未来の飲食業界を牽引する?
地元密着型バル登場。<前編>

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未来の飲食業界を牽引する?
地元密着型バル登場。<前編>

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鈴木健太郎さん by「vivo daily stand」

vivoとはスペイン語で「生き生きとした」という意味。名前の通り、生き生きとした毎日をもたらす場でありたいと地元密着型にこだわるバル、vivo daily standの戦略とは?

文:

vivo daily stand全店に共通する、ガラスのファサード。明るい、カジュアルなムードを演出する。Photos by Tetsuya Yamamoto

最近目にすることが多い、地元の駅の周辺に佇む小さなバー、あるいはバル。
派手ではないけれど、その分、気心の知れた親密さがある……。
そんな「地元密着型」というスタイルにこだわった小さなバルがvivo daily standだ。
本店となる中野店をはじめ、代々木、高田馬場、新橋、江古田と現在5店舗で展開。


ユニークなのは、それぞれの店舗が各エリアの特徴やスタッフのキャラクターに基づいて、それぞれ異なる店作りを行っていること。
たとえばオフィスエリアにある新橋店は、朝の出勤前から夜12時までおいしいエスプレッソが飲めるバル。
フランスでの修行経験を持つ料理人を迎えた高田馬場店は、
17時〜22時のディナータイムはビストロ、22時からはスタンディングも楽しめるバルと二つの顔をもつ。


そんなvivo daily standを手がけるのは鈴木健太郎さん。
十数年前、学生時代に旅したスペインで、バルの魅力にはまったのだとか。

江古田店は約40種のウイスキーなど、ハードリカーを揃えた。ザ・グレンドロナック、ラフロイグなど一杯¥500〜900とリーズナブルなプライスが嬉しい。

「小学生からおじいさんまで、老若男女が用もないのにバルに集まって、
世間話をしたり出勤前にコーヒーを一杯飲みに立ち寄ったり、
あるいはサッカーの試合を見ながらぶつくさ文句を言い合ったり、
とにかく地域コミュニティとしていろいろな世代に愛されていること、
そうした場があることに衝撃を受けました。
バルは世代を超えてのコミュニケーションが自然に行われている、
いわば地域のたまり場なんですね」


鈴木さんが世界中を旅していたちょうどそのころ、
95年に阪神大震災があって地下鉄サリン事件が起こり、翌々年には酒鬼薔薇事件が世間を震撼させた。
殺伐とした事件が社会を騒がせ、鈴木さんは「日本はどん底だ」と心底、不安を感じていた。


そんなさなか、スペインのバルで営まれる何気ないコミュニケーションが
鈴木さんに天啓めいたひらめきを与えた。
「日本はやばい、なんとかしなくちゃ、そう考えている時に
バルの存在こそが『日本に必要なのは、こうした世代間のコミュニケーションだ』と感じさせてくれた。
そうした場作りが自分の使命だと感じたんです」

定番人気の「タコのマリネ」はエストラゴンの風味が絶品。ついついワインが進むこと、請け合い。¥400

人間はそもそも社会的な動物だ。
これからますます単身者の世帯が増えていくことを考えたとき、
地域にこうしたコミュニケーションを楽しめる「たまり場」が、
毎日でも通いたくなるような地元のコミュニティが、絶対に必要とされるはず。


「いつかはバルを!」と強い思いを抱きながらも、大学を卒業した鈴木さんは某エンタテインメント企業に入社。
約10年に渡るサラリーマン生活で開業資金を貯める傍ら、経営のノウハウを学んだそう。


まだ会社勤めをしていた2002年にも、バルへの思いを新たにする出来事があった。
たまたまスペインを旅行中、バルでテレビを見ていたら、審陽の総領事館に北朝鮮からの亡命者が駆け込む事件が放映されていたという。
「殺伐とした社会を象徴するような事件を、たまたまバルで見聞きした。
やっぱり日本には地域のコミュニティが必要なんだ、なんて運命的に感じましたね」


2006年秋、ついにサラリーマン生活に別れを告げ、開店準備スタート。
翌年5月、1号店となる中野店を立ち上げた。
「ちょうど開店準備に追われているその年の年始、
日経MJに載っていた養老孟司さんのコラムに目が留まったんです。
日本では両親に子ども2人という4人家族が標準世帯とされているんですが、
単身世帯数が標準世帯数をはじめて抜いた、
今後は職場ではなく地域や趣味を軸にしたコミュニティが必要になってくるだろう、
そんな趣旨のエッセイでした。
この養老さんの記事から『地域のコミュニティ作り』という方向性に核心を得ました」

おいしいコーヒーで定評のある新橋店では、オーナーである鈴木さん自ら、ラテアートの特訓中。Photo by vivo daily stand

最初の店舗を持つにあたって、中野を選んだのにもいくつか理由があった。
「当時は中野に住んでいたので、その土地の個性を良く理解していました。
パワーもあるし、アニメーターからミュージシャン、普通のサラリーマンまで
さまざまなジャンルの職業の人が混在している。
若い人はもちろん、年配の方も多く住んでいてバランスがいい。


それに中野〜高円寺までのエリアは日本でいちばん人口密度が高いんだそうです。
人口密度が高いということはそれだけ賃貸の集合住宅が多い、
ということは単身者も少なくないだろう。
そんな戦略的な理由がありました。
もちろん、家から近くて何かがあったときにすぐに駆けつけられる、など
物理的な理由もありましたが」


バーやバル、カフェといえば繁華街への出店に目が向きがちだが、
あくまでも、その町に住んでいる人・その町に務めている人を対象とした地元密着型にこだわった。


「vivoでやろうとしているのは『ハレ』ではなく『ケ』の場づくりなんです。
もっと気軽に、フランクにぶらりと足を向けられる場所がいい。
食べる、酒を飲む、コーヒーを一杯、なんてのはもちろん、
誰かヘの言づてを頼んだりタバコを買いにきたり、待ち合わせの場所だったり
あるいはトイレを借りるだけ、そんな理由でもいい。
とにかく利用動機がたくさんある店がいいですね。
生活の中で必要とされるあらゆるニーズや感情を受け止める店でありたいし、
そういう場をいろいろなエリアに増やしていきたい。
それがvivoだと思っています」

トイレを借りにきたり言づてを頼んだり、あるいはただ世間話をしにきたり……
これこそが「地元コミュニティ」のあるべき姿だが、これらは実際に中野店でよく見られる光景だそう。
このようにバルが生活の一部になれば、使い手はもっと自由に、自分らしい使い方ができる。
それは鈴木さんの信念でもある。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

vivo daily stand
東京都練馬区栄町1-10
TEL:03-6914-8143
URL:http://www.vivo.bz

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