料理×ドリンクをもっと自由に!
気鋭のシェフのペアリング術。
<後編>

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料理×ドリンクをもっと自由に!
気鋭のシェフのペアリング術。
<後編>

#Pick up

川手寛康さん by「Florilege」

モダン・ガストロノミー「フロリレージュ」が発信する、「カクテル・ペアリング」の極意とは?「ドリンク=食材」というシェフの、ユニークなペアリング術をお届けする。

文:Ryoko Kuraishi

「タテルヨシノ」で修業したのちにフランスへ渡り、帰国後に「ロオジエ」で腕を磨いたソムリエの中村遼さん。Photos by Kenichi Katsukawa

料理の視点で至高の「カクテル・ペアリング」を考える今月。
それでは早速、フロリレージュ流「カクテル・ペアリング」のコツをお教えしよう。


① トーンを揃える
「ペアリングの王道はトーンを揃えること。
香り、味わい、余韻、歯ごたえ、口に含んだ時のふくよかさやナッティな食感など、料理とドリンクの共通点を探り、そこを強調します」


例えば、コースの前半にサーブする『ヘシコとセミドライトマトのパスタ』。
イワシのマリネと新タマネギのアイスを添えていただく。
アンチョビの代わりにヘシコを使うことで和の風味を加えた一皿だが、これには、自家製ハーブシロップとウォッカのカクテルを。


まずは自家製トマトウォーターにフレッシュなハーブを漬け込んで香りを際立たせ、レモンジュースとタバスコを加えてゼリーに仕立てる。
グラスに注いだウォッカ・カクテルに赤く爽やかなゼリーを浮かべた。
グラスにあしらったのはハイビスカスパウダー。
グラスを口もとに近づけるとふんわりとハイビスカスの香りが漂う。


「料理に使ったセミドライトマトのアクセントを、ドリンクでさらに強調したペアリングです。
コース序盤に出す組み合わせなのでさっぱりした後味を大切にしました」

もちろん、ワインの種類も豊富。

② 足りないものを補い合う
お次の料理はセミドライした経産牛を使った一皿。
フードロスの問題に取り組む川手シェフが、積極的に取り入れる食材である。


薄くたたいた牛肉をコンソメで味付け、燻製したジャガイモのピューレと一緒にいただく。
ドリンクはグランマニエ、カルヴァドス、アブサンをソーダで割ったカクテル。
エストラゴンなどフレッシュなハーブを浮かべ、レモンピールを削り入れる。


「料理にはない酸味を強調することで、まったりしたピューレの食感やコンソメの味わいとのコントラストが生まれます。
フレッシュハーブの爽やかさ、レモンの酸味が後味も爽やかにしてくれます」

グレープフルーツジュースとジン、ペルノーのシャーベットに、ハーブシロップ、レモンジュース、バジルを合わせたドリンクをミックス。

③ 温度差を楽しむ
こちらはオカヒジキで巻いたカキのかき揚げ。
間に棒状のカキのピューレのアイスを挟み、180℃の油で揚げてある。
その上にカキのアイスとおかひじきのサラダをのせ、液体窒素で瞬間冷凍したレモンの目連を添えた。


「180℃の油とマイナス195℃の液体窒素、400℃近い温度差を一皿で表現しました。
温度差だけでなくシャキシャキしたアイスの食感、カキのねっとりした食感の違いも楽しい料理です。

合わせるドリンクはキンキンに冷やしたグラスにグレープフルーツジュースとジン、ベルノーのシャーベットを入れ、自家製ハーブシロップとレモンジュースをミックスしたカクテルを注ぎ入れます。
かき揚げとの温度差はもちろん、ミルキーなカキにあえてレモンの酸味とペルノーの苦味という、相反するエッセンスを加えました。
さらに時間とともに変化する食感も楽しめるドリンクです。


カキには赤ワインを合わせるのがセオリーで、酸味のある白ワインを合わせることはあまりありません。
でもカクテルでアプローチするなら、全くべつのテンションでペアリングしてもいいんじゃいかな、そんな風に思います」

冷たさ×熱さ、シャキシャキ×ねっとり。いろいろなコントラストが楽しめるカキとオカヒジキのかき揚げ。

実際のカクテル・メイキングを担当するのは「フロリレージュ」のソムリエ、中村遼さんと廣田晴樹さん。
ワインリストから最適なワインを選び提案する「セレクション」から、シェフの料理にあわせて一から創作する「クリエイション」へ。
「カクテル・ペアリング」でクリエイトする難しさを痛感するようになったとか。


それでも、いざ挑戦するなら「ワインでは実現できないペアリングを見つけたい」と中村さん。
「ワインはすでにできあがっているもの。
グラスを変えるか微妙な温度変化くらいでしか違いを生み出せないけれど、ペアリングなら無限の可能性がある」と、その無限の可能性に面白さを見出しているようだ。


さて、「カクテル・ペアリング」のような斬新取り組みで食の世界に新風を吹き込む川手シェフ。
料理人として重視するのは、その料理の一皿でどんなメッセージを伝えるのか。
そこに描くストーリーだという。


「いま取り組んでいるのはフードロスやフードマイレージ、サステイナビリティの問題です。
こんなに食材の豊富な国に住んでいるのだから、どうせだったら国産の素材だけで調理したい。
うちはフォアグラ料理が有名なんですが、フードマイレージを考えて現在は少しずつ量を減らしているところです。


フードロスで言えば、経産牛は肉質が落ちると言って敬遠される傾向にあったのですが、経産牛だって工夫次第で未経産牛より素晴らしい食材になりえます。
そうやって料理人がおいしく、美しく料理することで新しい価値観を作っていくことができるはず」

木箱に流木や苔、花を詰めて生きたオブジェに。こちらも廣田さんの作品。

「先日、台湾のフェアで一緒になったアンドレ・チャン(世界のトップシェフの一人)も僕と同じような考え方でカモの心臓やタンを使った料理を出していました。
その時に、『こういう試みをぜひ続けていこう』って言ってくれたんです。
日本で野菜のくずから作るコンソメとか、経産牛の料理なんて話をすると色眼鏡で見られますが、その点、海外ではもうちょっと理解されるから励みになりますね」


たとえ叩かれても食の世界で新たな価値観を提唱することが自分の役割だと思っている、と川手シェフ。
「地方に行くと、ファーム・トゥ・テーブルを実践する素晴らしいシェフがたくさんいらっしゃって、いつも感銘を受けるんです。
それでも、東京に店を構える僕は畑を持つことも食材を作ることもできない。
ただ、そういう地方のシェフたちの姿勢を受けて、声を発することはできる。
理想を持って一歩を踏み出し、批判を恐れず自分たちの信念を発信する。
そんな料理人でありたいと思っています」


ユニークな「カクテル・ペアリング」から垣間見えたのは、川手シェフならではの進取の気性。
もの言う次世代シェフの発信にぜひ、ご注目を!

SHOP INFORMATION

Florilege
150-0001
渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1
TEL:03-6440-0878
URL:http://www.aoyama-florilege.jp

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