「あえてペアリングはしません」
「maruta」の、植物と共にある食体験。
<前編>

PICK UPピックアップ

「あえてペアリングはしません」
「maruta」の、植物と共にある食体験。
<前編>

01.09.2021 #Pick up

Toyama Hiroyuki/外山博之 by「maruta」

東京・調布で土日のみの営業。ディナーは日没から一斉スタート。自由に歩ける庭はハーブやエディブルフラワー、果実が成る。開店から3年を経てさらに独自の道を行く、「maruta」の食とドリンクの世界観とは?

文:Yumiko Numa 撮影:Sonia Cao

レストランに着いたら、まずウェルカムティーを。スタッフの田中比香里さんが薪で手製の茶葉を焙じ、薪で炊いた湯で淹れてくれる。フレッシュのハーブティーが振る舞われることも。Photos by Sonia Cao

開店は2018年3月。

最寄り駅の調布駅、三鷹駅からもバスでないと来られない距離にあって、料理業界やフーディーを中心に「maruta」の開店は大きな話題を呼んだ。

レストランには、開け放たれた庭の虫の音や草木の香りが届き、「野性」を感じさせた。

大きなテーブルに席を設ける「シェア」スタイル。そして、主役の料理はじっくり時間をかけて「薪火」で焼き上げる。

こういったテーマは、「maruta」にしかない世界観だったからだ。 

開店から3年を経た2021年春、オープン時に参画していたサービスマン、外山博之さんが京都「LURRA°」より帰還。

「maruta」はさらに、独自の道に振り切り、唯一無二のレストランになっていた。

ドリンクの提供は主に、外山さんが手掛けている。

バーテンダーとして食の世界に入り、ホテルのレストランやでフレンチで経験を積み、代々木上原「Gris」(現:「sio」)では、まだペアリングという言葉すら浸透していなかった頃からペアリングに取り組み、教科書すらない時代にノンアルコールペアリングを確立させた……という人物である。

外山博之さんは、1981年生まれ、埼玉県出身。美容学校卒業後、ダイニングバーやホテルでのバーテンダーを経て、レストランのサービスへ。六本木「オーバカナル」時代にソムリエの資格を取得。代々木上原「Gris」(現「sio」)で6年にわたり、マネージャー、ソムリエとして活躍し、2018年3月のオープン時から「maruta」へ。2019年2月より京都「LURRA°」で勤め、2021年3月より再び「maruta」へ。

「ペアリングはしません。料理、ドリンク、庭、時間のすべてが主役」

その外山さんから開口一番発せられたのは、「marutaではペアリングはしません」という言葉だった。

あまりにも意外な発言。どういうことなのか? 

「僕が思うペアリングとは、料理をどう味わってほしいのか、この料理のこの部分の香りをいちばんに感じて欲しいというシェフの考えを掘り下げ、それを引き出すドリンクを合わせることです。

つまり、料理が主役です。でも今、ここでやっているのは、庭で採ったり近隣の農家さんから手に入れた植物や果実を素材にドリンクをつくり、その主素材が引き立つように仕上げることです。

たとえば、晴天の翌朝に収穫した香りのよいブルーベリーを発酵させたドリンクをつくるとして、ブルーベリーの香りをさらに引き出すにはどうするか。

そこでバラの香りがするハマナス(ローズピップ)を庭で採って、追加で漬け込む。

すると、ブルーベリーの主香成分がより強化されて、ブルーベリーの中の甘いセクシーな香りがブーストされるのです。

だから、料理のペアリングためにドリンクをつくるわけではなく、あくまでその時季に採れるものや旬を感じさせる素材を生かすことが目的です。

marutaの主役は、料理だけでなく、ドリンク、庭、そしてここで過ごす時間のすべてなのです」

セラーの中は、少量生産のワインに旧知の蔵元が醸す日本酒、東京・狛江市の「籠屋ブルワリー」による狛江産ホップで造ったクラフトビール、それに庭のさまざまな植物を漬け込んだリキュールなど、多彩なドリンクが並ぶ。

焙じたてのティーと庭の植物を生かした食前酒から、夜が始まる。

実際のところ、客の平均滞在時間は3時間30分ほど。4時間に及ぶこともある。

「座りっぱなしでは疲れてしまいますから、アミューズは炭火で焼いたイノシシの肉を庭で提供したり、自由に注文できるドリンクカウンタ―を設けたりして、食事中でも店内を自由に動いていただけるようにしました」

