2024年は彼らに注目!
U30のバーテンダー
- 後編 -

PICK UPピックアップ

2024年は彼らに注目!
U30のバーテンダー
- 後編 -

#Pick up

Kamiguchi Kento/上口健斗/夜香木、Miyanoue Tetta/宮乃上哲太/Mandarin Bar

どりぷら編集部が注目する、若手バーテンダーを紹介する新年特別企画。後編では熊本、そして東京からU30バーテンダーをご紹介します。

文:Ryoko Kuraishi

写真左:「夜香木」の上口さん。写真右:熊本の名店「夜香木」。トップ写真左から2番目は、昨年のワールドクラスのために考案したカクテル「スリーピラーズ」。「岐阜を流れる長良川、木曽川、揖斐川の『木曽三川』がテーマで、ベースは『シングルトン』。上流のクロモジ、中流のキンカンやリンゴ、下流のオレンジというように、流域の農産物を合わせました」。

上口健斗さん /「夜香木」



後編の一人目にご登場いただくのは、熊本「夜香木」から上口健斗さん(26)!故郷・岐阜から熊本へ、上口さんが大切にするローカリズムは、いかにカクテルに生かされているのか?


バーテンダーになった経緯を教えてください。


生まれは岐阜県飛騨市。もともと高山市内のホテルのレストランで、ドリンク担当として働いていまして、上司から「バーテンダーをやってみる?」と声をかけられ、バーに異動しました。

もともと「かっこいいなあ」という憧れを抱いていたので、うれしかったですね。そして勉強を始めてみたら、カクテルの世界にのめり込みました。

バーの接客は特別です。お客さまとコミュニケーションをとりながら、目の前でカクテルをお作りし、お飲みいただく。お客さまの反応を間近にできる。そこにやりがいを感じました。

もっと勉強したいと思っていた矢先、コロナの影響でホテルが休館に。空いた時間でバーテンディングを勉強しようと思い、「ディアジオワールドクラス」日本大会をYouTubeのLive配信で観戦しました。


「夜香木」に入店して1年目、一昨年の「ワールドクラス」用に考案したカクテル、「New World」。「熊本に来て感じた豊かな大地の恵み、農家さんとのつながりをカクテルに仕立ててみたいと思いました。ビーツルートをインフューズドしたウォッカをベースに、メキシコのパイナップル発酵飲料のテパチェ、熊本産ハーブコーディアル『恋するジンジャーエール』、ライム酸オレンジ (オレンジジュースをライムと同じ酸度に調整したジュース)を合わせたもの」。

なかでも、一人のバーテンダーのパフォーマンスに釘付けになりました。その人こそ、現在のボスである木場(進哉)さん。日本チャンピオンに輝いた木場さんのもとで働きたい!と思って、熊本へ行き……現在に至ります。


「夜香木」で感じる手応えはどんなことでしょう?


ここに勤めて2年になります。カクテルに特化しているバーということで、日々、真摯にカクテルメイキングに向き合うことができる、素晴らしい環境です。

海外からのお客さまも多いうえ、木場の知り合いのバーテンダーさんも多くいらっしゃるので国内外のバーテンダーとのつながりもでき、刺激を受けています。

上口さんはカクテルのどこに魅力を感じていますか?カクテルメイキングのポイントは?

同じカクテル、同じ材料・レシピでも作り手によって全く異なるものになり、バーテンダーの数だけ味わいがある。バーテンダーが自分の個性を生かして自由に表現することができる点が魅力です。

ですから、カクテルを提供する際には、そのカクテルにまつわる自分なりのエピソードや体験をお話しするようにしています。

シグネチャーカクテルのレシピを考える際も同様で、飛騨で生まれ育った自分が熊本でどういう経験をしているか、その中で感じたことなどをカクテルに表すようにしています。

たとえば熊本産のハーブやビーツといった農産物、飛騨の森の木など、なにかしら自分に関わる素材をピックアップして、その中の香りや味わいを主役に、副材料を組み立ています。

特に海外のお客さまは、「熊本ならでは」という素材や味わいを楽しみに来店されます。熊本の特産物ということで県内産柑橘はよく使っていますね。また、米焼酎が造られる土地ですから、米焼酎ベースのカクテルもご用意しています。

上口さんが衝撃を受けたという「夜香木」のシグネチャーカクテル、その名も「夜香木」(右)。夜に花を開く夜香木の香りを再現したカクテルで、「タンカレーNo.10」にジャスミンやりんご、マーガオなどのアクセントを加えている。

2024年のチャレンジ、目標はどんなものですか?


今年はコンペで結果を残したいと思っています。いちばんの目標は、木場が優勝した「ワールドクラス」。営業後にひたすら練習するのですが、大変だけれど充実感を感じられます。

また、木場がシンガポールにいたこともあり、海外のバーにも興味をもっています。とくにシンガポールはアジアのベストバーに名を連ねる名店が多いので、ぜひ、現地のバー巡りをやってみたいですね。

そしていつかは海外のバーで働いてみたい。というわけで、毎日欠かさず英語の勉強に取り組んでいます。海外のお客さまと日本のお客さまで、言葉のせいで接客に差が出てしまうのは嫌ですから。

将来のためというより、これは日々の営業のためでしょうか。精一杯のホスピタリティで海外のお客さまもお迎えできるよう、言葉の壁はなくしていきたいと思っています。

夜香木
熊本県熊本市中央区南坪井町5-215−21
Instagram:@bar_yakoboku_kumamoto

宮之上哲太さん /「マンダリンバー」



続いて、「マンダリン オリエンタル 東京」内、「マンダリンバー」の宮之上哲太さん(26)のインタビューをどうぞ!


