
PICK UPピックアップ
ビールの真の旨さとは?
クラフトビール最前線!
<前編>
#Pick up
青木辰男さん from「麦酒倶楽部 ポパイ」
文:Ryoko Kuraishi
壁面にずらりと並ぶタップ、その数およそ70種!店内の黒板やポップで、その日のお薦めの銘柄をチェックすべし。Photos by Tetsuya Yamamoto
今年、創業29年目を迎えた「麦酒倶楽部 ポパイ」。
クラフトビール界きっての古株パブである。
カウンターには70種のハンドポンプが並んでおり、全国のブリュワリーから取り寄せた厳選のクラフトビールがすべて樽生(!)で楽しめるという。
そのオーナー、青木辰男さんは「ジャパンクラフトビアパブ協会」顧問にしてNPO法人「日本の地ビールを支援する会」理事長。
二十年余をクラフトビールに捧げてきた。
ここで日本にクラフトビールが根付いた背景を振り返ってみよう。
1994年の酒税法改正によって全国に地ビールブームが吹き荒れたことは、ビールジャーナリストの藤原ヒロユキさんのインタビューでも触れた通り。
多くのブリュワリーが生まれたが結局、現在まで生き残ったのは200社に満たないと言われている。
オープンは1985年。当初からクラフトビールを扱っており、多数のメディアで紹介されてきた。
青木さんいわく、「当時のいわゆる『地ビール』は地元の名産の素材を使った『地産地消』あるいは『町おこし』的なものだったり、あるいはテーマパーク的な施設を売りに、大手と同じような内容のビールを造っていたりと、迷走していた感はありますね。
また、多くのブリュワリーが米国で起きた地ビールブームを理解しておらず、『ビールと言えばドイツ』という考えから、ドイツのビールにヒントを求めたという事情もあります。
その結果、日本の地ビールは本来のクラフトビールとは全く異なる方向に進んでしまったんです」。
青木さんほかビアパブのオーナー有志たちが「上質な手造りビールを広めていこう」と理想を掲げ、あらためて「クラフトビール」の定義付けを行うことにした。
2000年ごろのことである。
「定義づけといっても、製造量や細かいルールで縛るものではないです。
米国のクラフトビール・ブームを背景に、造り手がきちんと製造過程に関わっていて『工業製品』とは一線を画したビールを、そうでないローカルビールと区別しようと考えたんです」
当時は「5年くらいでクラフトビールが広まると思っていた」という青木さんのこと、現在のクラフトビール・ブームをさぞや歓迎しているかと思ったら、「ブームといっても一過性のものだから」と現在の盛り上がりを冷静に眺めている。
「ポパイ」自家醸造の銘柄、「ゴールデンスランバー」以外にも、ここでしか飲めない銘柄が。
「いまはクラフトビールに代わる目新しいものが出てこないから、盛り上がっているだけ」と、ブームの裏を解説する。
「お客さんもとりあえず店に入るし、新しい銘柄を試してみてくれる。
それで『ブーム』だといっても、こちらの実感としてはブーム前と少しも変わっていないというのが正直なところで」
現在、日本のマーケットにおけるクラフトビールのシェアは1%と言うけれど、それは発泡酒など新ジャンルの飲料をのぞいた数字で、ビール類全てを含めたシェアは実質、0.5%くらいと言われている。
大手のビール類の出荷量はおよそ550万キロリットルで、その約半数が発泡酒、新ジャンル類で占められている。
対してクラフトビールの出荷量は、ビール免許、発泡酒免許を合わせても3万キロリットルに満たない。
「もっとたくさんの人に飲んでもらうためには、まずはスーパーや量販店に並ぶようにならなくてはいけませんよね。
そのためには(クラフトビール大手の)ヤッホービールやコエドビールクラスがあと10社くらい出現しないとね」
そもそもマーケット自体が小さいのだが、さらに複雑な事情が絡み合い、日本におけるクラフトビールの可能性を狭めている。
こちらは新潟県にある「ストレンジ ブルーイング」。今年6月に醸造を始めたばかり。中央は元・日本酒の醸造職人であるブルワー、藤木龍夫さん。醸造量が安定しないため、1日15リットル樽1本のみの限定提供だ。
パブなど飲食店や小売店に向けてクラフトビールに関する知識を高める機会が圧倒的に少ない。
クラフトビールをテイスティングし、そのフレーバーを適切に表現できる人材も不足している。
モルトやイーストなどの原料はそのほとんどを輸入に頼っており、そのクオリティがあがらない。
またこれらを提供するメーカーの販売システムにも問題があり、マイクロブリュワリーは原料確保に苦労している。
さらに、日本には日本酒で長年、培われて来た発酵のスキルがあるのに、それがビール造りにまったく生かされていない。
もちろん造り手の問題もある。
地ビールブームが始まった頃、ブリュワリーのオーナーたちがビール造りの参考にしたドイツ、あるいはムーブメント発祥の地、米国は、乾燥、冷涼な気候に恵まれており、ビール造りに適した風土である。
一方、日本はカビの文化。
米国の造り方をそのまま持ち込んでも、酵母よりもカビやその他のバクテリアが勝ってしまうような風土・気候だ。
こちらが青木さん渾身の「ゴールデンスランバー ペールエール」9オンス¥630〜。
「そんなこんなで日本らしい原料とは、醸造方法とはと模索しているうちに、ビール造りに情熱を燃やす日本酒の醸造職人と出会ったんです。
すっかり意気投合しましてね、『ビール酵母の純粋培養に挑戦してみよう!』と盛り上がってしまったんです」
日本のクラフトビールが伸び悩んでいた理由の一つに、酵母の品質管理がおろそかにされている背景もあるとにらんだ青木さん。
早速、故郷である新潟県南魚沼市に自らの醸造所、「ストレンジ ブルーイング」を設立した。
後編では、試験醸造を行っているストレンジ ブルーイングのコンセプトをご紹介。
果たして、青木さんが真に求めるビールとは?
ビール造りの極意を、青木さんに伺う。
後編に続く。
SHOP INFORMATION
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麦酒倶楽部 ポパイ | |
130-0026 墨田区両国2-18-7 TEL:03-3633-2120 URL:http://www.lares.dti.ne.jp/~ppy/ |