器が変われば、味わいも変わる!
「コップでワイン」の新提案。
<後編>

PICK UPピックアップ

器が変われば、味わいも変わる!
「コップでワイン」の新提案。
<後編>

#Pick up

木村祐太郎さん by「木村硝子店」

木村さんがイタリアで出合ったのは、「コップでワイン」という気負わないスタイル。気のおけない仲間と囲むテーブルに欠かせない、「うまいグラス」とははたして?

文:Ryoko Kuraishi

毎夏、木村硝子店が軽井沢で開催しているガーデンセール。今年は食品・食雑貨やワインのインポーター、そして京都の日本茶専門店「一保堂茶舗」など5店舗が出店した。

木村さんが「師匠」と呼ぶボルゴノーヴォ社の「ウィーン135」は、小ぶりのサイズと厚手の素材感が特徴の素朴なグラスだ。
ぼってりとした質感はそのまましっくりと手のひらに馴染み、飲み口さえ柔らかく感じられる。
ワインを口に含んでみれば、じんわりと口のなかにその香りが広がっていく。
フィレンツェのステーキハウスにてこのグラスでワインを飲んだ時、あらためて「イタリア人はワインも料理も、おいしいものをフラットに楽しむ土壌がある」と感じた。


「何よりも、家族や親しい友人と食卓を囲むひと時を楽しむ術を心得ています。
こういう場ではブドウの品種が、とか熟成が、なんてワインにまつわる口上は不要ですよね。
ただ楽しく、おいしく味わおうという意識で飲み物と向き合えるグラスこそ、自分にとってのいいグラスなんだと実感した瞬間でした」

わざわざ東京から駆けつける固定ファンも少なくないというガーデンセール。旧軽井沢の瀟洒なロケーションと透明感のあるグラスがぴったりマッチ。

カジュアルなテーブルワインにはみんなでわいわい、気軽に楽しめるグラスを。
そんな思いから昨年発表したシリーズが、「Bello(ベッロ)」(トップ写真)。
ボルゴノーヴォ社のグラスとは異なり、薄手で軽いハンドメイドのグラスだ。
気軽さやカジュアルさに加え、日本人ならではの「啜る」という感覚に着目したデザインだ。


「そもそも高さのある和食器が多い日本の食卓事情には、ステムつきの背の高いグラスは馴染みにくいように思いました。
さらに、食事時に香りを嗅ぐという習慣もなかったように思います。
むしろ、『啜る』という行為によって口に含んだときに香りを味わうほうが、日本人にとっては自然なのではないかと。
そういう意味で、『コップでワイン』というスタイルがしっくりくるように思えたんです」

気のおけない仲間と囲む食卓で、ワインを引き立て、会話を楽しく盛り上げてくれる「Bello」。ワイン用としてはもちろん、お茶用として、はたまた日本酒にと、さまざまな飲食店で重宝されている。

ふちに向かってならだかに広がるグラスを口もとに近づければ、注がれたワインの香りが顔の前でふわりと漂う。
通常のワイングラスは香りを集めることを意識した形状になっているが、口の中で香りを味わう形にした結果、日本酒に、日本茶にとさまざまな飲み物にマッチすることもわかった。


「グラスのなかにワインの香りを集めて嗅ぐというより、Belloで飲むワインはブドウの粒を口のなかに無造作に放り込んで、その味わいや香りを楽しむイメージ。
香りも味わいも感覚的に楽しめるグラスだったら、ワインに詳しい人もそうでない人も窮屈さを感じずに飲めるんじゃないかなと思いました。
僕自身がそういう窮屈さが苦手だから(笑)。


おまけに、到着したサンプルを広げてみたらスタッキングもできることが判明して。
場所をとらないから、飲み手はもちろん、飲食店にも嬉しい優れものだったんです。」


よく考えてみると、現在主流のつぼみ形のグラスが出てきたのは20世紀のこと。


「たとえば当時の絵画に描かれているのは、ステムこそついているものの、シンプルなコップのような形状のグラスです。
こういう昔ながらのグラスを自分なりにブラッシュアップしてみたら、Belloになりました。
アナログ感が漂う見た目ですが、グラスの味と香りの一体感というのでしょうか、つぼみ形とはまた違った味わい方が楽しめますよ」

「Bello」の次ははたしてどんな企画が生まれるのか。木村硝子店の、祐太郎さんのアイデアに乞うご期待! Photo by Kenichi Katsukawa

ものづくりに携わる者として、常に「自分が欲しいもの」を追い求めるという木村さん。
カジュアルなコップワインのグラスをリリースすることで、カジュアルに、気負わずに酒と食を楽しむスタイルを提案したつもりだ。


「これでいいやと妥協してしまえば、本当に欲しいものはできないんです。
これしかない!というモノを作り続けていければ、そのモノにまつわる背景や自分たちのアイデンティティも伝えることができるんじゃないかな。
そしてそれが使い手にうまく伝わったとしたら、それこそ作り手冥利につきますね」


食事のひとときに、いっそうの彩りや輝きをもたらしてくれる酒と酒器たち。
今宵あなたが出合うのは、はたしてどんなグラスだろうか。

SHOP INFORMATION

木村硝子店
東京都文京区湯島3-10-7
TEL:03-3834-1782
URL:http://www.kimuraglass.co.jp/

SPECIAL FEATURE特別取材