青森の風雲児、登場!
「八戸市長杯」への思いを語る。
<後編>

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青森の風雲児、登場!
「八戸市長杯」への思いを語る。
<後編>

#Pick up

久保俊之さん by「ark LOUNGE&BAR 」

先日、八戸で開催された「第七回八戸市長杯カクテルコンペティション」。47名のバーテンダーが繰り広げた熱戦の模様をお届けする。

文:Ryoko Kuraishi

500人以上を集め、大いに盛り上がるコンペティション会場風景。

4月6日(日)、グランドサンピア八戸で行われたコンペには、クラシック部門23人、フレア部門10人、クリエイティブ部門14名のバーテンダーがエントリー。
VIP席(¥24,000)が発売早々売り切れるなど、八戸市民の関心の高さをうかがわせたイベントには当日、500人以上の観客が集まった。


イベント開始までのひとときにはVIPチケットを持つ観客に向けて、クリエイティブ部門のジャッジとして名を連ねるバーテンダーたちによるスペシャルパフォーマンスが催された。


北條智之さん(「Cocktail Bar Nemanja」、WFAアジアディレクター兼全日本フレア・バーテンダーズ協会会長)は八仙ピンクやアップルジュース、紅玉の蜜などを使い、カーボネイト・シェイカーを用いて作った八戸スタイルのモスコミュールを。
南雲主于三さん(「code name MIXOLOGY akasaka」)は最新ミクソロジーのテクニックを駆使した、自家製フォアグラウォッカとチョコレートガナッシュを合わせたシグネチャーカクテルをサーブ。
バーニングオレンジで香り付けした大竹学さん(「パレスホテル東京 ロイヤルバー」)によるコスモポリタンのツイストカクテル、そしてニューヨークの後閑信吾さん(NY「Angel's share」、上海「Speak Low」)は「バカルディ レガシー カクテル コンペティション」で優勝したときのカクテルを披露。
観客はカクテルをテイスティングしながら、これから始まるアツい戦いへの期待に胸を膨らませるという趣向だ。


コンペティションはクラシック部門によるパフォーマンスで幕を開けた。
ステージ上には3つのバーカウンターが設けられ、日本各地から集まった23人のバーテンダーにより、「ウイスキーベース」というテーマで創作されたカクテルが披露された。

上段:大会スタート前、ステージ上で行われたパフォーマンス。左は後閑さん、右は大竹さん。 下段:運良くチケットを入手できた30名がカクテルと食のコラボレーション「フードマッチング」を楽しんだ。左はバーテンダー茂内さんとイタリア料理のシェフ、澤内さんのコンビ。右はバーテンダー久保さんとエスニック料理家の野村さん。

同じ時間帯に会場を別にして行われたのが、有名シェフとバーテンダーがコラボした「フード・マッチング」の試みだ。
計4組のプレゼンテーションがなされたが各回30名限定ゆえ、入場券を求めVIPチケットを持つ観客が開場前から長蛇の列を作ったとか。


八戸で一、二を争う人気ラーメン店店主、イタリア料理店のオーナーシェフ、そして創作エスニック料理の料理家と、八戸の人気料理人とタッグを組んだのは今イベントのプロデューサーである久保俊之さん(「ark LOUNGE & BAR 」)、前回大会のクラシック部門優勝者である茂内真利子さん(「The Bar Rose Garden」)、そして北上亨さん(「SWANKY DRUNKY FACTORY」)の三名のバーテンダー。
いずれも地元で人気のバーテンダーであり、今回のクリエイティブ部門のコンペに参加している。


カクテルと料理を合わせることで一つの世界観が完成するというプレゼンテーションでは、料理人とバーテンダーが事前に何度もミーティングを重ねたという渾身の作品が披露された。
注目を集めたイタリア料理の澤内昭宏さん(「リストランテ サワウチ」)と茂内さんの回では

・カルボナーラ×アドヴォカートとジンジャービアー、レモンジュース、ブラック&ピンクペッパーを使ったクリームベースのカクテル
・低温調理したローストポーク×マンゴーとココナッツのゼリー・カクテル

が登場。


アドヴォカートのカクテルはペッパーをふんだんにあしらうのがポイント。
一緒にいただくとパスタのもちもちした質感にペッパーの風味がぴりっと効いて、カルボナーラとカクテルの一体感が楽しめる。


続いて2品目、60℃をキープしたまま5時間かけてじっくりローストしたポークに、アルギン酸と塩化カルシウムを利用してゼリー状に仕立てたマンゴー&ココナッツのカクテルを添える。
いわばカクテルをソースにしてローストポークを味わうという試みだ。
カクテルには液状にしたマスタードが加えられており、ピリ辛甘いカクテルとローストポークのマッチングが楽しめる。

クリエイティブ部門のプレゼンテーションでは審査員が各バーテンダーのブースをまわり、そのプレゼンテーションを評価する。左から南雲さん、大竹さん、後閑さん、北條さん。

