日本のクラフトジンの夜明け
「季の美 京都ドライジン」!
<後編>

PICK UPピックアップ

日本のクラフトジンの夜明け
「季の美 京都ドライジン」!
<後編>

#Pick up

アレックス・デービスさん&元木陽一さん by「京都蒸溜所」

アレックス・デービスさんと元木陽一さん、二人が手がける「季の美」はどのような工程を経て生み出されるのだろうか? 実際に京都蒸溜所を訪れ、お二人にいろいろと訊いてみた!

文:Drink Planet編集部

コンパクトでクリーンな京都蒸溜所内観。

京都市南区吉祥院に構える京都蒸溜所は、今のところ一般の見学を受け入れていない。

それどころか、業界関係者の視察やメディアの取材も限定される。

というのも、ヘッドディスティラーのアレックス・デービスさん、ディスティラーの元木陽一さん、この二人だけで「季の美 京都ドライジン」を造っているので、なかなかそこまで手が回らないからだ。

今回は「季の美」リリース後の貴重な時間をいただいて、お二人に京都蒸溜所内を案内してもらうことができた!

「季の美」の製造工程をイメージしたイラスト。

元木さんはまずこんな風に説明してくれた。

「我々は“小規模=クラフト”という風には考えていません。造りたいもの、表現したいものをまっとうに造るのが“クラフト”だと考えています。ですから、蒸溜所は小さくとも、きちんと商品として再現性があること、安定して供給できることが絶対条件です」

クラフトというと、毎回バラバラな味わいでも、それがクラフト(手造り)の良さ、というような誤解があるのも事実だろう。

しかし京都蒸溜所はプロフェッショナルな造り手として、そうした偶発的な面白さを狙っているわけではないという。

敷地面積は80坪ほど。

もともと倉庫だったという建物は天井が高く、また2016年8月に稼働したばかりなのでポットスチルやタンクなども真新しく、非常にクリーンな印象だ。

大きなステンレスタンクにストックされるのは、「季の美」のベースとなるお米から造ったライススピリッツ。

これは、日本酒の本醸造にも用いられる上質なモノを仕入れている。

(自家醸造するとなると、今の3倍くらいスペースが必要だそう!)

「通常のジンに使用するグレーンやコーンなどの雑穀、廃糖蜜(モラセス)のスピリッツなども試しましたが、京都らしいジンを目指すには、ライススピリッツの馴染みの良さがなにより魅力でした。価格が雑穀の2倍、モラセスの3倍と高価なのが悩みの種です」

ドイツ・カール社製の銅製ポットスチル。140ℓと450ℓの2基。

また「季の美」を造るうえで最大の特徴といえるのが、「雅」製法と名付けられた独自の蒸溜&ブレンディング技術だ。

通常のジンは、ニュートラルスピリッツとジュニパーベリーを含む数種類のボタニカルを一度に蒸溜する。

しかし京都蒸溜所では、11種類のボタニカルを6つのカテゴリーに分け、それぞれ蒸溜した後にブレンドして仕上げる。

「柚子には柚子の、玉露には玉露の最もおいしいタイミングがあります。ですから、それぞれのボタニカルのベストの部分を抽出するために、あえて6つに分けて蒸留しています。ただし手間も6倍ですが……(笑)」

ちなみに6つのカテゴリーは以下の通り。

【ベース(礎)】:ジュニパーベリー、オリス、檜
【シトラス(柑)】:柚子、レモン
【ティー(茶)】:玉露
【スパイス(辛)】:生姜
【フルーティ&フローラル(芳)】:赤紫蘇、笹の葉
【ハーバル(凛)】:山椒(実)、木の芽

ベースに使用されるジュニパーベリー(マケドニア産)、あるいはオリス以外のボタニカルは、極力日本産、それも京都産のものにこだわっている。

例えば、キーボタニカルの柚子は、主に京都「北斗農園」の無農薬栽培柚子を使用。

玉露は京都の老舗から仕入れ、赤紫蘇や山椒、木の芽もメイド・イン・キョウトである。

そして加水・調整に使用するのは、やわらかく馴染みが良いとされる京都・伏見の名水だ。

「それぞれベストのタイミングで蒸溜したものに加水し、アルコール度数を整えてからブレンドします。ブレンド比率は企業秘密ですが、『季の美』としてのプロポーションを崩さず安定した品質を再現するために、綿密なレシピが設定されています」


現状のボトルデザインにたどり着くまでに、さまざまな試行錯誤がなされた。写真は候補のサンプルたち。

ブレンドした原酒は、馴染みを良くするために一定期間寝かせてからボトリングされる。

4つしかないボトリングマシーンは、基本的に手作業。

さすがにボトリングに関してはパートの方を雇っているとはいうものの、時にはデービスさんや元木さん、さらにはクロールさんまでボトリングに駆り出されることもあるんだとか!

蒸溜所を見学した後は、ラボルームに移動し、実際に「季の美」を試飲させてもらうことにした。

ファーストインプレッションは、デリケートでクリーン、そして甘やか。

その後にやさしい柚子の酸味や、檜から来る爽やかな苦み、生姜のほのかなスパイシーさなどが、ジュニパーのフレーバーとやわらかに溶け合っていく。

どこか神聖な透明感が漂うのは、京都で丁寧に造られたジンだからかもしれない。

思わずストレートで飲みたくなるような、どこまでも繊細でデリケートな味わいだ。

「実は、家では水割りや緑茶割りで飲んでいるんですよ」と元木さん。

するとデービスさんも「『季の美』1に対して水1、これにたっぷりの氷を入れて飲むのが私のオススメです」とのこと。

味わいが繊細なだけに、素材の味を生かした京料理や和食との相性も良さそうだ。

最後にお二人に「季の美」のスタートアップに関して苦労した点を訊いてみた。

「季節のボタニカルの調達ですね」とデービスさん。

「安全でクオリティの高いボタニカルを見つけ出し、かつ十分な量を確保するのには本当に苦労しました。例えば柚子なら、我々も一緒に収穫に参加し、一年分の柚子を下処理して真空パックし、冷凍保存しています。確かに大変なのですが、ボタニカルの選定や収穫から関われるなんて、ディスティラーとしては最高の体験です」

一方、元木さんは、蒸溜免許や蒸溜所開設に向けての認可の取得に苦労したという。

「京都に蒸溜所を造るというのは役所の方にとっても初めての試み。消防署、税務署、上下水道局には1年近く、ほぼ毎日通っていました。果てしないお役所周りに比べたら、蒸溜の苦労なんてなんでもありませんよ(笑)」

では、今後の展望はどうなのだろうか?

これにはお二人から同じ答えが返ってきた。

「今はとにかくこの『季の美』をきっちり造ること。そこに時間とエネルギーの100%を注いでいます。先のことは、その後です」

英国人のアレックス・デービスさんと日本人の元木陽一さんの二人が、京都で紡ぐプレミアムクラフトジン「季の美」。

日本のクラフトジンはいま、新たな一歩を踏み出したようだ。

SHOP INFORMATION

京都蒸溜所
 
URL:https://kyotodistillery.jp/

SPECIAL FEATURE特別取材