日本メイドのこだわり満載、
世界に誇るバーツール。<前編>

PICK UPピックアップ

日本メイドのこだわり満載、
世界に誇るバーツール。<前編>

#Pick up

関場吉五郎さん by「グラスファクトリー創吉」

使ってみればわかる、と言う。使ってみなければわからない、とも。世界中のバーテンダーが羨望のまなざしを注ぐ、日本生まれのバーツール。そのこだわりを探りに、浅草「創吉」へ、いざ。

文:Ryoko Kuraishi

オリジナルのミキシンググラス。左から、8面に楕円形のカットを施したミキシング¥3,969。セミクリスタルの脚付きは海外人気No.1!¥5,040。オリジナルのスール加工を施したモダンなグラス¥3,150。24面に施された縦ラインのカットが美しい。¥4,116。

今夏の「ディアジオワールドクラス」で活躍した大竹学さんに、
先頃開催されたカクテル世界大会優勝者の山田高史さん……
今年は日本人バーテンダーが脚光を浴び、日本人の繊細で正確なバーテンディングが話題になった一年であった。


それとともに世界中のバーテンダーにあらためて注目されたものがある。
それは、日本生まれのバーツールである。


浅草、吾妻橋に近い「創吉」は、オレフォースやコスタボダといった海外のグラスから
オリジナルの江戸切子までグラス全般を扱うグラスショップ。
と同時に日本メイドのバーツールを揃えている。
創吉オリジナルの道具も少なくない。


カリスマ的人気を誇るイギリス人バーテンダーや「グル」として世界中のバーテンダーから慕われる日本人バーテンダーまでがそのクオリティに魅せられ、足繁く通うという「創吉」。
なぜここのバーツールが支持されるのか。

店先には伝統の紋様で縁取られた切子の小さな看板が。

「創吉」店主の関場吉五郎さんは趣味人である。


学生時代は語学留学のために渡米し、その間には南米へ放浪の旅も楽しんだ。
「ぶらりと」足をのばしたペルーのリマには3ヶ月間も滞在していたとか。


その一方、若い時分からガラスの魅力にもどっぷりとはまり、
作家ものからローゼンタールまで幅広くコレクションしていた。
小さなアパートの一室には、カップボードいっぱいのグラスやうつわがあったそう。
そんな関場さんがグラスショップを始めたのは自然の流れだったのかもしれない。


普通のサラリーマン生活を経て、一人で始めたグラスショップ。
ガラス業界といえば老舗が多い。新奇参入はなかなかに難しかったろうと思われる。


「初めは毎日が勉強でした。
下手にヨーロッパのグラスを見てしまっていたから、その知識をベースに
工場へ行って『あれを作ってくれ』『これが欲しい』と自分の希望をオーダーしてしまう。


工場や職人にもそれぞれ得手不得手があって、得意分野が違うんだって
商売を始めてから理解しました。


それと同時にラリックやバルサンランベール、コスタボダなどのインポートグラスを取り扱うようになって、
バーに紹介できるようになった。
バーの興隆と歩みを合わせるように、うちも成長させて頂きました」

店とは別に、事務所内にも研磨機や絵付けの窯がずらり。失われつつある技術をもう一度もり立てたい、と関場さん。

昔からバー通いはしていたけれど、こうして知り合い仲良くなったバーテンダーの店には
本当によく出かけていたそうだ。


「当時はまだそんなに忙しくなかったので、仕事と言うより無駄話をしに行っていました。
開店前、ただカウンターで話をしているだけなんだけれど、バーテンダーの仕事というものを目の当たりにできるんです。
バーとバーテンディングについてずいぶん勉強させてもらいました」


たとえば、と店に陳列してある茶こしを手に取る。


「家庭用の茶こしは底が丸くなっていますね?バーテンダーが使う業務用はなぜ円錐型なのか。
バースプーンで漉すときに、丸型だと中身が逃げてしまって漉しづらい。
その点、円錐型はかすがたまりやすいしワンプッシュで効率よくこせる。


何が使いやすくてどういう機能が必要とされているのか、
『いい道具』と呼ばれるものにはそれ相応の理由がある。
そんな、『モノ作り』の基礎ともいうべきあれこれを学べました」

オリジナルのバースプーンの数々。ツイストはねじり螺旋を通常のものより細く仕上げ、回しやすさや指先の摩擦の軽減など使い勝手にとことんこだわった。

誰かのニーズを形にしたくて道具やモノ作りにこだわったら、
いつの間にかバーテンダーや飲食店のオーナーが集まるようになっていた。


縁のある人に教えてもらった機能美のカタチ。
だからその恩返しに、誰かの「欲しい」を形にする。
モノ作りって、そういうことなのかもしれない。


そしていつだって、使い手が考える以上の機能や使い勝手にこだわりたいと考えている。


「日本の業務用製品って本当にすごいんです、キッチン用品でもバーツールでも。
まず耐久性。それから機能。


シェーカーだったら合わせがきっちりしていて、経年劣化ですり減っても中身が漏れない、とかね。
それからいつオーダーをかけても、同じクオリティのものがすぐに届く、とか。


きめ細やかさとか几帳面さとか、業務用品には日本人ならではの良さが凝縮されているような気がします」

「いいものをこしらえること、それがポリシー」と言う関場さんは
バーテンダーの熱心なサポーターであり、理解者でもある。


バーテンダーにとってカウンターでのパフォーマンスはいちばんの見せ場。
だからバーツールは彼らが美しく見え、かつ使いやすく長持ちするものにこだわりたいと言う。


日本のバーツールが世界で注目されているのはこうした、こだわりの道具が多いからでしょうか?
と尋ねてみたら、やんわりと否定されてしまった。


「いい道具というのはそれを作る人、そして使いこなす人があってのことだと思います」と。


「日本のバーシーンってものすごく高いレベルにあると思うんですね。
お酒はもちろん、サービス、内装、パフォーマンス。
バーにまつわる全ての事柄がものすごく完成されていて、日々進化している。


そしてこんなにたくさんのバーがひしめきあう国も少ないんじゃないでしょうか。
それぞれの店、バーテンダーが切磋琢磨して、よりレベルの高いバーシーンを作りあげていく。


ですから世界に注目されるべきはバーテンダーでありバーシーンなんです。
バーツールというのはそれに伴って評価されるだけだと思っています」

バーツールへのこだわりだって、サポーティブな気持ちから生まれているのだ。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

グラスファクトリー創吉
東京都台東区雷門2-1-14
TEL:03-3843-1119
URL:http://www.sokichi.co.jp

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