日本メイドのこだわり満載、
世界に誇るバーツール。<後編>

PICK UPピックアップ

日本メイドのこだわり満載、
世界に誇るバーツール。<後編>

#Pick up

関場吉五郎さん by「グラスファクトリー創吉」

バーテンダーのサポーターであり、理解者でもある「創吉」店主、関場吉五郎さん。プロデューサーであり作り手の一人である関場さんが、日用品である「道具」に込める想いとは。

文:Ryoko Kuraishi

グラスに星の紋様を刻む関場さん。切子体験ではこうした一連の作業を楽しめる。一度試してみれば時を忘れて熱中すること、請け合い!予約は電話、またはメールにて。一回¥3,000、30分〜1時間程度。詳細はホームページを。

店主の関場吉五郎さんが日本の職人や小さな工場の粋な仕事ぶりに大いに感銘を受けたから、
創吉には職人とコラボした道具も多い。


ユーモラスなフォルムと温かみのある質感のシガートレイは南部鉄器の佐藤圭さんのもの。
長年アルミ製品を手がける工房、キャメルの鈴木豪さんの灰皿は、アルミならではの質感、風合いがモダンな印象だ。
繊細で優美な切子の細工は、江戸切子の根本達也さんの手によるもの。


現在はとある彫金作家と、シルバーのバースプーンを製作中。
一部にダイヤモンドをあしらった、スペシャルバージョンになる予定だとか。


職人、作家に関しては常に気にかけアンテナを張り巡らせているという。
いい出会いがあれば、この人にこういうものを作ってほしい……なんて思いを巡らせてみたり。


だからショップオリジナルアイテムの制作やコラボレーションはいつだって楽しい作業になる。
本人曰く「新しい『技術』をいつも探しているのかもしれません」。


職人や作家が自分自身でさえも気がついていない一面を、引き出す作業が面白いのかもしれない。
プロデューサーなのである。

店内にはアンティークのバーツールも並ぶ。

その一方で作り手としての顔も持つ。


前述したように創吉にはオリジナル商品も少なくない。
スタッフが手がける、ハンドペイントのグラス。
ツイストを細く仕上げたバースプーン。
そして関場さん自身も手がける江戸切子のグラスの数々。


実は関場さんは江戸切子伝統のカットに挑戦できる、切子体験会を店内で開催している。
店に置いてあるガラス加工機を使い、グラス表面に星型の紋様を施していくのだ。


4本の線から成る小さな星、関場さんが作業している様子はいとも簡単に見えるけれど、これがなかなかに難しい。
関場さんが指導してくれるのだが、まず4本の線が一点で交わらない。
線の太さ、長さ、彫りの深さが均等にならない。
星のつもりが、いびつな幾何学模様が並ぶ結果に……。お見それしました!


「もともとはグラスの修理がしたくてカットの勉強を始めたんです。
修理をお願いしていた方がやめてしまって、口欠け修理くらいは自分でやろうと思いまして」


秀石(昨年11月号堀口徹さんの記事にも登場)のカット教室に通って、江戸切子を習った。
そこで学んだ手法に自分なりのアレンジを加え、早くて簡単な口欠けの修理方法を習得したのだが……。


「自分でもカットマシーンを扱うようになって初めて、
日本のモノ作りを支える『裏方』の存在の大きさを実感しました。


例えば切子の世界では職人が花形ですが、彼らの技術を陰で支えているのは
こうしたガラス加工機を製作している工場や職人たちなんです」

こちらが黒島鉄工所のガラスカッター。硬質な存在感を発揮して。

店の加工機は黒島鉄工所のもの。
ガラスのカット機や研磨機を主に作っている工房で、
「黒島の加工機」といえばガラス業界でその名を知らぬものはいない、というほどの名機である。


壊れない、そしてシャフトの狂いは1/500mm以内、という精度と耐久性、
さらに使い勝手をも兼ね備えた、ものすごく優秀な逸品なのだ。
なのに……


「自分はこの、最高に使いやすい機械があることを当たり前に感じていて、
この先もずっと変わらず、これを使い続けていけるもんだと思っていました。


でも高齢の黒島さんは引退するとおっしゃった。
たった一人で続けられていた工房で後継者もいないし、黒島の加工機はもう手に入らなくなってしまうんです」


慌てて、他の加工機を試してみたという。
しかし「黒島さんの機械に対する考え方は他とはレベルが違うんだ」ということを思い知らされる結果に終わってしまった。


「ねじ一つにしても黒島さんのものは精度が違いますから。
でもこれはガラス加工機だけの問題ではないですよね。
日本全国のさまざまな分野で同じようなことが起こっているんじゃないでしょうか。


『たかが』道具じゃないんです。
ドライバー一本にしたって日本の知恵や工夫、こだわりがいっぱいに詰まっていて
それが日本のモノ作りを支えてきていたのに、それが土台から崩れようとしている」


いま考え方を変えないと、日本のモノ作りの現場は大変なことになってしまう、そう危惧する。

絵付けの技術も廃れつつあるものの一つ。創吉では磁気の絵付け職人と試行錯誤した末に、グラスへの絵付けの技術を完成させた。絵付けできるガラスの生地を探すのにも苦労したそう。ハンドペイントによるエナメル彩のグラス¥4,095〜。

道具のありがたさをあらためて痛感したから、
関場さんはバーテンダーがバーツールにこだわる気持ちが理解できる。


いい道具は仕事が楽。それが毎日の作業であればなおのこと。


「バーテンダーがカクテルを一杯ずつ、丁寧に作るように
長く使い続けられる、使い勝手のいい道具にこだわって提案していきたい」と関場さんは言う。


いいものを丁寧に長く使い続けていける社会、環境が整ったらいいなと思っている。
安かろう、悪かろうの消費型大量生産社会でなく、こうしたモノ作りの現場や職人が
自分たちの仕事にプライドを持て、その仕事に対して相応の敬意が払われるような。
バーテンダー、職人、作家、町工場……モノ作りを支える機械を作る人、その保守・メンテナンスを行う人も正当に評価されるような。


そんな風に、道具へのこだわりを語ってくれた。


やってみないとわからない。だから何でもやってみる。
そうして出会い、気づき、見つけた人、モノ、忘れられかけた技術。


「創吉」の道具の一つ一つには、そんな物語が潜んでいるのだ。

SHOP INFORMATION

グラスファクトリー創吉
東京都台東区雷門2-1-14
TEL:03-3843-1119
URL:http://www.sokichi.co.jp

SPECIAL FEATURE特別取材