器が変われば、味わいも変わる!
「コップでワイン」の新提案。
<前編>

PICK UPピックアップ

器が変われば、味わいも変わる!
「コップでワイン」の新提案。
<前編>

#Pick up

木村祐太郎さん by「木村硝子店」

酒を飲むのに欠かせないもの、それは飲み手の気持ちを盛り上げてくれる酒器だ。愛着のある器があれば、酒の味だって変わるはず。今回は酒器にフィーチャーし、飲んでよし、使ってよしのグラスを考える。

文:Ryoko Kuraishi

湯島にある木村硝子店のショウルームにはオリジナルはもちろん、さまざまなブランドのガラス器がずらり。Photos by Kenichi Katsukawa

ガラスの歴史は紀元前25世紀にまで遡るといわれる。
ワインやリキュールなど酒を飲む場面で重宝されるようになったのは、透明なガラスが誕生した紀元前8世紀ごろのこと。
以来、ガラス器と酒は切っても切れない関係にある。
「ガラス器の歴史は酒器の歴史」といわれる所以である。


こちらは1910年創業、東京・湯島にある「木村硝子店」。
プロユース特化したガラス器の企画・開発、および輸入・卸売を手がけている。
とくにグラスのラインナップは豊富で、カクテルグラスだけで200種あまり、業務用の商品も含めると実に2000種を超えるのだとか。


そんな木村硝子店で、木村武史社長とともにバイイングおよびオリジナルグラスの企画に携わるのが、専務の木村祐太郎さん。
木村さんいわく、「木村硝子店のグラスは見た目の気持ち良さを重視したデザインが多い」。

伝統的なワイングラスのデザインをベースに、シェフやソムリエなどプロの意見を反映してデザインした「ピーボ」。華奢なデザインはヨーロッパの工場に生産を依頼した。工場の選定に自由がきくのも、自社工場を持たない強みだ。

同じ飲み物を楽しむにしても、選ぶグラスよってその香りや味わいは異なる。
近頃は、多彩な飲み物の個性を引き出せるように考え抜かれた機能的なデザイン人気だが、普段使いに選びたくなるのは「手に持ったときに気持ちがいい」、「ついつい手に取ってしまう」、そんな「感覚的」なグラスではないだろうか。


「飲み物の個性とグラスの形状の関係に初めて着目した生まれたのが、いまでは一般的になったつぼみ形のワイングラスなんですが、これはワインを分析するプロセスを楽しむグラスです。
色をチェックし、香りを嗅ぎ、口に含み、味わいを評価する。
一方、うちのグラスはといえば、ビールをごくごく飲んで、『あー、うまい!』と一息つくようなときに最適なグラス。
飲み手が理屈抜きにおいしいと感じられる、ワイワイと楽しい時間を過ごせるシーンを念頭に置いて作っています」


見た目で気持ちが高揚すれば、中身だっておいしく感じられるはず、というのが木村硝子店の考えだ。
ワインもカクテルも日本酒も、普段着で気負わずに楽しみたい、そんなシーンのためのグラスである。
「だからうちでは、『このグラスではこういうものを飲んでください』という提案はやっていません。
そのグラスを見て触って、使い手が用途を考えてくれればいいと思っています」

木村さんの「師匠」こと、「ウィーン135」(¥454)。木村硝子店では2013年から取り扱っている。

オリジナルにしろ輸入ものにしろ、木村硝子店で取り扱うのは社長と木村さんが感覚的に「ピン」とくるものばかり。
一般的に「品質がいい」というと傷がない、透明度が高い、気泡がないものをいうが、木村さんには独自の品質基準があるようだ。


「何よりも大切にしているもの、それはグラスそのものの佇まい。
輸入品ではありがちなんですが、形がいびつだったり多少の傷があったりしても、『気持ちがいいな』と思えたものはラインナップに加えてしまいます。
自分たちが求める雰囲気や佇まいに合致していれば、一概に不良品とはいえないんですね」


そんな木村さんが昔から好んで使っているのは、長く持っていても飽きのこないスタンダードなデザインだ。
「男は面倒臭がりだし、なるべくシンプルで普遍的なものがやっぱり使いやすいんです」


それは木村硝子が業務用のメーカーであることも関係している。
飲食店はシーズンごとにグラスを買い換える訳にはいかない。
また、毎日使うグラスには気負わず使え、扱いも楽なデザインを求める。
さらに、主役である飲み物を引き立ててくれる形状がいい。
「そう考えると必然的にスタンダードなデザインに行き着くんですね」

こちらが昨年発表された「ベッロ」。サイズは3種あり、S¥1,404、M¥1,728、L¥1,944。「コップでワインを」という提案が受け、1年足らずで多くのファンを獲得した。

さて、「うまいグラス」を語るなら、木村さんが「師匠」と呼ぶグラスの話をしなくてはいけない。
イタリアのボルゴノーヴォ社が1970年代から国内向けに生産している、小ぶりで厚手(5mm弱!)のワイングラス「ウィーン135」だ。
40年以上もまったく変わらず、いまもイタリアの家庭で愛されているというそれは、グラスというよりコップと呼んだ方が良さそうな素朴な形状。


とくにヴェネト州のトラットリアなどでは一般的で、この地方の方言ではこのグラスにまつわる「オンブレッタ・ディ・ヴィーノ(「グラスワインを一杯」の意)」という表現があるほど。
夕暮れ時、町の人々はこれにワインを注ぎ、教会の陰でおしゃべりを楽しむのだとか。
当時の木村さんはこれがワイングラスだとは知らなかったが、そのシンプルなフォルムに惚れ込み2脚を購入して持っていたそうだ。

ある日、フィレンツェの有名なステーキ店に出かけたときのこと。
テーブルの上には見覚えのあるコップが並んでいた。
例のコップが、水用とワイン用に一人当たり2脚。
「これでワインを飲むの?とちょっとびっくりしたんですが、飲んでみたら実にうまかったんです。
『おいしい!』じゃなく、まさしく『うまい!』。
肉とワインの組み合わせが絶妙に感じられました」


こうして「ウィーン135」に弟子入り(?)した木村さん、後編ではこのグラスのように気負わず使える酒器の魅力を語っていただこう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

木村硝子店
東京都文京区湯島3-10-7
TEL:03-3834-1782
URL:http://www.kimuraglass.co.jp/

SPECIAL FEATURE特別取材