まず、宮之上さんのプロフィールを教えてください。


高校生になって飲食店で接客業のアルバイトを始め、漠然と「将来はこの道に進みたいな」と考えるようになりました。

ただ、飲食接客業と言ってもいろいろあります。近所に住む祖父が厳格なため、祖父を納得させるロジックを見せなくてはと思い、高校生ながら接客業をリサーチしました。

そして最高峰のサービスであるホテルマンを目指そうと考えました。たまたま通っていた高校に日本ホテルスクールという専門学校の案内があり、そこに進学しました。

写真左:今年でバーテンダー歴7年目を迎える「マンダリンバー」の宮之上さん。この年齢でアシスタントヘッドバーテンダーを務める実力の持ち主。写真右:「マンダリン オリエンタル 東京」内、「マンダリンバー」。

入学と同時に「ヒルトン東京」でアルバイトを始めたのですが、そこで配属になったのがバー&ラウンジ。

高校生のときに地元(厚木市)のダイニングバーでのアルバイト経験があったので馴染みはありましたが、本格的にバーに携わったのはこの時が初めてでした。

お客さまをお迎えし、カクテルをお作りし、フィードバックを伺い、お見送りする。お客さまとゼロから時間を作り上げるプロセスにやりがいを感じるとともに、バーテンディングの勉強は一生続くものだろうと確信しました。

それでこの道を極めたいと思ったことが、現在のキャリアのきっかけです。

専門学校2年目のインターンで、「マンダリン オリエンタル 東京」内の「マンダリンバー」に配属となり、そのご縁から入社試験を受けて2017年に入社しました。現在、7年目を迎えます。


カウンターに立つにあたって大切にしていることはなんですか?


生活に必要不可欠なものではないけれど、あることで人生がより豊かになるもの。バーとはそういう存在であると考えています。

バーにいらっしゃる方に非日常的で豊かな時間を過ごしていただくために大切にしているのが、伝統と好奇心です。

もともと好奇心旺盛なタイプで、興味があることに対して突き詰めてしまう性分なのですが、日本橋という、江戸時代から続く街にある「マンダリンバー」に勤めるようになって伝統の部分でたくさんの影響を受けました。


カクテルメイキングにおいてもそういう要素を生かしているのでしょうか?

そうですね、伝統と好奇心。先日、徳島に遊びにいったのですが、大谷焼という伝統の焼き物を作る集落へ出かけ、うつわを購入しました。

そうしたものからひらめきを得て、新しいカクテルを考案することもあります。

そう考えると生活にあるすべてのものがイマジネーションソースになっていますね。食べるもの、見るもの、耳にするもの。

だからあらゆるものにアンテナを張り、いろいろ出かけて気になったものを見つけては、あらゆるものをネタ帳にメモっています。メモ魔なんですよ。

もちろん、働いている環境からも刺激を受けています。ホテル内にはさまざまなレストランがあり、シェフやソムリエチームと交流する機会が多いんです。

たとえばスパイスを使ったカクテルを考えたり、お客様さまからカクテルペアリングのリクエストをいただいたときは、シェフにコースの内容をヒアリングして即興でペアリングコースを作ったりもしています。

こういう環境はホテルバーの特権ですね。いろいろな部署が集まっていて、興味を持てる対象がたくさんあります。イタリアン、フレンチ……料理について学ぶことはバーテンダーとしての幅を広げることだと感じます。

また、ここのソムリエチームに刺激を受け、ソムリエの資格も取得しました。

写真左:「浜松サワー/Hamamatsu Sour」は2022年3月から実施している「東海道五十三次カクテルプロモーション」の第4弾として、2023年1月から4月末まで提供した。鰻で有名な「浜松宿」をジンベースで表現したサワーカクテル。ミカン、浜松産のお茶、ガーニッシュにはうなぎパイと、この地の名物をふんだんに使っている。写真右:2023年に実施したサントリーウイスキー「響」のプロモーションで提供したカクテル、「風月/Fugetsu」。

宮之上さんは現在のバーシーンについてどのような考えをお持ちですか?


コロナ禍が落ち着いて再び人が動き出し、イベントの再開やコンペの復活、造り手など他業種の方とのコラボや交流と、バーシーンの盛り上がりを肌で感じています。

ホテルバーと街場のバーとの垣根も徐々になくなってきているように感じる昨今ですが、さらに国内と海外の隔たりも薄くなっているように思っています。

「マンダリンバー」はゲストシフトを積極的に組んでいて、昨年はトータル10組のゲストシフトを実現させました。そこから交流が広がっています。

ゲストシフトの前後に東京を案内するのですが、彼らと一緒に東京をみてまわることで新しい発見があって刺激を受けています。


これからのチャレンジについて教えてください。


「マンダリンバー」のバーテンダーとして、そして一人のバーテンダーとして、日々、レベルアップを目指していきます。

それと同時に、次のバーテンダーたちに、自分がいただいたチャンスをつなげる環境を作っていきたいと思っています。

同時に、多角的な視点での仕掛けを考えていきたいとも思っています。

先ほど他業種とのコラボが増え、国内外の垣根がなくなってきたとお話ししましたが、そういうところにも携わっていけるバーテンダーでありたいですね。


マンダリンバー
東京都中央区日本橋室町2-1-1 マンダリン オリエンタル 東京内
https://www.mandarinoriental.com/ja/tokyo/nihonbashi/dine/mandarin-bar

SPECIAL FEATURE特別取材