若きミクソロジストが
バーの未来を輝かせる!<後編>

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若きミクソロジストが
バーの未来を輝かせる!<後編>

#Pick up

南雲主于三さん by「コードネーム ミクソロジー」

ミクソロジストとして、そしてバーオーナーとして。一つずつ目標を実現し、ステップアップしてきたいま、南雲主于三さんが考える次なるステップとは?

文:Ryoko Kuraishi

「何か、7月らしいフルーツで」というお題に応えて即興で作ってくれたのがこちら、「The 4th Avenue /ザ・フォース・アヴェニュー」。フォアローゼズとフレッシュなパイナップルにリコリスの苦み、ペッパーの刺激を加えバーボンの深みを際立たせた。スモークガンで加えた薫香が秀逸。

2009年、八重洲にて現在の店舗を立ち上げた南雲さん。
銀座でも六本木でも表参道でもなく、あえて東京駅近くを選んだ。
「オーセンティックなバーではないですから銀座の必要はないし、
乗降客数や就労人数、5、6年先までの都市計画などいろいろ調べた結果、
東京駅近辺が最適と考えました。
現状がどうであるか、今後その街がどう変わっていくのか、
競合他店の動きや自分の店にどんな価値を付与するか」


ロケーション選びにおいて南雲さんがこだわったことの一つが
「顧客と長い関係を築けるかどうか」。
「東京駅は東京のハブ駅ですから今までお世話になった方々も、年に2、3回は東京駅を使う機会があるだろう。
年に2、3回でいいから必ず訪れてもらえるような、そんなロケーションがいいなと思っていました。
そして自分の同世代はちょうど出張が増え始めたころでもありましたから、出張の帰りや接待、待ち合わせなどに使ってもらってもいい。
東京駅周辺には大規模な会社の本社機能が集中していますから、たとえばうちのお客さまが地方に出向して戻ってきたとき、部下や上司、
地方のお客さんと一緒に来ていただければ、
世代や地域を越えて長く関係を築けるんじゃないかと考えて」

南雲さんがこだわる「四味、五味」の秘密はこうしたビターズや各種スパイス、ハーブなど。「通常はベースに甘みと酸味でバランスをとりますが、さらに味を立体的にするために苦みや辛みを加えます」。

バー経営の先に見るもの

昨年秋には2号店「コードネーム ミクソロジー アカサカ」をオープン。
今後の構想だってかなり綿密に練られている。
「ミクソロジーの店舗は都内に最低5店舗、それらに付随する店舗をさらに5店舗。
そしてバーテンダーや飲食業界に向けて、バーを主体にした最新かつ正確な情報を的確なタイミングで発場する場を設けたい。
情報はさらなる発展につながり、コミュニティの結束を促し、新しい文化、新しいシーンさえ作ることができるかもしれません。


そして1年以内にカクテルの研究所を立ち上げます。
最新の機材、素材、インンフュージョンを用いて、カクテルがどこまで進化できるかを追求する。
自家製のビターズを作ったり新しい蒸留法を試してみたり、素材の組み合わせを吟味したり、
今まで自分がやってきたことのなかで、クリエイティブ面を極める施設です。
いずれはそれを学びたいという人も出てくるでしょうから、サテライトの学校も作ります。
日本全国、海外にいても受けられますし、講師陣だって国内にこだわりません。
サテライトだったら海外の一流バーテンダーを講師に招くことだって可能ですから」

「クラシックの本質がなにか、特に20代のバーテンダーには知ってほしい」という南雲さんの推薦図書がこちら。1862年に著されたジェリー・トーマスによる『バーテンダーズ・ガイド』、ハリー・ジョンソン『バーテンダーズ・マニュアル』、そしてデイヴィッド・ウォンドリッチ『インバイブ』。

経営面での新たな試みといえば、バーテンダーなど技術者のスキルを「価値」として交換し合う
ナレッジエクスチェンジのシステムも構築中だそう。
たとえばフレンチの料理人とミクソロジストなど、性格の異なる業種間であれば当然、持っている知識や人脈が異なる。
互いの知識やコネクションを補完し合うことでお互いがより高みを目指せたら一石二鳥だという考えだ。


「いろいろな人材や会社をつなげていくシステムがあれば、たとえば東京に出たいバーテンダーと地方の食材を極めたい料理人の『技術や知識の交換』だって可能になります。
いままでは若いバーテンダーが地方から東京に出るためには、店を辞めざるを得なかった。
このシステムが軌道に乗ったら、たとえば現在の店に属しながら、期間限定で上京し夢を追うことができる。
辞めずとも経験が得られるなら、飲食業界の離職率も下げられるんじゃないでしょうか。
そしてさらなる業界の交流が生まれ、技術的な発展が店舗の向上にもつながり、
それに伴う経済的な効果も長期的に見込めると思う」


