名インポーターに聞く、
「スタイル」ある酒選びって?
<前編>

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大熊慎也さん by「(有)スリーリバーズ」

センスのいいセレクションで、業界でもひときわ注目度の高いインポーター、「スリーリバーズ」。バーテンダーや各地の酒屋から絶大な信頼をおかれる大熊慎也さんの、酒選びの極意とは?

文:Ryoko Kuraishi

数年前、武蔵屋の協力で開催したテイスティング会にて。右が大熊さん、左はよきパートナーの前野さん。 (写真提供:武蔵屋)

設立からもうすぐ10年を迎える洋酒輸入会社「スリーリバーズ」。
名前は「スリー」だが、実際はたった二人で全てを取り仕切っている小さなインポーターである。
今回は「名テイスター」の呼び声も高い大熊慎也さんが、インポーターとして初登場!
時に「スリーリバーズらしい」とも評されるブランド・ラインナップとオリジナル・ボトルへのこだわりについて、たっぷり伺おう。


2003年春、現在のビジネスパートナーである前野一成さんと共に、大熊さんは「スリーリバーズ」を立ち上げた。
名前の由来は、ご存知、漫画『サザエさん』に登場する「三河屋さん」が由来だそう。
たった一本からでも、顧客の注文に応じて配達してくれる「三河屋さん」。
地域に根づいてきた「三河屋さん」の、フットワークも軽やかな対面販売こそが、自分たちが理想とするビジネスのあり方と考えたからだ。
大熊さんも「三河屋さん」のように「すぐに行きます!」「すぐにいれます!」、そう言えるよう日頃から心がけているという。


「例えば、酒屋さんに『ヨーロッパでこんな酒を飲んだんだけど、とってくれない?』と言われたら、すぐに海外のサプライヤーを探して見積もりをとります。
この10年間、毎週配達に出ていますし、『三河屋スタイル』は今もこれからも貫いていくつもりです」

スリーリバーズのオリジナル・モルトから「ザ・ダンス」シリーズ。「ザ・ダンス」シリーズでは世界各地のさまざまなダンスをラベルのモチーフにとりあげているが、「これは味わい自体がセクシーだったので、ポールダンスにしてみました」。リトルミル1988 23年熟成。

さて、そんな大熊さんにとって、インポーターの醍醐味とは
「相手に喜んでもらえる→よく売れる→たくさんの人に飲んでもらえる」
そんな正のサイクルなのだとか。


「このサイクルを大切にしていったら、お客様もバーも酒屋さんも僕たちもみんなハッピー。
僕たちインポーターは素晴らしいお酒を海外から輸入して紹介する黒子に過ぎず、主役は酒屋さんでありバーテンダーさんであり飲み手のお客様なんです。
酒屋さんに販売して頂き、バーテンダーにカッコイイトークで紹介してもらい、今まで知らなかったお酒をみなさんに楽しんでいただけたら、インポーター冥利に尽きますね」


そしてそのサイクルを支えているのが、大熊さんによる厳しいセレクトである。
サンプルをもらって二人でとことん、テイスティングを繰り返す。
しっかりと味を吟味する。
当たり前のようなことだけれど、これがスリーリバーズというブランドのブランディングにつながっている。

オリジナル・ボトリングに力をいれているスリーリバーズでは、ラベルにもこだわっている。こちらは「レディ&ユニコーン」シリーズで、視覚、聴覚、嗅覚など6つの感覚をテーマにしたとされる、6枚からなるタペストリーの連作「貴婦人と一角獣」をラベルのデザインに採用した。待望のシリーズ第二弾はディーンストン1977 34年熟成。

大熊さんと前野さんがスリーリバーズを立ち上げたのは、「しがらみや付き合いで選ぶのではなく、自分たちが本気で『いい!』と思ったものだけを紹介していきたい」、そんな想いを抱いたから。
そうやって厳選されたウイスキーやコニャック、カルヴァドスにグラッパ、ラム……。
そうした選び抜かれたラインナップを、人は「センスがいい」と評価する。
大熊さん、それではモノを選ぶセンスって一体どんなものなのでしょう?


