PICK UPピックアップ
1人で3つの顔を持つ
ラム業界のエビちゃんとは?
<後編>
#Pick up
海老沢忍さん by「日本ラム協会」
「ロン・サカパ」と「ブリストル」。
振り返ってみると、海老沢さんの半生は「反動」という言葉で彩られる。
シティホテルのバーに学んだ青春時代、その反動からアメリカを縦断しながらスキーと波乗りに明け暮れた放浪時代、南の島を経て夜のネオンの世界に戻った青年期……。
都会と自然、夜と昼、まるで振り子のように目まぐるしく環境を変えていた若かりし頃、海老沢さんをバーの世界にとどめたのはラムとの出会いだった。
独立以前に勤めていたバーで出会ったのが忘れもしない、この2本。
「『ロン・サカパ』とシングル・ジャマイカ・ラムの『ブリストル』です」
甘口で飲みやすい「ロン・サカパ」、シングルモルトウイスキーを思わせる「ブリストル」。
同じスピリッツでありながら、飲みやすいものからストイックまでこんなにも振り幅がある!
はじめてのラムに懐の深さと面白さを感じた海老沢さんは、ここからラムの世界に足を踏み入れることに。
グァドループでは、市場に出向いて「島のお母さん特製ラムパンチ」を飲んだ。各家庭に秘伝のレシピがある。
「世界には4000種のラムがあると言います。世界一多いスピリッツです。
そしてサトウキビの産地には必ずラムがある。
それは『サトウキビの蒸留酒である』という以外に、ラムには細かいルールがないという自由度に負うところが多いと思う」
「三角貿易とか、歴史にもまれてきたスピリッツだから、勉強すればするほど奥が深い。
ちょっと間抜けなラベルから絵画調に仕上げたものまで、バリエーション豊かなラベルやボトルも収集癖に火をつけました。
実はラベルはラムの特徴を知る重要な情報源でもありますが、ジャケ買いならぬラベル買いの楽しさもあり!」
こうして始まったラム収集。
サーフトリップで日本各地を廻った際は、あらゆる酒屋に足をのばした。
そしてついに、最大の産地、カリブの島々にも出かけるようになる。
「06、07年には十数カ国を巡って蒸留所を視察しました。
ラムの雰囲気を味わうという意味で、産地がいちばん勉強になります」
たとえば「SCREW DRIVER」自家製ラムパンチも、こうしたローカル色漂うラム・トリップで発掘されたカクテルだ。
自家製ラムパンチはラムに季節のフルーツをつけ込んだ果実酒で、言うなれば日本の梅酒のようなもの。
カリブの島々では各家庭が独自のレシピを持っていて、フルーツに好みのスパイスを加え、家族で楽しむんだそうな。
ラム発祥の地であるカリブの島々での楽しみ方を伝えたいと、海老沢さんが浸け始めたものがいまやすっかり店の定番になっている。
こちらがSCREW DRIVER特製ラムパンチ。こうしたフルーティなラムパンチが誘い水となって、女性にもダークラムが受け入れられるようになってきた。
海老沢流のカリブ攻略法、それはネットを使ったリサーチに頼らないこと、そしてレンタカーを借りないこと。
「フィーリングの合うタクシードライバーを探すんです。
治安の問題もあるので手配はホテルのフロントに頼みますが、とにかくラムや酒蔵に詳しいタクシードライバーをあてがってもらう」
「道がわからないし迷っている時間はないし、という現実的な理由もありますがリサーチをしない分、ローカルのドライバーとのコミュニケーションが大切です。
『トヨタ』、『プレステ』、『ナカタ』、『イチロー』…会話の糸口を探りながらのやりとりも楽しいし、現地の空気感や生きた情報はネットよりも確度が高い」
カリブの人々にとってラムは、日本でいうテーブル焼酎。
ローカルの生の情報やコネクションは侮りがたい。
パイナップル、マンゴー、バナナ、バニラビーンズ……。
南の島のフルーツやスパイスと、ラムはすこぶる相性がいいが、自家製ラムパンチのレシピだって、こうして現地の本や市場で習得したのだ。
「もちろん、その分失敗談も多いですよ。バルバドスのドライバーには『最高にクールなバーに連れて行く』と言われて蒸溜所のアポイントをキャンセルして向かったら、おじさんの友達主宰の内輪のガーデンパーティーだったり……」
このページ、トップの写真がそのパーティの模様だ。確かに「クールなバー」ではないけれど、これはこれで何とも楽しそうな。
「とはいえ、産地の風土やカルチャーに触れるいい機会。
とくに地方色のはっきりしているスピリッツですから、いつも思い切って現地の生活に飛び込んでいきます」
海老沢さんは次なるステージに向けて新たな活動を展開予定。よって現在、アウトドアバーを継いでくれる、志しのあるアウトドア隊長を募集中!
こうした経験が実を結び、「SCREW DRIVER」はラム酒バーとして認知されるに至った。
「ラム人気の要因はいくつかあると思うんです」と海老沢さんは分析する。
「一つは世界的なモヒート・ブーム。
これは洋酒メーカーが仕掛けたものなのか、時代のニーズ、気分にあったのか」
「二つめはバーに来る客層が変わったということ。
ここ数年で、バーに一人で来られる女性が格段に多くなりました」
「三つめは時代の変化に伴い、甘いものを好む男性が市民権を得たこと。
ウイスキーとショコラの組み合わせを楽しむ、そんな風潮も最近のものですし」
バーを一人で訪れる女性も、甘いもの好きの男性も、それぞれが各々の視点で楽しめる。
そうした懐の深さが、ラムの魅力なのだろう。
アウトドアバーの看板は、閉店した葉山店のものを再利用。ランタンが消えたら閉店時間。
そろそろ夜も更けてきた。周囲の夜景に馴染むよう、海老沢さんはバーのランタンを少しずつ落としていく。
さて、海老沢さん、秋のアウトドアで楽しむにはどんなお酒がおすすめですか?
「たとえば秋の夜長を楽しむには長期熟成もののラムがいい。
燻製をつまみに香りをじっくり楽しむ、なんてアウトドアならではの魅力を満喫できます」
「もちろん葉巻やショコラと合わせてみるのもいいし、ラムにこだわらないならウイスキーやバーボンもぴったり。
川原でたき火を囲みながらラフロイグのグラスを傾ける、なんてどうですか?」
都会の夜の遊び場としてのバーはもちろんのこと、お酒をおいしく味わうためのキャンプがあってもいい。
こんな風に、「酒を楽しむ」ための選択肢は確実に広がってきている。
海老沢さんにはそれが嬉しい。
そして、そのときにバックパックに入れるギアの候補に、ラムのボトルが加わるといいな、と願っている。
最後のランタンが消えた。今日はこれにて店じまい。
日本ラム協会 | |
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URL:http://www.rum-japan.jp |