「飾るだけ」なんてナンセンス!
“おいしい花”を科学してみたら。
– 前編 –

PICK UPピックアップ

「飾るだけ」なんてナンセンス!
“おいしい花”を科学してみたら。
– 前編 –

#Pick up

小澤亮/Ozawa Ryo by「EDIBLE GARDEN」

薔薇のスピリッツのバラジャムに、野山の花を飾ったヴィーガンタルト……。飲食業界のトップクリエイターたちが支持する、完全無農薬でおいしいエディブルフラワーがあった!

文:Ryoko Kuraishi

上段左から、NPO法人「歩実」と農福連携で運営する食用花ブランド「AYUMI」のビオラ、同アリッサム、「オイシイハナ」のベゴニア。下段左から「オイシイハナ」のゼラニウム、「Nobel Rose」のボレロ、同トワパルファン。

「おいしい花食体験」を作る。

農薬不使用の、最高鮮度のエディブルフラワーを常時80種以上取り揃えている「EDIBLE GARDEN」。

全国14軒の生産者と提携して、バーやレストラン、パティスリーに向けて通年でエディブルフラワーを提供している。

率いるのは、「Yahoo! JAPAN」出身のマーケターの小澤亮さん、農業系の科学者の木村龍典さん、シェフの田村浩司さんの3名だ。

食材というよりも「飾り」として使われることが多かったエディブルフラワーだが、小澤さんたちはその機能性成分や香気成分に着目。
“未来の食材”としてエディブルフラワーの可能性を研究している。

「食材として大切なのは、消費者に『おいしい』と感じてもらうこと。そのため、苦味やえぐみの少ない、『食べておいしい花』の栽培に力をいれています」(小澤さん)

左が小澤さん、右はシェフの田村さん。

そもそも「おいしい花」とはどういう花なのか?小澤さんたちの挑戦は、「食べておいしい」を科学するところから始まった。

「おいしい花・おいしくない花とは何か?何がおいしいをもたらすのか?というスクリーミング(探索)作業にとりかかりました」

おいしい花とは、甘みや酸味が強いなど味わいに特徴があり、香りが強いもの。

たとえばベゴニア。花弁にはレモンのような酸味、葉にはブドウのような味わいがある。イブピアッチェはえぐみが少ないので香りを強く感じることができる。

こうした特性(味わいや香り)によって、受粉を手伝う昆虫を引き寄せるのだ。

一方、おいしくない花とは、甘味や酸味、香りが弱く、えぐみや苦味が強いもの。現在流通している多くのエディブルフラワーにこの傾向が見られるそう。

「生産拠点や大学と連携しながらさまざまな品種を試験栽培してみては試食を繰り返し、おいしい・香りが良い等の特徴を科学的に解析しつつ、トップシェフやパティシエにサンプルを送付、ご評価をいただく……という作業を繰り返しました」

取り扱う食用花のチャート。評価項⽬の数値算出⽅法は、/⾹り⾼さ:専⾨家による官能評価/⽢味:Brix値から係数化 /酸味:酸度から係数化/えぐみ:硝酸態窒素量から係数/苦味:ポリフェノール量から係数化 /価格:1g・1輪の販売単価から係数化。

花の価値を引き出す“成分分析”。

ここでポイントとなるのは、小澤さんたちは素材の味や香りの良さ、栄養、機能、安全性を数値化、つまり「おいしいを見える化」していること。

「ただサンプリングをするだけでは料理人やパティシェに注目してもらうことはできません。
『通常のものにくらべて旨味が何倍』という具体的な数字を伴うキャッチワードをつけることで、目に留めてもらえる可能性が高まるんです』

数字は製品やブランドの価値向上につながるのだ。

小澤さんにとって食品ブランディグにおける初めての成功体験は、兼ねてから相談に乗っていた食用バラの生産者だった。

「その生産者さんは『うちよりも香りのある食用バラはないと思う』とおっしゃっていましたが、それをブランディングに繋げることができていませんでした。

島根大学と成分の研究分析を行ったところ、なんと一般に流通する食用バラに比べ、香りの成分が3840倍も多く含まれていたのです。

品質の高さを科学的に証明できたことから相場の35倍という値付けを行うことができるようになりました。

また、こうした証明があることで国内外のトップシェフ、三つ星レストランから続々とオーダーが入るようになりました」

「奥出雲薔薇園」の「さ姫」という品種の栽培風景。

このブランディングをきっかけに、生産者を応援する「EDIBLE GARDEN」を本格的にスタートするとともに、研究者や大学と連携し、食品の品質を科学的に証明するという新サービス、「成分分析ブランディング」の整備に着手した。

これにより、生産者は価値に見合った値付けができ、ユーザーは求める食材を手にいれることができる、というわけ。

「フードテックの視点は、業界に新しい技術をもたらすという意味で重要だと考えています。

たとえば、エディブルフラワーの代表格であるビオラには、実は全食材トップクラスのポリフェノールの含有量(※ポリフェノール総量として15,000mg/100g程度を有する)があることもフードテックのおかげで証明できました」

イノベーティブレストラン「FARO」(銀座)のシェフパティシエール、加藤峰子さんが創作した「日本の里山の恵~花のタルト」。約40種のハーブや花を使ったヴィーガンタルトだ。

このほか、食用花の栄養価を最大化させるための栽培技術の研究や、食味の良い食用花の企画・栽培にも取り組んでいる。

そうした取り組みの一例として、世界で初めて植物工場にて通年栽培できる食用バラの開発に成功!

さらに、通年で安定的に食用バラを提供できるようになったことで、多彩なクリエイターとのコラボレーションが生まれるようになった。


後編では、小澤さんの食用花体験を一変させたという、花のスピリッツについてご紹介します!

後編に続く。

【お知らせ】
7月4日、「EDIBLE GARDEN」の小澤さんと木村さんをお招きし、どりぷラボを開催します。

お題は「エディブルフラワーを科学する」。

当日はドリンク作家のemmyさんにもご登場いただき、彼らの理論をドリンクに落とし込むための実践的なテクニックもご紹介予定。

詳細はこちらから!

SHOP INFORMATION

EDIBLE GARDEN
東京都新宿区余丁町12-29
TEL:03-4540-4271
URL:https://ediblegarden.flowers/

SPECIAL FEATURE特別取材