「お酒にしろカルチャーやファッションにしろ、どんなモノ選びにもセンスって必要ですよね。
『センス』というと上から目線のようで居心地が悪いんですが、あるいは『スタイル』とか『視点』とも言い換えられるかもしれません。


僕たちも設立当初から『スタイルがあって、他のどこも取り扱っていない面白いもの』を積極的に扱おうと思っていました。
そうやって選んだボトルをプレゼンするために、センスがいいバーや酒屋にとにかく足を運んでテイスティングしてもらって……。
そうこうするうちに『あそこはとんがっている』、そんなイメージがついてまわるようになったようです」


とはいえ、メジャー指向ではないセレクトがすぐに受け入れられるわけでもなく、始めの3年はあらゆる面で苦労が絶えなかったそう。
それでも、「最終的には本物だけが生き残るんだ」という強い思いを胸に抱いて、全国で展示会を開くなど啓蒙活動に勤しんだ。


その結果、自分たちが思い描いていた通りの動きが段々とできるようになってきたとか。
オリジナルのボトルをリリースするなど独自の活動ができるようになったのも、こうした我慢の年月があればこそ、なのだ。

徹底的に味にこだわり、シングルカスクでリリースしたオリジナル・モルトの「ザ・ライフ」シリーズ。発売後即完売を記録した人気シリーズだ。まるで人生の機微のように味わい豊かなお酒をという願いをこめて、人間が生まれてから死ぬまでの一生を表現したポートレートをラベルにあしらった。一年ぶりにリリースした第12弾は、愛情深い老夫婦の姿をラベルにあしらったトマティン1976 34年熟成。

「自分たちも本物の人たちと末永くおつきあいしていきたいし、本物の生産者が作ったものを紹介していきたい。
本物だったら宣伝に予算をかける必要もないし、マーケットは小さくてもきちんとその思いを伝えていけるんじゃないかと考えているからです。
とはいえ、残念ながらそんなに売れている訳じゃないので(笑)、僕たちのスタイルを評価してくださっているのはごく一部の層だと思うんですがね」


テイスティングしてみて「これはあの人が喜ぶなあ」とか「あの酒屋さんに持って行こう」とか、「あそこのバックバーに並んでいたら面白そうだ」とか、スリーリバーズにとって「本物のお酒」とは、想像力を刺激してくれるもの。


一途な作り手の思いや製造工程に共感し、ただただ「たくさんの人に紹介したい」という気持ちから、売れる・売れないは度外視で輸入することもあるらしい。
「海外と取引しているとままあることなんですが、やっぱり突然ブランドがなくなってしまうとか、生産規模を縮小してしまって輸入できなくなることも。
一つ一つに思い入れがある分つらいですね。
いま扱っているボトルにも跡取りがいない蒸留所があって、気をもんでいるところです」

海外との渉外は前野さんの仕事だが、大熊さんも国外の生産者のもとをしばしば訪れる。これは極上のアルマニャックを手がける「ドメーヌ・ボワニエル」の畑。原料であるブドウの栽培から蒸留、熟成まで一貫して手がけている。

ところで、洋酒業界にはときたま突然のブームが生まれるが、ニッチなボトルを扱っている大熊さんがその功罪についてどう思っているかについても気になるところだ。
「僕たちはブームを追いかけるタイプではないですから。
追いかけるよりも、新しい動きを提案する立場でありたいと思っています。
そして万が一、それがブームになるようなことがあっても、それを一過性のものと捉えるのではなく、より突き詰めようと考える生産者や受け手のために新しい仕掛けやこだわりを提案できればいいですね。


ブームって結局、受け手の捉え方なんですね。
受け手が興味を持ってくれさえすれば、さらにその真髄を追求しようとするんじゃないでしょうか?
結局、一過性のムーブメントに揺らがないことが本物の強みだと思っています」


後編では大熊さんを魅了した「本質を極めた」銘柄を、具体的にご紹介しよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

(有)スリーリバーズ
東京都練馬区田柄4-12-21
TEL:03-3926-3508

SPECIAL FEATURE特別取材