夕暮れから始まったディナーが終わる頃には、とっぷりと日が暮れている。

その変化を感じながらの食事は、都内でありながらどこか遠くへ旅に来たような、それでも本当の地方では体験できないような。異世界にやって来た感覚を味わわせてくれる。

料理は、1コース(¥18,000)のみ。ドリンクは単品もあるが、外山さんは「おまかせ(¥10,000)が断然おすすめ」だと太鼓判を押す。

料理の詳細はその日の仕入れにより直前まで変動するが、大まかな流れは決まっている。

ドリンクは、料理にも客の好みにも合わせて変幻自在。

おまかせはフリーフローのようなスタイルで、杯数に制限があるわけではなく、客とのやりとりで内容や量も変わる。

大まかな料理の流れはこちら。「ある日の料理」アミューズ(庭でつまむこともある)→ スナック(ウェルカムティーと共に)→ チップス(ビーツのソース、時季の野菜、庭のフレッシュハーブを添えて)→ 魚もしくは時季の野菜→ つまみ3種(たとえば、夏のある日は、朝どれの枝豆を下ゆでせずに熾火で炒ったもの、逗子の未利用魚の仲買人・長谷川大樹さんが獲った魚のカルパッチョ、八王子「磯沼ミルクファーム」のミルクを使った自家製モッツァレラチーズとイチゴ)→(アキ・ツメル)肉2種(60~120日熟成させた経産牛の薪焼き。それと対比するような若い牛や、宮城県牡鹿半島の猟師、小野寺望さんに よる夏鹿など)→ 庭の木のスープ(肉の端材、ハーブやクロモジ、ナラやクヌギなどの庭の木で出汁をとったスープ)→ デザート(近隣の農家が摘果した果実やハーブを用いることも多い)

「おまかせだと、『おいしい』だけじゃなく、『遊び心』を盛り込めます。

旬のハーブを使ったカクテルはもとより、たとえば、どくだみを漬けたスピリッツ、どくだみコンブチャ、どくだみを摺って入れたドリンク、なんてどくだみ尽くしを織りこんでみたり。

あえて抜栓して2、3週間経ったワインに生酛の日本酒を少し加えて提供してみたり」

当然ドリンクのメニューなど、ない。

いえるのは、まず来店したら、庭で焙じたばかりのウェルカムティーで迎えられること。

そして、食前酒はドリンクカウンタ―に赴き、外山さんとの会話で決めることだ。 

内容は日々異なるものの、大まかな料理の流れ(上の写真)と提供するドリンクの内容を教えてもらった。

まずは食前酒から見ていこう。外山さんは言う。

「爽やかでさっぱりしていて、アルコールが軽めのものを提供することが多いですね。たとえば、狛江のホップで造ったクラフトビール。

お客様にお好みと合うか伺ってみて、『こちらを足すと醸造所でタップから注いだようなクラフト感を愉しめますよ』と、ドクダミのコンブチャに二次発酵で狛江産ホップをつけたものを割り入れてることも。

より、クラフトビールの複雑な香りが高まるんです」

クラフトビールに、ドクダミ+ホップの自家製コンブチャを少量注ぐ。柑橘のようなホップのフレーバーと爽やかな苦みがプラスされ、いっそうフレッシュな飲み心地に! 

「この時季なら、フェンネルを漬け込んだリキュールにフェンネルのお茶を合わせ、摘みたてのフェンネルの花を加えて、仕上げに少量のソーダを注ぎます。

とても爽やかな風味で、好評をいただいています。

ほかに、庭の固有種のハッカ7、8種をお酒に漬けて、ハチミツで甘味をつけたモヒート風のカクテルをつくったり。

これだけ豪華に使わないと、庭にどんどん映えちゃうんです(笑)。

こんなふうにお客様の好みを聞きながらドリンクがつくれるのも、カウンターで目の前だからできることです」

のっけから「maruta」ワールドに引き込まれる。

この後、どのようなドリンクが提供されるのか? 後編にて紹介していきます! 

——後編に続く。

SHOP INFORMATION

maruta
東京都調布市深大寺北町1−20-1
TEL:042-444-3511
URL:www.maruta.green/

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