世界一のバーテンダーがいる
京都ならではの町家バーへ。
<後編>

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世界一のバーテンダーがいる
京都ならではの町家バーへ。
<後編>

#Pick up

坪倉健児さん by「Bar Rocking chair」

WCC 2016を制し、世界一のバーテンダーとなった坪倉健児さん。東京と京都で修業を積んだ坪倉さんは、なぜ京都に自身の店を開いたのか? そして京都と東京のバーの違いとは!?

文:Drink Planet編集部

前編でお伝えした通り、京都で生まれ育った坪倉健児さんは、銀座「ガスライト」で6年修業を積んだ後に、京都「K6」に移って4年働いた。

そして2009年2月、京都に自身の店「バー・ロッキングチェア」を開業した。

東京で店を出すことも考えていたという坪倉さんだが、なぜ生まれ故郷の京都で店を出すに至ったのだろうか?

カウンタースペースの奥には坪庭を望む席も。

坪倉さんが「ガスライト」に入店したのは24歳の時。

そこから10年で独立しようというのは最初から決めていたという。

「20代後半なると、友人の結婚式や実家の用事などで京都に戻る機会が増えました。京都に戻るたびに、勉強も兼ねて、京都のバーを巡っていたのですが、素敵なバーが多いことに改めて気づかされました」

「それぞれのバーが京都という街に根づいていて、時間もどことなくゆっくり流れている。徐々に京都で店を出すのも悪くないな、という想いが強くなってきました」

戻るからには、地に足をつけて、京都に骨を埋めるつもりでやろう。

そう決めた坪倉さんは京都に戻り、名店「K6」の西田稔マスターのもとで修業を積み重ねながら、自身のバーの構想を練り上げていった。

WCC 2016 ショートドリンク(サワー)部門にて部門優勝を勝ち取った際の受賞シーン。

京都に戻り「K6」で修業を積んでいる時も、自身の店「バー・ロッキングチェア」をオープンしてからも、坪倉さんは「全国バーテンダー技能競技大会」に出場し続けた。

自身は全国大会にすら出られないような状況のなか、東京の先輩バーテンダーが優勝し、いつしか東京で仲間だった同年代のバーテンダーが優勝を飾るようになった。

自分だけ取り残されてしまったのかな……、そんな想いが何度も胸をよぎったという。

2013年と2014年の「全国バーテンダー技能競技大会」では2年連続総合2位。

すでに十分な実績を残したとも言えそうだが、それでもあきらめなかった。

そしてついに、2015年6月に開催された「第42回全国バーテンダー技能競技大会」で総合優勝。

日本代表の座を射止め、先に行われたWCC 2016で世界一に輝いたのだ。

「巡り合わせといってしまえばそれまでですが、日本代表として出場させていただくWWCが東京開催であったり、暖炉を置ける物件を探していたらこの場所が見つかったり、必死でやっていると、いろんな方が助けてくれて、いい流れがやって来るような気がします。今があるのは、もうとにかく、目の前のことを必死にやってきた結果です」

さて、ここ数年、インバウンドの観光客はもとより、京都が世界的に大きな注目を集めている。

バー業界も然り。

銀座の名店「タリスカー」が祇園に完全移転したり、同じく銀座の「スタア・バー」が先斗町界隈に支店を出したり、ジンに特化した京都蒸溜所が開業したり……。

そこで東京と京都の両方を知る坪倉さんに、東京と京都のバーの違いを訊いてみた。

一概には言えませんが、と前置きしたうえで、坪倉さんはこんな風に答えてくれた。

「東京は、お客様の仕事の延長線上にバーがある、というイメージです。終電を気にされるお客様も多いですし、我々はファーストオーダーをいかに迅速に出すかを常に心掛けています」

「一方京都は、よりお客様の生活に近い場所にバーがあると言えるかもしれません。職場と家が近い京都では、仕事の後に家に帰ってからバーにいらっしゃる方が多い。ですからバーの時間の流れ方もより緩やかなような気がします」

他にも、東京であればお客様から名刺をいただくことが多いが、京都ではお客様から名刺をいただくことはほとんどないという。

コミュニティが狭い京都には、京都ならではの独自のバーカルチャーが根づいているようだ。

「京都らしいカクテルを」というリクエストに応えてつくってくれた、煎茶と玉露を浸け込んだジンを使用したホワイトレディ。

京都という土地柄、海外からのゲストは多いのだろうか?

「海外からのお客様は1~2割くらいでしょうか。ありがたいことに、東京やその他の街のバーからのご紹介が多いですね。SNSや海外の飲食サイトなどを見て、来店される方も多いようです。バーとしては、それほど積極的に情報発信はしていないんですが……(笑)」

WCCで総合優勝したことで、坪倉さんのバーを訪れる海外からのゲストは間違いなく増えることだろう(もちろん日本のお客様も!)。

最後に、坪倉さんに今後の展望を訊いてみた。

「次の世代のバーテンダーの育成に貢献していきたいですね。当店のスタッフもそうですし、京都はもちろん、日本全国も含めて、です。育成というと少し語弊があるかもしれません。諸先輩方が築き上げてくれた日本のバー文化を、次の世代にもきちんと伝えていくのが我々の世代の役目だと考えています」

現在のところ、坪倉さんのもとから独立したバーテンダーはいないという。

しかしながら、世界一のバーテンダーがいる京都の町家バーから、日本のバー文化を担う次の世代がどんどん現れることだろう。

そしてそれは、きっとそう遠くはないはずだ。

SHOP INFORMATION

Bar Rocking chair
600-8044
京都府京都市下京区御幸町通仏光寺下る橘町434-2
TEL:075-496-8679
URL:http://bar-rockingchair.jp/

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