二十歳の時から強い信念を持って将来を描いてきた南雲さんにとって、バーオーナーの肩書きはほんの一面にすぎない。
目標は「バー文化の向上」と「飲食業界に携わる人たちの地位の向上」。
文化も地位も、欧米レベルにまで引き上げたい。
そのためにはたった一人のカリスマバーテンダーは必要ない。
むしろ、運営する人間が現場で働く人間をしっかりサポートする、そういうシステムや組織作りが重要なのだ。

八重洲の店舗では今までになかった素材の組み合わせも積極的にリリースしている。こうしたハーブや木の根、スパイスが南雲さんのカクテルを引き立てる。カクテルのアイデアはシェフのための本やパティシエの本に求めることが多いという。バーテンディングと関係のないソースの視点をカクテルに持ちこむ、だから新しいのだ。

現場で働く人間を輝かせるために

「他業種とのいちばんの違いって福利厚生と雇用形態です。
たとえば50歳になったとき、生き生きと働いている姿を想像できるだろうか?スタッフが生涯に渡って生き生きと働きつづけたいと思う会社を作ること、それが経営者としての自分の目標です。
そのためにはまず健全な経営を行わなくてはいけない。
それには現場をバックアップしてくれる、総務や企画開発、広報などの事業部が必要になるでしょう。
バー業界を盛り上げ、バーテンダーの地位を向上させるためには、働く人間のことをきちんと考える素地が必要です。
まずは自分の会社がそのモデルケースになれれば、と考えています。


日本のバーでおなじみの師弟制もいいと思いますが、丁稚奉公では行き詰まってしまう。
しっかり働いた分、余暇も十分に楽しみ、そこから得たものを仕事にフィードバックする、
日本のバーでそんな働き方が当たり前になれば、もっと需要も雇用も増えてくるのではないでしょうか」

店内の蒸留器で自家製のカクテルリキッドや濃いエッセンスを抽出することも。

現場で働く人間をより輝かせるために、南雲さんが考えているいくつものプロジェクト。
もちろんそれらを受けて、現場の人間だって徹底したプロフェッショナルでいてほしい。
そう考える南雲さんから、若いバーテンダー、あるいはバーテンダーを目指す人たちへアドバイスを。


「ここ4、5年のバー業界の流れは非常に早い。しかし、トレンドばかりを追ってはいけません。
基礎を押さえるべき時期にトレンドを追ってしまっては、バーテンダーとして必要不可欠な基礎が身につきませんから。
バーテンディングとはそれなりの修行をしないと身につかないもの。
そして修行に近道はありません。守・破・離を意識してほしい。
師の教えを守り、それを破り、次のステージに向かう(離れる)、ここでいう『守』は日本のバーテンディングです。
日本のバーテンディングの技術は非常に奥が深い。
そしてそうした技能の習得には時間を要しますが、習得した技能もある程度のレベルに達しないと
習得にかかった時間が技能の質に転換されないと、僕は思うんです。
シェイクなりクラシックカクテルを作るなり、バーテンディングに必要な技能を習得するには最低でも10,000時間以上かかると思います。
そうでないとカクテルににじみ出る信念がなく、薄っぺらになると思うんですね。


技術や経験を得た後、最終的にバーテンダーの評価って人間力で決まるんじゃないでしょうか。
一杯のカクテルにその人の人間性が反映されてしまう。
ということは、教養や感性を磨くのみならず、人格を磨き、情報収集を怠らずクリエイティヴィティと自らの進化を追求しなくてはなりません。
もしそれらを極められれば、それはその後の人生の大きなギフトになると思うんです。
確固たる意思を持ち目標に向かって地道に努力をしていけば次の扉は必ず開く、僕はそう信じています。


そしてもう一つ。
最低10年先までの未来のビジョンをしっかり描くこと。
これからのバーテンダーの仕事は、現場だけではなくなります。
技術は価値になる。
未来を見据えた上で40になったとき、50になったとき、自分は何をしていたいのか。
それを客観視できれば、いま自分が成すべきことは自ずと見えてくるんじゃないでしょうか」

SHOP INFORMATION

コードネーム ミクソロジー
東京都中央区八重洲1-6-1
第三パークビル2F
TEL:03-3270-5011
URL:http://r.goope.jp/spirits-sharing/t_57110

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