はトランクがはめ込まれた壁の奥に、スピークイージーバーが潜んでいる。

そんな金子さんの「ワールドクラス」への参戦は2014年から。

それまではNBA主催の「全国バーテンダー技能競技大会」に絞ってチャレンジしていたという。

「もう何年も練習を積み重ねてきたのですが、まったく勝てませんでした。今年が最後と思って挑んだ年も結局ダメで……。かなり落ち込んだのですが、ちょうどその2週間後に『ワールドクラス』の締切があったんです」

「2010年には地元・奈良の渡邉(匠)さんが優勝し、世界第9位に。前年の2013年には同じく奈良の宮﨑(剛志)さんが優勝して、世界で総合第3位。こうなったら、奈良の後輩として次はオレがやってやろう、みたいなことを勝手に思ってしまいました(笑)」

運命の糸に導かれるように、金子さんは「ワールドクラス」初参戦にして、「ジャパンファイナル」の10名に勝ち残った。

しかし世界への切符にはもう一歩手が届かず、2014年はファイナリスト止まりに終わった。

「『ワールドクラス』はその名の通り、世界基準、グローバルな視点で繰り広げられる大会です。奈良の小さなバーでやっている僕には“世界基準の視点”が足りなかった。そこからは普段の営業の中でも、世界を意識しながらバーテンディングに取り組むようになりました。店を移転・拡張したのも、より世界を意識したバーにしたかったからです」

“Around the World”チャレンジで金子さんが披露したカクテル「The Beginning」。生命誕生の地とされる南アフリカとブレンデッドウイスキーを誕生させたジョニーウォーカーをイメージした一杯。

例えば、ジェリー・トーマスやハリー・ジョンソンが著した往年のカクテルブックを読み漁ったり、NY「PDT」のジム・ミーハンが来日すると聞けば、セミナーに参加し、世界のトレンドを間近に感じる機会を得た。

また2015年1月に店を移転・拡張するタイミングで、なんとか無理やり時間をつくってシンガポールも訪れた。

そこで、過去に「ワールドクラス」に出場したバーテンダーが在籍する「28 Hong Kong Street」や「Jigger & Pony」をはじめ何軒ものバーを視察し、世界のトレンドを自分の肌感覚でつかみ取ろうと試みた。

店でもそれまではあまり使わなかった卵白や香りづけ用のアトマイザーを試したりしながら、日々のバーテンディングが「ワールドクラス」に繋がることを信じて、毎日の仕事に向き合った。

すべては「ワールドクラス」で勝ち抜くために。

とはいえ、この一年は、金子さんが思い描いたような練習がなかなか叶わなかったという。

「店を一人で回しているので、毎日の営業で手いっぱいになり、思うように練習する時間が取れませんでした。そのうえプライベートで子供が生まれ、1月には店の移転も決まり、もうてんやわんやでした(笑)」

「そういう忙しさの中でも、世界を意識しながら、工夫して練習を続けてきました。と同時に、忙しい毎日が積み重なることで、精神的になにかが吹っ切れたんです。もう変に緊張してもしゃあない。自分がやれることはきっちりやってきたし……、という感じで、いい意味で、前向きに開き直ることができたんです」

そんななか、2年連続で「ワールドクラス ジャパンファイナル」に勝ち残った金子さんは、4チャレンジ中3つを制し、堂々日本一の座に!

日本代表として、「ワールドクラス グローバルファイナル」の切符を手に入れたのだ。


後編へつづく。



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