遊び心と物語を秘めた、
美しいバーツールを求めて。
<前編>

PICK UPピックアップ

遊び心と物語を秘めた、
美しいバーツールを求めて。
<前編>

#Pick up

中嶋潤一郎さん by「バーツール ナランハ」

世界のバーツールを扱う名店、ナランハ。30にして初めてバーの魅力に触れたとうナランハ代表、中嶋潤一郎さんにバーの魅力、そして道具選びの醍醐味について自由に語っていただいた。

文:Ryoko Kuraishi

バー業界に少しでも貢献したいと、NBAの賛助会員になっているナランハ。今年6月に開催されたNBA全国大会にも出展した。

バーツール「ナランハ」と言えば、バーテンダーに欠かせないバーツールを、国内はもとより世界各地から厳選して取り揃える専門店としておなじみだ。
この「ナランハ」、もともとはジャグリングの道具を扱う専門店としてスタートしたことはあまり知られていない。
ジャグリングのナランハが、いかにしてバーツールのナランハとして海外のバーテンダーにも注目されるショップになったのか。
今回はナランハの名物社長、中嶋潤一郎さんにご登場いただこう。


若かりし頃にジャグリングに魅了され、日本ジャグリング協会の設立にも寄与したという中嶋さん。
一体どうして、バーの世界にどっぶりはまったのか。
バーとの出合いは今から10年ほど前にさかのぼる。


「2003年ごろのことですが、飲料水であるエビアンのCM製作の現場でスタッフが『ボトルを投げる人』を探していたことから、当時、数少ないジャグリングツール専門店である私たちにお声がけいただきました。
ボトルを投げる=ジャグリングということだったんでしょうね。
うちのスタッフがボトルを投げるパフォーマンスについて広くリサーチしてみたところ、どうやらアメリカでフレアバーテンディングというものが流行りはじめているらしい、という情報を仕入れてきたんです」

海外からも注目されているメイド・イン・ジャパンのバーツール。その質の高さを多くの人にしってもらうべく、イベントにも積極的に参加している。

そのCM製作が縁で全日本フレア・バーテンダーズ協会会長の北條智之さんと知己になった中嶋さん。
フレアの技を間近にしたところ「これは面白い!」とピンと来て、ナランハでもフレアのツールを扱うことにしてしまった。
とはいえ、フレアが一般的ではなかった時代。
国内で道具を探そうにも、なかなか手に入らない。


「ジャグリングの道具も日本では入手が難しかったので、自分で作ったり改良したりしていました。
同様にフレアの道具も当時はなかなか出回っていなくて、案の定、海外で道具を探すことになった。


とはいえ、一体どんな道具が使い勝手がいいんだろうと考えたときに、さっぱりイメージが湧いてこなかったんです。
自分たちも経験者であるジャグリングの道具を探すのとは、わけが違う。
まずはフレアを勉強してみないことには、道具も扱えないな、と」

拠点となっているショップにはモールピックからミキシンググラスまで、ありとあらゆるバーツールが揃っている。

実際にフレアの道具を扱い始めて感じたこと。
ジャグリングとはどう勝手が違うかといったら、使い手がみな、バーテンダーだった。


「ジャグリングの場合、道具と職業が直結する場合って、意外と少ないんです。
でも、フレアの道具に関しては違いました。
いらしてくださるのはみなバーテンダーで、道具を探して来られても必ず、『お酒』の話になるんです。
ジャグリングは自分も経験している分、道具を売るにも苦労はないけれど、お酒の話になるとさっぱりわからない。
どうもフレアの背後にはものすごく深遠な文化なりストーリーがあるようだ、とようやく思い至るようになりました」


それまでバーには足を踏み入れたこともなかったという中嶋さんだったが、「フレア」というドアから垣間みたバーの世界に手招きされ、いよいよ足を踏み入れることになる。
まずは基礎知識だ!
そう感じた中嶋さん、バーテンダーの口から漏れだす「お酒」のストーリーを理解したくて、サントリーが主催するバースクールの研修に参加した。


