遊び心と物語を秘めた、
美しいバーツールを求めて。
<後編>

PICK UPピックアップ

遊び心と物語を秘めた、
美しいバーツールを求めて。
<後編>

#Pick up

中嶋潤一郎さん by「バーツール ナランハ」

30代でバーと酒文化の魅力に開眼した「ナランハ」の中嶋潤一郎さん。少しでも使い勝手のいい、そして面白い道具をさがして、東へ西へ。そこには「遊び心や物語が息づく場こそが、人生を豊かにしてくれる」という哲学がある。

文:Ryoko Kuraishi

ナランハでは経費でのバー巡りを認めている。それぞれが詳細なレポートを提出、スタッフ全員で情報共有を図る。

現在はバーツール、ジャグリング、そしてバルーンと3つの独立した部門で、それぞれ専門スタッフが日夜、奮闘しているナランハ。
それぞれの部門でナランハのオリジナル商品を扱っているが、ただ道具を売るだけでなく、より使い勝手がよくなるよう、使う現場がより楽しくなるよう、日々勉強や商品開発に力を注いでいる。


とくにスタッフ全員が全くの門外漢からスタートしたバーツール部門は、トライ・アンド・エラーの連続だった。
バーツールはもちろん、バーの世界観を少しでも理解したくてさまざまな場所に出かけ、出会い、試し、それらを少しずつ吸収していった。


バーツールを扱うようきっかけになった、フレアバーテンディング。
それはいわゆる正統派の入り口ではなかったかもしれないが、「おかげでどんなはやりモノにも飛びつけるフットワークの軽さが身についたんだと思います」


実際、一部の分野では眉をひそめられるような流行りものであっても、ナランハではよろこんで視察・見学に出かける。
どんなに遠く、あるいは高くついても、勉強代として高すぎることはない。
それが中嶋さんの考えだ。
実際、たくさんの失敗を重ねた経験値が試作に活かされ、使い勝手のいい道具として洗練されていく。

フレアのツールを取扱い始めたころに製作した日本発のフレアバーテンディング詳解ビデオ。Vol1からVol8まであり、各¥4,200

こんな風に、ナランハの道具探求の過程は幅広く奥深い。
海外や国内のどこかで眠っている道具を発掘したり、オリジナルを開発したり、あるいはすでに廃盤になったモデルをもう一度作ってもらったり。
バーテンダーのリクエストに応じて、多くのものを探し、試し、改良を加え、工場と話しあい、そしてたくさんの道具が生まれる。


コンテストやイベントでもお酒ではなく道具ばっかりに目がいってしまのも職業柄か。
「外見とフォルムで『あ、うちのだ』とわかると嬉しいですね。
逆に道具が見えづらいような時は、タイミングを見計らって近くまで行き、詳細にチェックしたりすることも」


そういうわけで、そうした試行錯誤の末にたどりついたさまざまなバーツールが店内にひしめいている。
プロ用しかり、アイデア勝負の楽しい道具しかり。
たとえば、九州の会社が作っている丸氷製作機「氷作」。
その会社とナランハでしか扱っていないレアものだ。
一般的なバーではバーテンダー自らが丸い氷を削るが、バー機能を備えたダイニングレストランでは重宝されるかも?

ありとあらゆる種類のシェーカーが並ぶコーナー。人気はユキワのバロンシェーカー、ゴールドメッキを施したもの。¥4,725〜。「昔はもっと面白いものがあったんですが...」と残念そうな中嶋さん。

あるいは効率とは無縁の商品である「缶クラッシャー」。
缶を一つずつ潰す道具である。
ぺしゃんこにつぶれるが、時間も手間もがかかることこの上ない。
それでもその自由なアイデアととぼけた表情がユニークで、思わず手にとりたくなる名(迷)品だ。


一方でシェーカーのコーナーには50種を超える商品が並ぶ。
「日本で手に入るシェーカーは全てここに揃っている」という本気の品揃えだ。
「昔はハンドベル型とかダンベル型のような遊び心のある商品がたくさんあったんですが、今はほとんど作られなくなってしまいました。
世の中から少しずつ、遊び心という余裕がなくなってきているようで残念ですね」


そう、中嶋さんが大切にしていることの一つに「遊び心」があるんだと、感じさせられた言葉があった。
「僕たちの商売は、多くの人が無駄だと思うところに多大なエネルギーを注いでいます。
でも、それが結果的に人生を豊かにするものになると自負しています。
僕たちの信念は、『合理的でない人生は、より豊かで美しい』ということですから」


ジャグリングの道具にしろ、使い途のない缶クラッシャーにしろ、こだわりのバーツールにしろ、そのアイデアを思いつき、形にしようと悪戦苦闘し、そこに思いをこめ遊び心を託し、それを実用化する。
そのエネルギーこそが美しいと、中嶋さんは感じている。
もしかしたら多くの人はそれらに目をむけないかもしれないけれど、そんな楽しい物語を秘めた道具をいつまでも楽しく使い続ける文化が、この世界に息づいていてほしい。
ナランハのモノ選びの根底には、そんな願いが込められている。

店の前に練習スペースを設け、スタッフみなでフレアの練習に励んだことも。

最後に、ナランハは今後どんな店になっていくのか、どう発展していくのか、中嶋さんに尋ねてみた。


「どんなに小さな家でもいい、僕の大好きな『バー村』に家を持ちたい。
『バー村』のひとかどの存在になりたいとか、そんな大それたことじゃないんです。
この村の一員になって、どんな小さな存在でもいい、何かしらの役割を担いたい。
『なにか道具を探してる?
ナランハに行けば何か面白いものが見つかるかもしれないよ』。
いつかそんな風に言ってもらえる存在になれたら、それこそ本望ですね」


道具の背後に隠された楽しい物語をもとめて。
中嶋さんの道具探求の旅はまだまだ続く。

SHOP INFORMATION

バーツール ナランハ
東京都板橋区板橋1-53-10-1E
TEL:0120-913-477
URL:http://www.naranja.co.jp

SPECIAL FEATURE特別取材