竹鶴アンバサダーと考える
北海道流、大人酒の愉しみ。
<前編>

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竹鶴アンバサダーと考える
北海道流、大人酒の愉しみ。
<前編>

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野田浩史さん by「オーセントホテル小樽 キャプテンズ・バー」

いよいよ佳境を迎えるテレビドラマ『マッサン』。竹鶴さんへの思いを抱き、「竹鶴アンバサダー」として活躍する北海道のバーマンが満を持して登場!「日本ウイスキーの父」から学んだ、バーテンダーの心得とは?

文:Ryoko Kuraishi

夏に刊行されたばかりの野田さんの著書『マッサン流「大人酒の目利き」』(講談社α新書)。竹鶴氏とリタの物語から、ドラマの見どころ、自らが考える「町おこし」の極意まで、さまざまな側面から風土が育む酒の魅力を伝えている。

ニッカウヰスキー創業者、「マッサン」こと竹鶴政孝氏。
彼のウイスキー造りへの情熱と夢を追いかけているドラマが、現在放送中の『マッサン』(NHK)である。


日本で初めてのモルト蒸溜所を建設した後、ウイスキー造りを学んだ本場・スコットランドの気候風土を求めてたどり着いたのが、北海道・余市であった。
北海道での日々を描く「余市編」は1月17日よりスタート、ドラマはいよいよ佳境へさしかかる。


「余市編」の舞台となるニッカウヰスキー余市蒸溜所から、バスでおよそ30分。
小樽市内にある「オーセントホテル小樽」のメインバーでチーフバーテンダーを務める野田浩史さんは長年、竹鶴氏を「酒の師」と仰いできた。


全国のバーテンダーや酒類業界関係者を余市蒸溜所へ案内すること、200回以上。
昨年には「竹鶴アンバサダー・オブ・ザ・イヤー」の称号を授与され、竹鶴氏とニッカウヰスキー・ブランド、およびこの地の魅力をアピールすべく活動している。

余市は積丹半島の付け根にある、山に囲まれた漁村である。リタの故郷・スコットランドを思わせる冷涼な気候と風景、ふんだんなピート、ピートで濾過された清冽な水が竹鶴氏を惹きつけた。(写真提供:余市観光協会)

小樽市民の野田さんにとって余市は隣町になるが、同じく小樽出身の父親が隣町で造られるニッカのウイスキーを愛飲していたこともあり、子どものころから竹鶴氏やニッカを身近に感じていたという。


「竹鶴さんと彼の夢を支えたリタの物語は、地元ではよく知られていますが、竹鶴さんが酒造りにおけるレジェンド的な存在であることを実感したのは、バーテンダーの世界に足を踏み入れてからでした」
その人柄を知れば知るほど、ウイスキーに賭ける情熱に圧倒された。


彼の姿勢や思想を多くの人に知ってもらいたいと、長年にわたり私設「竹鶴大使」として余市蒸溜所に関わってきた。
竹鶴氏が造ったウイスキーのPR、竹鶴アンバサダー講習会の準備、自らが所属するバーの一角に「竹鶴博物館」を設えるほど。

13万㎢を超える広大な敷地を誇る余市蒸溜所。野田さんはここを「ウイスキーの聖地」と呼ぶ。(Photo by Hiroshi Noda)

さまざまな国柄の人々が行き交うホテルのバーテンダーは、「街の外交官たるべし」が、野田さんの持論である。
地元の人間には、外からもたらされた洗練された情報を伝える。
外から訪れたツーリストには自分たちの街の魅力をわかりやすく案内する。


そんなとき、野田さんはよく竹鶴氏の言葉を借りて北海道の風土気候やこの地が育んだ酒や食の魅力を語るのだとか。
酒と余市の風土を誰よりも愛し、理解していた竹鶴氏の言葉には、学ぶべきものが多いという。


「1934年に余市に蒸溜所を建てた竹鶴さんは、みんなの前で『風の味のウイスキーを造るんだ』と言ったそうです。
余市湾からの潮風は山肌にあたり、川面で冷やされて霧になる。
その霧はウイスキーを寝かせる樽に自然にしみ込み、原酒に注がれていきます。


それが北海道・余市ならではの味わいを醸すわけですが、その様を竹鶴さんは『風の味』と表現したんですね。
こうした竹鶴さんの思想や哲学、感じ方に触れる度、バーテンダーに求められる有り様や理想のサービスを突きつけられる思いがします」

蒸溜所内の見学ツアーで人気の蒸溜棟。蒸溜釜は世界でも類を見ない石炭(!)直火炊き。

野田さんが竹鶴氏を尊敬するいちばんの理由は「新しいものを無からつくり出したこと」。
国産の、本物のウイスキーを造ったことはもちろん、余市の街に新しい雇用を生み出し、ウイスキーを媒介に様々な人と人をつないでいった。


それはそのまま、「酒造りは人の心に残すもの」という竹鶴氏の言葉につながる。


土地の自然が育んだウイスキー。
そのウイスキーでつながる人間関係。
「本物だけを、ただ誠実に」とこだわったからこそ、それらはそのまま時代を超えて余市の地に深く根を張ったのである。


竹鶴氏を尊敬するアンバサダーたればこそ、その言葉をただ伝えるだけでなく、彼が感じたであろう土地やウイスキーの魅力を自らの言葉で語らなければならない。

野田さんが「ウイスキーという命の水の源」と考える余市川。「余市湾から吹く潮風、ピートの存在、そしてこの余市川があってこそ、竹鶴さんのウイスキーは生まれた」。(写真提供:余市観光協会)

「ホテル・バーテンダーであり竹鶴アンバサダーである私の使命は、多くの人に余市のウイスキーに興味を持ってもらうと同時に、余市やここ、小樽へ足を運んでいただくことです。


ですから、私が所属するホテルと余市蒸溜所へのツアーをセットにした旅のプランの開発などもお手伝いしています。


たとえば乗馬が得意なリタが馬を駆って出かけ、鮎を釣った川縁や、竹鶴さんを魅了したキャンベルタウンに似た風景ですとか、一般的なツアーでは見ることのできない風景をご紹介したいですから。
夜には私どものバーで、リタにちなんだカクテルやニッカウヰスキーと道産の食材を使ったオリジナルカクテルなどをお楽しみいただきます。


視覚、味覚、嗅覚……さまざまな感覚に紐づいた体験は、忘れ得ぬ思いでになるはずですから」


「街の外交官」として、地元の魅力を多彩なコンテンツで広めようと奮闘する野田さん。
後編では竹鶴氏の姿勢に学び、「北海道」にこだわって町おこしに尽力する野田さんの、もう一つの顔をご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

オーセントホテル小樽 キャプテンズ・バー
047-0032
北海道小樽市稲穂2-15-1
TEL:0134-27-8100
URL:http://www.authent.co.jp

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