若きミクソロジストが
バーの未来を輝かせる!<前編>

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南雲主于三さん by「コードネーム ミクソロジー」

学生時代に思い描いた夢を追いかけ、海外で修行を積んだ後に若干28歳で自らのバーをオープンさせた南雲主于三さん。ミクソロジストとして「ミクソロジー」の名前に込めた思いとは?

文:Ryoko Kuraishi

イタリアンベースの食事も充実している。奥にあるテーブル席では料理もゆっくりと味わえる。Photos Tetsuya Yamamoto

大学卒業後、海外生活を経て27歳までにミクソロジストとして独立。
2年でバーオーナーとなり、さらに2年以内に2店舗目をオープンする……。
20歳のときに描いた人生設計どおり、現在は「コードネーム ミクソロジー」「コードネーム ミクソロジー アカサカ」の2店のオーナーミクソロジストとして活躍する南雲主于三さん。


将来はカクテル研究所の設立、サテライトの学校運営、そして情報発信のためのメディアをたちあげるなど、さらに多角的なプロジェクトを構想中だそう。
そんな南雲さんのミクソロジストとしての思いや経営理念、バー業界に携わる者としていかにバー文化を向上させるべきか、強い信念に裏打ちされたフィロソフィをたっぷりと伺おう。


ご存知の通り、ミクソロジーとは「Mix(ミックス)」と「〜logy(論)」を組み合わせた造語である。
3年前、自身初となる店舗のネーミングに、あえて「ミクソロジー」と掲げた。
「ミクソロジーと謳う以上、この『ミックス』を自分なりに突き詰めたいと思いました」と南雲さん。
現在では一般にもだいぶ認知されてきたとはいえ、3年前に「ミクソロジー」を謳うのは冒険だったのでは?
「初めての店舗ですから名前に自分の思いをこめつつ、『名は体を表す』と言うようにミクソロジーを背負うという覚悟を看板で表したつもりです」


ただミクソロジーのカクテルを提供するだけではない、
そこには南雲さん流「ミクソロジーの哲学」というべき信念も表明されている。
「二つ以上の何かが合わさって生まれるセレンディピティ、それを感じられる場所として『ミクソロジー』という名前に想いを込めました」

無垢材のカウンターにはフルーツケースが置かれており、フレッシュなフルーツがあしらわれている。好みのフルーツを選んでカクテルを作ってもらおう。

ミクソロジーとの出合い

ミックスするのは酒だけではない。
さまざまな文化や時代、あらゆる要素が融合して生まれるシナジー。
とすれば、そのシナジーは新しい人間関係であったり価値観であったりするはずだ。
そこは飲むだけではなく、新しい出会いの場であり自分を静かに見つめる場所であるかもしれない。
「そもそもバーって、そういう場所ですから。
セレンディピティが常に生まれる場所でありたいという願いも込められています」


そもそも南雲さんが本格的にミクソロジーの道を志したのは、若かりし頃に出合った一冊の本がきっかけだった。
それは世界的なミクソロジストであるベン・リードが著した「クール・カクテルズ」。
12年前、まだ南雲さんが大学生だった当時はインターネットでの情報収集も限られていたから、
新しい知識や情報を求める先は自ずと本になる。


「ミクソロジーの走りとして当時は珍しかったフレッシュなフルーツを使ったカクテルが紹介されていて、
ストロベリーミュールやチョコレートミントマティーニ、ウォッカエスプレッソなど、その斬新なアイデアに衝撃を受けました」
既存のカクテルとはひと味違う世界を垣間みて、ハーブの組み合わせや素材同士のミックスの妙に興味を持ち始めた。
調べるほどにカクテルの奥の深さに魅了され、バーの世界に吹き始めた新しい潮流を感じた。


すでにバーで働いていた南雲さんだが、そうしたカクテルを作る技術やバーテンダーの姿にも魅了され、本格的にのめりこんでいく。
本を読んで仕入れた知識やひらめいたアイデアを実践したいと、とにかくひたすら作っては飲む毎日。
そこで得たお金を貯めて、気になるバーへも足を運びつづけた。
結果的にこの時に見たもの、読んだもの、飲んだものが現在も自身の1000を超える「ひきだし」となって活きている。

ベン・リードによる『クール・カクテルズ』は南雲さんに多大な影響を与えた一冊。ミクソロジーの走りとも言うべき新しいアイデアを美しいビジュアルで紹介している。

「もうひとつこの時に学んだことは、バーテンダーは技術者、クリエーターであると同時に
仕入れ、経理、教育、マーケティングなどのマネジメントの能力も必要とされ、
サービスマンとして一流の接客術も求められ、
ときにカウンセラーやアドバイザーとしてゲストの心に寄り添うようなおもてなしも必要になるということ。
ジェネラルでもあり専門的でもある多角的な能力が必要なんですね、そこにますます面白さを感じました」


