都心にいちばん近いラム蒸溜所、
いよいよ蒸留スタート!
<前編>

PICK UPピックアップ

都心にいちばん近いラム蒸溜所、
いよいよ蒸留スタート!
<前編>

#Pick up

Aoki Taisei/青木大成 by「房総大井倉蒸溜所」

房総半島南部に位置する南房総市。「房総大井倉蒸溜所」はその山間部に誕生したラム蒸溜所だ。

文:Ryoko kuraishi 撮影:Midori Yamashita

コトブキテクレックス社のハイブリッド型の銅製蒸留器と代表の青木大成さん。メイン画像は、原酒数種類をバッティングしたオリジナリティ溢れるホワイトラム「Prologue」。来春、いよいよリリース!

戦後に始まった、南房総のサトウキビ栽培。

都心まで2時間あまりの距離にあって、世界のラム生産量の1割程度にすぎないアグリコールラムを中心に製造していくというコンセプトで、バーテンダーからの注目を集める造り手、「房総大井倉蒸溜所」。

ついに製造をスタートしたというラム造りを訪ねた。

「南房総の海岸沿いでは温暖な気候を生かし、戦後の食糧難の時代に各家庭で自家消費用のサトウキビを栽培していました」というのは、「房総大井倉蒸溜所」代表の青木大成さん。

「昭和50年代までは栽培されていたようです。

小学生のとき、家庭で栽培したサトウキビを持ってきている同級生がいたことを覚えていますから。

初めて味わったサトウキビはなんだか変に甘くて、正直、苦手だなと思っていました」

”RHUM”とある通り、フランス海外県のカリブの島々のラム造りを目指す。

その青木さんがアグリコールラムに目をつけたのは、東京のバーで働いていた経験から。

その後、実家が営む寿司屋を継ぐことになり、店内にバーカウンターを設けたのだが、「地場のサトウキビでグリコールラムを造ったら面白いかも」なんてお客さんやスタッフに話したところ、当時のサトウキビ栽培の様子を知る地元の高齢者を中心に大いに盛り上がったのだとか。

「そこで、耕作放棄地を甦らせたいと思っている高齢者たちの力を借り、2019年に小規模なサトウキビ栽培を始めました。

東京のバーテンダーやバー関係者が駆けつけて、畑仕事を手伝ってくれた。ありがたかったですね」

サトウキビシロップ(シュガーケーンハニー)を作ったりサトウキビのデータを集めたり、ラム酒製造に向けてのプランニングをしていたところ、思いがけなく「CHIBA ビジコン2020」で「ちば起業家大賞」を受賞。ラム酒製造が現実味を帯びてくる。

700坪の敷地の中に長屋門と蔵、母屋などがあり増改築を行って蒸留所としている。今後、山門の2階が試飲スペースに、蔵が熟成庫になる予定。

ワイナリーのようなラム造りを。

今年夏には南房総市千倉の古民家を改築した蒸溜所が完成、スピリッツの製造免許を取得し、アグリコールラム製造に向けて動き始めた。

こちらのラムの特徴はといえば、海外のラムを思わせる酒質の重さだ。

「僕たちのラム酒は、フランス海外県のカリブの島々の“RHUM”(フランス語表記)を目指しており、フランスのワインやブランデー作りをお手本にしています。

酒質はあくまでもどっしり、重め。

この酒質をキープしつつ、来春に予定しているファーストリリースではアグリコール、ハイテストモラセス、普及版としてインダストリアルの3種類を製造します。

自社農園での栽培をいかしたアグリコールとハイテストモラセスの製造を目標にしつつも、せっかくラムを造るならインダストリアルでも自分たちらしい味わいにも挑戦してみたいとトライしてみることに」

マテバシイの木片(左)をチャーリングして漬け込んだボトル。バー関係者に配ったところ、バニラやメープルを思わせる甘い香りが好評を博したそう。

黒糖は使わない!従来のジャパニーズラムと一線を画す味わい。

このインダストリアルにも特別なルートで入手した特殊な廃糖蜜を採用している。

「製造初期からアドバイスをいただいている海老沢さん(日本ラム協会会長)には『インダストリアルのわりに香りがしっかりしていて面白い』というお墨付きをいただきました。

インダストリアルではもろみ発酵のタンクにサトウキビの葉やバガスを入れてみています。

葉についた酵母で追熟しているのですが、このプロセスで独特の香りや風味を纏わせることができるようです。

酵母の種類や投入のタイミングを変えてみるなど、あれこれ試行錯誤してかなり面白い原酒になっています」

日本のラムはどこか黒糖焼酎っぽいというか、麹のニュアンスを感じさせるものが多いが、「房総大井蔵蒸溜所」は後発のニューウェーブということもあり、伝統的に使われている黒糖は一切、使わない方針だそう。

個人的には“熟成アグリコールラムのパイオニア”、「J.BALLY」のアンブレが目標という。

ストレートはもちろん、カクテルのベースとしても優れていて、アグリコールを手軽に味わってもらえる、そういうものを造りたいそう。

試験蒸留とバッティングを繰り返している。

地元のマテバシイ樽で里山の保全を担う。

「熟成に関してもいろいろトライしたいと思っています。

メインはバーボン樽ですが、地元に自生するマテバシイ(トウジの木)で小型の樽をつくり、フィニッシュに活用しようと考えています。

マテバシイは洋樽に用いられるオークと同じブナ科。

表面をチャーリングしたマテバシイの木片をバー関係者にサンプリングし、お酒に漬けてもらっているのですが、バニラやメープル、チョコレートを思わせる芳醇な香りが現れると高く評価していただいています。

戦時中、南房総では薪の材料としてこれが植林されていましたが、薪が廃れた現在は山荒れの原因になっています。

この間伐材を活用することで、里山の保全に貢献できるかもしれません」

耕作放棄地でサトウキビを栽培し、里山の環境を守るラム造りは、地域経済活性化の起爆剤になるかも……そんな可能性を秘めたBOSOラム。

後編では青木さんのサトウキビ畑を訪ねます!

後編に続く。

SHOP INFORMATION

房総大井倉蒸溜所
千葉県南房総市千倉町南朝夷1019
URL:https://rhumboso.com

SPECIAL FEATURE特別取材