世界一のバーテンダーがいる
京都ならではの町家バーへ。
<前編>

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世界一のバーテンダーがいる
京都ならではの町家バーへ。
<前編>

#Pick up

坪倉健児さん by「Bar Rocking chair」

2016年10月20日、20年ぶりに東京で開催された「ワールド・カクテル・チャンピオンシップ(WCC)」において、日本代表の坪倉健児さんが総合優勝を果たした。というワケで、京都にある坪倉さんのバーへ!

文:Drink Planet編集部

ショートドリンク(サワー)部門でのワンシーン。

2016年10月20日、東京・帝国ホテル。

世界63カ国から約100名のバーテンダーが集結した、国際バーテンダー協会(IBA)主催の世界大会「ワールド・カクテル・チャンピオンシップ(WCC)」において、総合優勝者の名前が高らかにアナウンスされた。

「ジャパーン! ケンジ・ツボクーラ!」

20年ぶりの東京開催となったWWCを制し、栄えある“ワールド・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー”の称号を手にしたのは、地元・日本代表の坪倉健児さん(京都「バー・ロッキングチェア」)だった!

まるでドラマのような幕切れに、会場は割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。


坪倉さんの応援団特製の京団扇。

昨年6月に「第42回全国バーテンダー技能競技大会」で総合優勝を果たした坪倉健児さんは、WCC 2016に日本代表として出場する権利を手にした。

奇しくも、WCC 2016は母国日本での開催。

コンペティション当日は、坪倉さんの名前が書かれた京団扇を持った応援団が、京都をはじめ全国各地から会場に詰めかけた。

坪倉さんは6つあるカテゴリーの中で、ショートドリンク(サワー)部門に出場。

ジンをベースに、柚子ピューレやミドリメロンリキュールで和のエッセンスを加えたオリジナルカクテル「THE BEST SCENE」をつくりあげ、見事部門優勝を果たした。

続いて、各カテゴリーの部門優勝者が一人ずつ試技を行うスーパーファイナルでも、他を寄せつけない美しいパフォーマンスと繊細なテクニック、お客様であるジャッジへの丁寧な対応により、母国開催のWWCで世界一(総合優勝)の座に輝いたのだ。

スーパーファイナルの試技が終了した時点で、会場内は「総合優勝はケンジ・ツボクラ」というムードに包まれた。

それは母国開催だから、という理由ではなく、坪倉さんのパフォーマンスがあまりにも圧倒的だったからだ。

さて、WCC 2016については、おそらく他のメディアでも多くの報道がなされることだろう。

というワケで、Drink Planetでは、坪倉さんがオーナーバーテンダーを務める京都の「バー・ロッキングチェア」を訪れ、坪倉さんにご自身のことや京都のバーシーンなどについて訊いてみた。

WCC 2016優勝カクテル「THE BEST SCENE」。

京都の繁華街である河原町四条から歩いて10~15分ほど。

四条通から御幸町通を南に下った周辺は、昔ながらの町家と低層階のビルが入り混じる“素顔の京都”を感じさせる落ち着いたエリアだ。

築100年以上の町家を改装した「バー・ロッキングチェア」は、思わず通り過ぎてしまいそうなほど、界隈の雰囲気によく馴染んでいる。

(昼間なら、確実に通り過ぎてしまったはず!)

木造の引き戸を開けると、打ち水された石畳が続き、もう一つの引き戸の先にバーが控えている。

左手には茶室を改装したという暖炉スペースがあり、右手にカウンター席、その奥に坪庭を望む一席が配される。

高い天井と木の温もりが心地いい、なんとも贅沢な空間だ。

「暖炉があるバーをやりたかったんです。ですから町家というのは偶然の巡り合わせです(笑)。でも結果として京都らしい雰囲気が加わり、京都のお客様にも、他所からいらっしゃるお客様にも、ゆっくりとお寛ぎいただける空間に仕上がりました」

そう坪倉さんは説明してくれた。

坪倉さんは京都生まれの京都育ち。

社会科の教師を目指し、北海道と東京にキャンパスがある大学への進学を機に、京都を離れた。

バーテンダーという仕事に出会ったのは、北海道にいた時のこと。

「深夜で時給がいい、という理由からバーでアルバイトをはじめました。バーといっても、アルバイトでもカクテルをつくらせてもらえるようなお店でした。ある時、先輩に某有名バーに連れて行っていただいたのですが、そこで衝撃を受けたんです。同じカクテルでも、自分がつくるカクテルとはぜんぜん味が違う。レシピは変わらないはずなのに、なんでこんなに味が違うんだ、と」

その後、何度かお店に足を運ぶうちに、マスターにかわいがってもらえるようになり、営業終わりで遊びに行かせてもらえるような関係になったという。

大学のキャンパスが東京に移ってからは、今はなき渋谷の名店「コレオス」に通うように。

ここでもマスターの大泉さんにかわいがってもらった。

「この頃にはバーテンダーになりたいという想いが強くなってきていました。ある時、いま考えると大変失礼な話なんですが、大泉さんに『バーテンダーをやっていてよかったですか?』という直球な質問をしたんです。すると、普段は『バーテンダーになんてなるもんじゃない』『ちゃんと就職しなさい』と言っていた大泉さんが『やっててよかったよ』とボソッと呟いたんです。この言葉を聞いて、自分の中でバーテンダーになる決心がつきました」

かつては茶室だったという暖炉スペース。店名にもなっているロッキングチェアが配される。

大学を卒業すると、霞が関「ガスライト」で6年、京都「K6」で4年、バーテンダーとしての修業を積んだ。

当時のガスライトは、20代の若さで「全国バーテンダー技能競技大会」を制した酒向明浩マスターのもと、多くの若手バーテンダーがコンペティションに出場し、全国レベルの優秀な成績を収めていた。

このガスライト時代に、坪倉さんもコンペティションに参加するようになる。

「最初は酒向さんに言われて深く考えずにエントリーしたのですが、『ガスライト』の看板を背負うことになるので、途中からは必死でした(笑)。ボトルを取る、キャップを開ける、といったところから徹底的に練習する中で、日々の仕事とコンペティションの練習がいい具合に積み重なり、バーテンダーとしての基礎が形づくられていったように思います」

「毎日の営業があって、そのうえでコンペティションの練習をするのは、時間的にも体力的にも相当ハードです。でも所作と基礎技術を身につけるためには、ある意味、絶好の機会とも言えます。ですから、特に若いバーテンダーの方にはどんどんチャレンジしてほしいですね」

世界総合優勝という輝かしい栄誉の陰には、やはり積み重ねてきた時間と努力があったのだ。

後編では、京都に自身のバーを開業した理由や京都のバーシーンについて話を伺っていこう。

後編へつづく。


SHOP INFORMATION

Bar Rocking chair
600-8044
京都府京都市下京区御幸町通仏光寺下る橘町434-2
TEL:075-496-8679
URL:http://bar-rockingchair.jp/

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