未来の飲食業界を牽引する?
地元密着型バル登場。<後編>

PICK UPピックアップ

未来の飲食業界を牽引する?
地元密着型バル登場。<後編>

#Pick up

鈴木健太郎さん by「vivo daily stand」

ワインを軸にタパス料理が楽しめるバルでありながら、ハードリカーも充実。リッチとスタッフのキャラクターを活かし、新しいスタイルで展開するvivo daily stand 江古田店の企み。

文:

店長保谷さんのおすすめはシェリー樽のモルト、グレンドロナック。カクテルならアールグレイのリキュールを使ったものが食事にもマッチするのでおすすめ。Photos by Tetsuya Yamamoto

さて、ここは駅から自宅へ帰宅する人が行き交う路地に面した、vivo daily stand江古田店。
3月にオープンしたばかりのこちらは、ワインを軸とした「バル」というスタンスは受け継ぎながらも
ハードリカーのラインナップが充実している点がユニークだ。
20種のタパスや自家製スイーツといったフードを揃えながら、
スコッチウイスキーを中心に40種を超えるウイスキー、30種のリキュールを揃えたバックバーを併せ持つ。


「実を言うと、ここに店を出すまで江古田の土地勘がまるでなかったんです」と鈴木さん。


「でもこの界隈にはミュージシャンが多く住んでいて、強いお酒を飲む文化が根づいている。
バーも多いんですよ。
深めのお酒を飲むにはもってこいの町だと感じて、ここにはハードリカーを揃えてみようと考えました。
たまたまバーテンダーとしてのスキルを持つ人間がスタッフとして加わることになったので、
彼の趣向も取り入れてみて」

ワインの品揃えはシーズナルでがらりと変わる。各店舗の店長が定期的に集まり、試飲会を行って情報交換を行っている。一杯¥600程。

とはいえ「地元密着のコミュニティ」を目指すバルとしては、バーと同じ店作りはできない。
店へ足を運ぶことに対するハードルを下げるような、雰囲気作りやスタッフの接し方が必要になってくる。


「まず、スタッフにはバーテンダーのように一対一の接客ではなく、
店全体を掌握して回していくような接客を心がけてもらっています。
トークはワンフレーズだけ、あるいはワンセンテンスだけ。
そのかわり手だけはいつも忙しく動いているように、これは常に注意しますね。
バリスタはやっぱり動きが命なんです。
スペインの駅の中にあるバルのおじさんなんて、朝から晩までひっきりなしに動いていますよね。
無愛想にエスプレッソを入れ続けていて、その姿が最高にかっこいい。
それがバリスタだし、バルのあり方だと思っています」


江古田店を任されている保谷翔太さんは、かつてモルトバーでバーテンダーを務めていたという経歴の持ち主。
なまじバーテンダーとして経験があるだけに、鈴木さんの言う「相対しない」接客を日々勉強中だ。


ちなみに保谷さんはまだ25歳。
中野店の店長はさらに若い21歳。鈴木さんはスタッフの年齢にこだわりはないようだ。


年齢よりも、気になるのは「バリスタとして人との距離感のとりかたが適切かどうか」。
「『相対しないように』指導すると言いましたけれど、それこそ距離感だと思うんですね。
自然でからっとした、とでもいうんでしょうか。ヨーロッパ的な、というか。
一対一ではなく店全体対一人という接客を考えるとき、
こうした人との距離感が大切になってくるのではないでしょうか。
ごく個人的な意見ですが、関西人はこういう距離の取り方がうまいと感じる」


保谷さんいわく、
「バーテンダーはその店の『顔』であったりするわけですが、バリスタはあくまでも『現場監督』。
それこそお客さんとの距離の取り方が違うなあとは日々、感じます。
でも、そういう違いがあるから面白い。
ついつい相対してしまうクセがついているので、店全体の空気を読むように努力しています」。

女性シェフらしい、優しい味付けが人気の「牛トリッパのトマトソース煮込み」¥400。デリメニューは1皿¥400、「田舎風お肉のパテ」も人気。その他チーズ4種に生ハム、スイーツまでラインナップ。

ところで、表参道のモルトバーのバーテンダーから、バルのバリスタへの転身。
保谷さんがバルに目を向けたのは、
「これからのナイトシーンはお酒とフードのどちらをも楽しめる新しいスタイルが主体になる!」と感じたから。
「食事をした後の2軒目」として活きる従来のバーのスタイルよりも、
いまは「1軒で酒も食も楽しめる」バルに面白さを感じている。
「日常使いの店として楽しんでもらいたいから」という保谷さんは、
オーナーの哲学に共感する部分が多いのだ。



デイリーユースしてほしいから、店内の雰囲気が伝わりやすいよう、ファサードはガラス張りに。
これは他店も同様で、vivo daily standの特徴でもある。
店内にはバルの定義として立派なカウンターがしつらえており、そしてなぜか片隅には地球儀が置かれている。


地球儀?
「僕が地球儀好きというのもあるんですが、見ず知らずのお客さん同士が話すきっかけになれば、という『仕掛け』でもあります。
なぜか地球儀って話のネタにしやすいんですね。
ヨーロッパのバルにはサッカーと言う最強の『仕掛け』がありますが、日本ではなかなか難しい。
僕たちもそういうコンテンツを探したいって、日々思っています」

vivo daily stand 1号店である中野店は先頃、5周年を迎えた。この店を愛する多くの人が集まってくれたそう。Photo by vivo daily stand

基本となるのはスパークリング1種と白、赤ワインが5種ずつ。
ワインのラインナップはシーズナルでがらりと変わる。
タパス料理も定番からシーズナルまで、充実の20種を揃えた。
こちらは中野店の女性シェフが担当し、全ての店舗の店長がオープン前にピックアップする仕組みだ。
店舗面積を考えれば本格的なキッチンを設営することは難しい。
現在のマイクロサイズを維持するために、この「デリバリー」制というスタイルが合理的なのだとか。


「タパスのデリバリーがあるために、一日一度はスタッフが中野店に足を運ぶことになるわけです。
そこでスタッフ同士の意思の疎通も図れますし、各店舗にキッチンを置く必要もなくなる。
今は中野店のキッチンがハブですが、
近い将来はこのキッチンの規模を大きくして本格的なセントラルキッチンを持ちたいです」


その他にも将来に向けてさまざまなアイデアを持つ鈴木さん。
今後の戦略を聞いてみよう。


「とにかく増やし続けたいと考えています。
目指すは50年後に600店舗、各駅に1店舗ずつという計算ですね。
まずはセントラルキッチンを持つことと、
近い将来の目標として5年で20店舗増やしたい」
それにしても50年後とは壮大な計画ですね。

「全然焦ってないんです。焦るとぜったいに失敗しますしね。
そもそも、僕らが目指している世代間のコミュニケーションなんて
5年、10年で築けるものじゃない。
自分たちが20年後、やっぱりまだバルに来ていて、自分たちの子ども世代とか
さらにその子ども世代が同じコミュニティに集えて
そしてそこで楽しいコミュニケーションや活発な交流が生まれていればいいな、と思う。
そんな、コミュニティとしてのバルの存在意義を大切にしたいから、
四半世紀、半世紀という長い目でものごとを考えています」


SHOP INFORMATION

vivo daily stand
東京都練馬区栄町1-10
TEL:03-6914-8143
URL:http://www.vivo.bz

SPECIAL FEATURE特別取材