「お酒の歴史はメソポタミア文明にまでさかのぼる、とかヘミングウェイが愛したカクテルは、なんて逸話がいくつも登場する。
お酒の世界は古くて深いと、学ぶうちにわかったんです。

社内の休憩室にしつらえていた練習用バーカウンターにて、スタッフたちと。(右が中嶋さん)

そして、僕が『すごい!』と感銘を受けたフレア。
ジャグリングの一部門としてフレアを扱い始めたんですが、そうではなくてあくまでも酒文化の中にフレアがあるということを理解しました。
フレアだけがすごいんじゃない、フレアはあくまでも酒文化のone of themなんだ。
もっと勉強しよう!そうしたらきっともっと楽しくなる、そんな予感がありました」


当時、バーツールの多くがキッチン用品の片隅に置かれていた。
使い手であるバーテンダーはみな、こんなに道具に愛着があり一生懸命勉強しているのに、売り手がその思いを共有していない。
その事実に中嶋さん、「バーとジャグリングはどこか似ている!」と共感を覚えたそう。
そんな経緯もあって本格的にバー部門を立ち上げたのが、フレアとの出合いから1、2年がたったころ。
「若くてよかった、無謀だったけれどモノを知らないから、とにかく一直線だったと思います」と当時を振り返る。


一方で、さらに知識を深めるべくサントリーバースクールの長期の講座を申し込んだ。
当時、上田さんや北村さん、毛利さん、岸さんなど錚々たるメンバーが講師として登壇していた。
講義内容に感銘を受けた中嶋さんはほかのスタッフも全員、スクールに通わせたとか。


「もちろん、本来のバーテンディング、お酒の勉強は何年もバーのカウンターで修業して体得するもの。
そういうみなさんに道具を売るのにちょっとスクールに通ったくらいでは、知識も経験もまったく追いつかない。
とにかく、日々勉強あるのみだと」
スタッフみな、少しでもスキルをあげたくて、会社の休憩室に間に合わせのバーカウンターをしつらえたりした。
「会社の領収書でちょっと珍しいリキュールもがんがん買い足して」、スタッフ同士でカクテルを作ったり勉強会を開いたりしていた。

フレアの練習用ボトルもずらり。ベーシックで扱いやすい物から、リキュールの有名メーカーのフレアボトルまでさまざま。

「僕も含め、スタッフはみなド素人からのスタートでした。
普通、バーやお酒が好きな人ってそれなりの基礎知識があると思いますが、僕たちは本当に何もない状態でバーのドアをたたいたんです。
それはまさしく、未知の世界を開く『ドア』で、もしフレアとの出合いがなければ、バーという世界とはいまだ接点さえなかったかもしれないなと思います」


バー独特の流儀を知りたくて、時間があれば積極的にバーに足を運んでいたという中嶋さん。
ちなみに、「初めて出かけたバーはサントリースクールで講師としてお世話になった先生方のバー」だそうで、入門が銀座のオーセンティックなバーだというから驚きだ。


現在はオフィス内が手狭になってしまったため、ナランハ社内の秘密のバーカウンターはなくなってしまったが、スタッフによるバー巡りはいまでも活発に行われている。
「バーテンダーのみなさんは人づきあいも大切にするし、営業のプロフェッショナルであり勉強になることがたくさんあります。
まだまだバーに集うジェントルマンのようにうまく使いこなせていないですが、自分たちなりに多くのことを学んでいるんですよ」


そんな風にバーの世界にどっぷりとはまっていった中嶋さんとナランハ。
次回はバーとの出合いから広がった、ナランハの道具への思いをご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

バーツール ナランハ
東京都板橋区板橋1-53-10-1E
TEL:0120-913-477
URL:http://www.naranja.co.jp

SPECIAL FEATURE特別取材