
PICK UPピックアップ
1人で3つの顔を持つ
ラム業界のエビちゃんとは?
<前編>
#Pick up
海老沢忍さん from「SCREW DRIVER」
文:Kuraishi Ryoko
アウトドアイベントの初日、お昼過ぎにのんびりオープン。夜はランタンが消えるまで営業する。
レインボーのウィンドミルがくるくる回っている。
ここはキャンプを愛する大人のためのオアシス、「SCREW DRIVER」アウトドア支店。アウトドア業界一有名なバーである。
屋外イベントが続いたせいで真っ黒に日焼けした海老沢忍さん、彼が吉祥寺「SCREW DRIVER」のオーナーだ。
日本のラムの第一人者でもあり、吉祥寺の店には400種類のラムを揃えているとか。
(ちなみに店全体のラインナップは550種、そのうち100種はアメリカンウイスキー)
かなり偏っているけれど、それがオーナーの好みなのだ。
気温は涼しいが標高が高いゆえ、日差しは強い。
「暑いですねえ」と口を滑らせたものだから、オーナー自ら、カウンターでモヒートを作ってくれている。
ラムにラムシロップ、そしてミントをたっぷり。ソーダの泡とミントのグリーンがあいまって何とも涼しげに。
そのほか、4フレーバーの自家製ラムパンチに王道のホワイトラムを2種、そしてブラウンラムを10種類。
万全の装備でもってイベント初日がスタートした。
プロのバーテンダーに教わって、自分でモヒートを作ってみる。そんな「トライ・モヒート」ワークショップも開催。
空前のアウトドアブームの昨今、その到来を知ってか知らずかはさておき、屋外のフェスやイベントで本格的なバーを開くようになってはや7年。
ウッドのメインカウンターにモヒートカウンター、ラムのボトルはブルーの照明でライトアップされ、野外バーと思えぬほど本格的な仕上がり。
陽が暮れると、いくつものランタンに灯がともる。それを合図に、カウンターの廻りにわらわらと人が集まってきた。
そもそも、屋外でバーをやろうと思い立ったのは、2店舗目となる葉山のバーを閉めたことだったとか。
「僕自身、海やそれにまつわるカルチャーが大好きだから、海=ラム!って勝手に盛り上がっちゃったんですけど、それが誤算だったんでしょうねえ。
いま考えると、その土地のローカルの気質やニーズを読みきれていなかったのかもしれません」
97年にオープンした吉祥寺店は連日連夜の満席を記録し、「人生初のヒット作」となった。
それに乗じて2軒目も、となるのはごくごく自然の流れ。
だけれど……。
「はじめての店が軌道に乗って、2軒目もイケる!と調子に乗ってしまった」と振り返る。
日本のビーチサイドからラム文化を発祥しようと思ったが、あえなく3年で閉店に追い込まれた。
SCREW DRIVER 7周年記念ボトルがこちら。海老沢さんのアウトドア開眼のきっかけとなった「記念碑」。
吉祥寺に戻ってきた海老沢さん、この3年の間にすっかり疲弊してしまった。
「吉祥寺の店はちょうど7周年を迎えるころで、7周年記念のオリジナルボトルを作ったんです。
常連さんがラベルを描いてくださったんですが……」
そのラベルに描かれているのは、背中を丸め、ひとりで酒をのむ男の後ろ姿。
「当時の僕がまさにこんな感じ。
ちょうど若い人の酒離れがニュースになっていた時で、バーに未来はないとさえ思った。
ネガティブの虫にとりつかれちゃったんですね」
そんな海老沢さんを常連客が叱咤する。その人の職業は冒険家、仕事場はアウトドア。
その彼が嫌がる海老沢さんを無理に戸外に連れ出した。
「来月末、3連休をとって山へ来い!」と。
アウトドアバーでのモヒートはこんな感じ。
冒険家から指示を受け、向かった先はフジロック。
モリッシーがドタキャンし、べン・ハーパーとジャック・ジョンソンが共演した、あの年である。海老沢さん、初参戦。
「フジロックはおろか、屋外イベント、そもそも山自体が未体験。
僕に精神的なビンタをくれたお客さん、彼はフジロックの2、3日前に『アラスカに行くことになったから、後はヨロシク』って旅立ってしまって。
キャンプサイトでバーを開くことになっていたんだけれど、突然ひとりで放り出され、右も左もわからない。
ただ酒瓶だけ担いで途方に暮れていました」
とはいえ、アウトドアという見知らぬフィールドで新たな一歩を踏み出そうとしていた海老沢さんを、天は見放さなかった。
アウトドア・ギアのメーカー、コールマンが声をかけてくれたのだ。
「今思えば、何の道具も持たずに苗場のキャンプサイトに現れちゃった僕もどうかと思いますが、コールマンさんはまさしく天使。
雨も降り始めてずぶぬれで、『来るんじゃなかった…』と思い始めたそのとき、
折りたたみテーブルからランタン、クーラーボックスに至るまで、現場でぽん!と貸してくれて。
僕を誘ってくれた冒険家がアウトドア業界でも有名な愛されキャラだったせいもあるのか、いろいろなメーカーさんが手をさしのべてくれました。
あの出会いがなかったら、投げやりになった僕はバーマンさえもやめていたかもしれない」
タープがあれば雨はしのげる。電気がなくともランタンが照明代わりになる。ガスがなくてもバーナーがあれば湯が湧かせる。
貸してもらったギアの一つ一つに大きな感動を覚えた海老沢さん。
栄えある初回、収益としてはさんざんだったが、縁ある出会いに助けられ、「店舗なんかなくても、どこでもバーができるんじゃないか!?」と持ち前のチャレンジ精神に火がついた。
「そこから、次の年のイベントに向けてリベンジが始まったんです」
山の夜にはダークラムがいい。海老沢さんお勧めの2本。
アウトドアバーの面白さは、天候、状況によって人の求めるものがくるくる変わること。
バーテンダーとしての常識が通用しないこと、エアコンの効いた街中のバーでは気づかないこと、それがアウトドア・シーンにはたくさんあった。
「当たり前ですが、暑い日中はキンキンに冷えたビールが欲しいし、冷え込む夜には暖かいものを飲みたくなる。
その場で求められているものにどれだけ対応できるか、これはバーマンとしての力量や経験値を試されているな、と感じました」
そしてアウトドア好きは酒好き、を思い知らされる。
「嬉しいことに、アウトドア・シーンにいる限りでは酒離れを全く実感しなかったんです。
キャンプをしていると夜が長い。
たき火やランタンの明かりで飲む酒は最高です。
終電も気にしなくていいし、酔っぱらったらテントへ戻るだけ。
アウトドアの魅力の一つに酒を飲むという文化がしっかり定着しているんでしょうね」
少しずつ装備を揃え、コールマンバーとして全国のイベントやキャンプサイトを廻り始める。
「海でだめならじゃあ山で、というのは短絡的ですが、でも緑深い戸外で飲むならモヒートが絶対だ! と。
月夜や夕暮れどき……大自然というロケーションは、最高に素敵な内装のバーに勝らずとも劣らない。
だったら味も見た目もスペシャルな一杯を家族や仲間と楽しんで、思い出深いときを過ごしてほしいなって思います」
かように海老沢さんを魅了するラム、その秘密についてはまた次回。
後編へ続く。
SHOP INFORMATION
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SCREW DRIVER | |
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