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今月のバーテンダー

業界屈指の知識量を誇る酒屋、
田中屋・栗林幸吉さんが語るゼン&ナウ。
<前編>

栗林幸吉さん/目白田中屋

17.11.01

レイアウトも素敵な『CRAFT SPRITS』。「アマゾンで買えたりするのでしょうが、現地の本屋で見つけるとつい、欲しくなってしまう」。

試飲したシングルモルトの数は5000以上、訪れた蒸留所の数は300を超えるという目白田中屋の栗林幸吉さん。
その豊富な知識から業界では知られた存在で、近年はテレビへの出演などで一般向けにウイスキーの魅力を説いている。
そんな、業界のインフルエンサーともいうべき栗林さんに、最近気になっていること、興味のあることを伺ってみよう。


ティーリング蒸溜所を訪ねるアイルランドへの旅から戻ってきたばかりという栗林さんを捕まえたのは、10月も半ばのある日のこと。
田中屋のバックヤードで行われたインタビューは、種々のシングルモルトをテイスティングしながらのトークとなった。
台湾の新鋭、「KAVALAN」をいただきながら栗林さんが見せてくれたのは、現地の本屋で見つけた『CRAFT SPRITS』(著:Eric Grossman)という洋書だ。

国境も酒類も超えるクラフトの魅力を詰め込んだ一冊。

「クラフトは世界的に見てもビッグトレンドですよね。
面白いのは、『クラフト』に何の定義もないこと。
だから種類も国も規模もさまざまで、著者もそこに注目しているようです」

1700年〜1800年前後にかけてヨーロッパで多くの蒸溜所が誕生し、現在のシーンにも繋がっているわけだが、栗林さん曰く、これだけの蒸溜所が群雄割拠するのは200年ぶり。
現代の「誰にでもチャンスがある」という風潮がはかつてなかったことだ。


「作り方なんてYou Tubeを見ればわかる時代、インターネットのおかげで材料も道具もレシピも軽々と国境を越えるようになりましたよね。
経済が硬直したことで酒類免許を発行し、経済特区を設けることで経済の活性化を図ろうという国の後押しもある。
そんな超変革の時代を象徴するのがクラフトブームだと思うんですよ」


そんな中で栗林さんが注目するのは、「続けること」に意識を持った造り手たち。
「この時代、始めることはそんなに難しいことじゃない。
ただ続けるためには売れ続けなければいけない。
そういう意味で、造り手には意識の高さや相応の覚悟が必要なんだと思います」

アイルランドの小さな町、ゴルウェイのストリートで見つけたビッグバンド。「みんなビール片手に聞きいっていて、改めて音楽と酒の街だって実感しました」。

例えば、と名前が挙がったのが、秩父蒸溜所の肥土伊知郎さん、厚岸蒸溜所の樋田恵一さん、アルマニャックのドメーヌ・ボワニエル、コニャックのポール・ジャン・ジローさん、いまは亡きジャン=ポール・メッテさんと後継者であるフィリップ・トレヴァーさん。
焼酎の旭万年に日本酒の玉川、愛媛柑橘リキュールのリモーネ。
ラムのピエール・ラム・ブラン、テキーラのドン フリオ、アブサンのアルテミジア、キナリキュールのクレメンティ キナ……。


「アルマニャックの世界なんて、100年以上も前からクラフトを貫いている作り手がゴロゴロしているわけです。
彼らに共通しているのは、見据えているゴールが遠いこと。
造り手たちがバーやレストランに頻繁に足を運び、積極的においしいものを探している。


それから覚悟ですね。
ボワニエールなんて、今年はいいブドウができなかったからアルマニャックを造らないと言っていました。
これではうちのアルマニャックにはならないから、と。」

栗林さんが大好きだというクレメンティ キナを訪れた際のアルバム。ものづくりに対する真摯な姿勢に感銘を受けた。

スコッチでは、テレビの収録で訪れたアードナムルッカンも面白かった。


「アードナムルッカンはエジンバラ郊外に広大な敷地を持っていて、そこで麦を育てているんです。
やろうと思えばそこで蒸溜もボトリングもできるのに、あえて西側のものすごく辺鄙な場所に蒸溜所を建ててわざわざそこに原材料を運び込む。


聞けば、西海岸のあの水や風土が必要なんだと。
おまけに7年以上熟成させたてものでないと市場に出さないと言っている。
その代わり、温度管理しやすいステンの発酵槽も持っていて、そちらで3年熟成させたものをブレンド会社に売って運転資金に当てるのだそうです。
自分たちが本当に造りたいものを実現するための、こだわりを貫く勇気と割り切る覚悟。


ジローさんは『ここで生きていくんだという、諦めと開き直りが唯一の個性を生む』とおっしゃっていましたが、アードナムルッカンもしかり。
その人しか造り出せないフラッグシップを追求しているような、意識の高い造り手を応援していきたいんですよ」


世の中は新しいトレンドに飛びつきがちだけれど、真価が問われるのは飽きられてから、と栗林さん。
「飽きられても、それでも個性を守り続けることができるのか。
もちろん、新しいものをどんどん造ってもいいんです。
でもフラッグシップはやっぱり大切に守っていって欲しい」

店内の展示スペースには酒にまつわる品々がギャラリー的に飾られている。こちらは来日した際のジローさんの思い出を飾ったコーナー。

「あとは僕たち酒屋ががんばること。
僕たちが売らないと造り手だって続けられない。
クラフトがどうとかトレンドに関係なく、自分がこれだと思うものや飽きられているけれど個性がある造り手を大切にしていきたいですよね」


とはいえ、戦国時代のように次々と有能な戦国武将(造り手)が現れる、ノージャンル&ノーボーダーのこの時代にワクワクしていることも事実だ。
10年後に現在を振り返った時、2010年代ってものすごく面白い時代だったと思い返すはず、とも。


「そういえば30年前、ウイスキーの世界にすごくワクワクしていたことを思い出しました。
シングルモルトがどんどん出てきて、アイラモルトを輸入するようになって。
からっきし売れなかったけれど、だからこそたまに売れるとすごく嬉しくてね。
時代って必ず前の事象を超えようとするでしょ?
これからの時代にどんな造り手が現れるのか、楽しみですよね」


トークの後半は、ラフロイグ1967をいただきながら(!!)さらにディープな話へ。
理想の酒屋のこと、現代のバーシーンに思うこと、現在の店づくりに影響を与えた古谷三敏先生(『レモンハート』(ファミリー企画))のことなどを語っていただいた。


後編に続く

Bar Information

目白田中屋
 
東京都豊島区目白3-4-14
TEL:03-3953-8888
URL:http://tanakaya.cognacfan.com

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