いずれは自らのバーを持とうと考えたとき、まず始めに頭をよぎったのは「海外経験」だった。
「世間にも自分の中にも、海外に対する壁というか固定観念があったからこそ
海外経験を積んでボーダレスのマインドを手に入れなくてはと感じました。
商売をするからにはやっぱり世界を視野にいれて挑戦したい、
そのためにはある程度、異国で暮らして経験値を上げなければ、と」


社会経験を積むために1年だけサラリーマン生活を経験。
退職後は海外生活の資金を調達するためにショットバーや大バコのレストランバーに勤め、渡英の準備を進めた。
「27歳で独立すると決めていたので、とにかく英語圏の国で1年間だけ働くことにしました。
イギリスはワーキングホリデーの制度があって酒の文化があるし、
スコットランドにも近い。
なによりもベン・リードやジェイミー・ウォーカーを輩出した国だから」

今年4月、「コードネーム ミクソロジー アカサカ」で行われたどりぷら会では、ニトロリキッドカクテルを披露してくれた。華麗なパフォーマンスの数々に、場はにわかに「ミクソロジー・ワークショップ」の趣きに。

NOBUからXEXへ

渡英当時、英語はほとんどしゃべれなかった。
それでも「自分にできることもある」と考え、NOBUにアタック。
2回断られたにも関わらずあきらめずにアタックして、
正式採用を勝ち取ったというから恐れ入る。
NOBUではバーではなくキッチンで働いたが、ここでの経験もミクソロジーには大いに役立った。
食材やキッチンツールについて勉強できたし、バーという現場から一歩離れてイギリスの酒や食文化を感じることができた。
休みの日には本場の味を体験すべく、精力的に動きまわった。


一年弱でNOBUを退職、残りの1ヶ月半で北欧・東欧以外のヨーロッパ全土をユーレイルパスで巡り、帰国。
念願の独立に向けて動き出そう……とした矢先、縁あってXEX TOKYOのオープンに携わることになる。


「タイムズのベストバーに選ばれるような店にしよう!そんな目標で臨みました。
そのためにもカクテルは完璧なものをサーブしたいし、
既存のものではだめだと感じて、大バコでは今までにない新しさを追求しました」


結果、生まれたのがハーブやフレッシュフルーツ、ハーブティーを多用した「新しい」カクテル。
現在、南雲さんが店で出しているレシピの原点とも言えるだろう。


「その当時のミクソロジストたちはシロップやリキュールなど人工添加物を極力使わないスタイルでした。
これはベン・リードらが作ったフルーツカクテルのレシピと同じです。
僕が考えるカクテルもそこをベースに、そこから更なる新しさ、おいしさを追求しようと考えました」

NOBUを退職後、ヨーロッパ各地を巡り本場の味を体で覚えた。ユーラシア大陸最西端、ポルトガルのコカデロカ岬にて。

新世代のミクソロジーを東京で実現

新しさ、おいしさを突き詰めたオリジナルのレシピを新天地にて積極的にサーブするにあたり、「日本で求められる新しさの目安も教えてもらった」と南雲さん。
クラシックと目新しさ、どちらをも求めるXEX TOKYO の顧客たちにこうしたカクテルはいたく支持された。


南雲さんの店で人気のフリーザージントニックやラズベリーチリマティーニなどは、この時に生まれたレシピである。
5年を経ていまだ人気の理由は、飲み手の視点に立ったモノ作りの結果ではないだろうか。


「どんなカクテルが支持されるかというと、
お客様にわかりやすい名前と素材を使うこと。
イメージが伝わりやすいこと。
好奇心を生む組み合わせであること。
つまるところ、お客さまが想像したものが出てきて、かつ想像以上においしことが大切なんです。


お客さまがどんな想像を巡らすか考えたとき、半歩先くらいの提案がちょうどいいんですね。
一歩先では理解されません。
ただし半歩先を提案するためには、一歩先、二歩先のひきだしをたくさん持たなければいけない」


その「半歩先」を提案するために、たとえばフルーツは素材の良さを引き出すべく、フレッシュな状態はもちろん、コンポートやコンフィチュールにしてみたり、
ベースとなるスピリッツもハーブやスパイスはもちろんのこと、樹皮や笹、ベーコン、トリュフなどさまざまなインフュージョンを用いている。
甘みではなくフレーバーのためにネグローニシロップ、バーボンシロップやギネスシロップなどシロップを使い、味の立体化にもこだわる。
そして当時のミクソロジーと最も異なる点は、最先端の素材や機材の存在だ。
スモークガン、ウルトラミストスプレー、真空調理機、アランビック蒸留器、エスプレッソマシーンなどなど、
これらの機材を積極的に用いて作ったカクテルは「全く新しいミクソロジーカクテル」として多くの顧客に支持されている。


「カクテルを様々な角度からとらえ、分解し、再構築していく作業は料理に近いものがあります。
この視点が『新しさ』につながったと自負しています」


後編に続く。

SHOP INFORMATION

コードネーム ミクソロジー
東京都中央区八重洲1-6-1
第三パークビル2F
TEL:03-3270-5011
URL:http://r.goope.jp/spirits-sharing/t_57110

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