そのほか、エビつけ麺(小笠原亮さん/「麺屋 やだら」)×椎茸、鰹節、昆布、ドライトマト、ハマグリをインフュージョンしたウォッカのブラッディマリー(久保さん)や、カルダモンを効かせたナスのソースでしたてたチキン(野村みさおさん/「CHAKRAS」)×自家製カルダモン酒をスプレーし、クローブ、シナモンの薫香をつけたグラスで、シーバスリーガル ミズナラで作ったモスコミュール風カクテルをサーブ(久保さん)など、アイデアあふれるプレゼンテーションが次々と披露された。


メイン会場ではクラシック部門が終了したところで、10名のバーテンダーによるトーナメント方式でフレアのコンペが行われる。
予選は各自30秒×3回の持ち時間内で、司会が指示したアイテム数によるパフォーマンスを対面で繰り広げる。
観客の目の前で行われる迫力あるパフォーマンスに、観客も総立ちでエールを送る。
決勝に進んだバーテンダーは、ステージの上に設けられたフレアのカウンターの上で一人5分間の持ち時間でフリースタイルのパフォーマンスを繰り広げる。
こだわり抜いた演出でカクテルを披露した。


コンペを締めくくるのはクリエイティブ部門。
会場の後ろに参加者のためのブースが設けられており、それを審査員が巡りながらそれぞれのプレゼンテーションを評価する。
この部門がことさら盛り上がるのは、実際にテイスティングした観客も審査に参加できるからだ。
観客による投票結果が審査に反映されるのだ。


ジャッジには北條さん、大竹さん、ニューヨークの後閑信吾さん、南雲さんという人気バーテンダーが勢揃いした。

優勝した久保さんのプレゼンテーション風景。一般参加者にディッピングを楽しんでもらった。

久保さんのカクテル「Addressed to You」は「世界に一本しかない、あなたあてのバーボン」というメーカーズマークのコンセプトそのままに、「あなたのために作る一杯」を表現したという。


メーカーズマークにコーン茶、ラズベリーのピューレ、コーヒーとバニラをインフュージョンした自家製モルトシュラブを合わせるパンチスタイルのカクテルだ。
ざらにメーカーズマークのボトルの封蝋を思わせるディッピングをグラスのふちにチョコレートで施すのだが、カクテルをテイスティングする人にこの作業を体験してもらった。


今年はじめ、メーカーズマークの蒸留所見学に出かけたそうだが、そのとき抱いた感想をカクテルで素直に表現した、と久保さん。
パンチスタイルしかり、モルトシュラブをカクテルに加える発想は、メーカーズマークの生まれ故郷を訪れなかったら生まれなかっただろう、とも。


「今年1月のアメリカの蒸留所巡りに先駆け、昨年11月に香港、マカオ、シンガポール、台湾とアジア三ヵ国を三週間かけて巡ってきました。
異国の味や香り、それぞれの文化を味わった経験が、大いに役立ったと思います」


審査員からは「組み合わせが斬新で、シグネチャーカクテルにふさわしい独創性がある」と高く評価されたそうだ。
結果、このカクテルと久保さんのプレゼンテーションがクリエイティブ部門の1位に輝いた。
「やっぱりこれだけの実績のある審査員に評価されたことは大いに自信になります。
今まで僕の作るカクテルを絶対に『いい』と言わなかった審査員までも、『今回は本当によかったよ』と言ってもらえましたから(笑)」

各部門の優勝者にトロフィーが贈られた。左からクラシック部門の本間さん、クリエイティブ部門の久保さん、フレア部門の熊代さん。

クリエイティブ部門は2位が茂内さん、3位渡辺高広さん(京王プラザホテル「ブリアン」)で、1〜3位は僅差だったという。
クラシック部門は東京の本間勲さん(JBA BAR SUZUKI)、フレア部門は熊代綾子さん(ANFA 長野ブロック)がそれぞれ1位に輝いた。


「プロデューサーの立場としては時間が押してしまったなど反省すべき点は多々ありつつも、過去最高の入場者数を集め、カクテルに興味のある人が増えて来ているという確かな実感を持てたイベントになりました。
懸念していたクラシック部門ですが、おかげさまで八戸の若手ががんばってくれ、部門2位に入賞しました。
若い人に場を提供すれば実力を発揮してくれるということがわかり、やっぱりクラシック部門も大切にしていこうと認識を新たにした次第です。


フード・マッチングについては100人以上の方が整理券を求めて並んでくださったので、来年はもう少し数を増やすなど力を入れていきたいですね。
そうそう、来年は一般の入場者向けにセミナーを増やして、コンペも見られる・セミナーも受けられるという総合的な内容にしていきたいと思っています。
たくさんの方がカクテルについての視野や感覚を広げられるような機会を設けることができたらいいですね」


すでに後閑さんとは「八戸でセミナーを」、なんて話も持ち上がっているらしい。
大竹さんも「来年もまた来たい」と続投を表明してくれたそう。
後閑さんいわく「テールズ・オブ・カクテルの縮小版」という「八戸市長杯カクテルコンペティション」。


さらに深化を遂げそうな八戸のカクテル・シーンに引き続きご注目あれ。


SHOP INFORMATION

ark LOUNGE&BAR
青森県八戸市六日町8 山正ビル2F
TEL:0178-24-5310

SPECIAL FEATURE特別取材