名インポーターに聞く、
「スタイル」ある酒選びって?
<後編>

PICK UPピックアップ

名インポーターに聞く、
「スタイル」ある酒選びって?
<後編>

#Pick up

大熊慎也さん by「(有)スリーリバーズ」

作り手の想いへの深い共感によりますます洗練されてきた、人気インポーター「スリーリバーズ」のこだわりのラインナップ。インポーターの心を揺らしたとっておきのボトルを一部、ご紹介しよう。

文:Ryoko Kuraishi

カポヴィッラ社にて、オーナーであるヴィットリオ・カポヴィッラ氏とそのお嬢さん。「ここも跡取りがいないんです。ヴィットリオさんも『娘にはできない』と言っているし、この先一体どうなるのやら……」

業界の目利きとして知られる大熊慎也さんがこの業界に足を踏み入れたのは、大学時代のアルバイトがきっかけだった。


「大学の先輩にはじめてバーに連れて行ってもらってはまりました。
バーテンダーのほれぼれするような所作を初めて間近にして、すぐにバーでアルバイトを始めました」
バーテンダーへの憧れから始めた仕事だったが、やがて酒の奥深さにはまるように。
大学生ながらにコニャックやウイスキー、ラムの魅力にはまったというから恐れ入る。


アルバイトは2年続いたが、卒業後も「とにかく酒にまつわる業界にいたい」と洋酒の輸入卸売会社に就職。
モルトがまだマニアのためのものであった時代に、地方にも積極的に営業に出かけプレゼンテーションを繰り返した。
ウイスキー、コニャック、ラム、カルヴァドスなど洋酒全般を扱う会社で、人脈の面でも知識の上でも、得難い経験ができたそう。


そこで6年間、経験を積んで独立。
前野さんに声をかけた当初は、実はバーを経営しながらインポートの仕事も手がけようと考えていたそうだ。
だが、インポーター一本でやりたいという前野さんの強い気持ちに押され、「スリーリバーズ」を設立。
国内の仕事は大熊さん、海外の仕事は前野さん。
完全社内分業制で、個性派インポーターが誕生したのだった。

カポヴィッラも果物の自家栽培からボトリングまでを一貫して行うプロプリエテール。「プロプリエテールは現在では希少な生産者なんですが、うちで扱っているブランドはほとんどがプロプリエテールなんです」

それから約10年の年月を経て、現在はインポーターだけではなくインディペンデント・ボトラーとしても高く評価されている。
大量生産・大量消費の時代から本質を求める時代への移行期にある現代にあって、だからこそ本物にこだわるスリーリバーズの眼力が支持されるのだろう。
万人に受けるわけではないけれど、マスを狙っていないからこそ、その審美眼に「本質」を感じるファンは多いのだ。


さて現在、スリーリバーズで取り扱っている定番のブランドはウイスキーをのぞいて9銘柄。
ウイスキーは約10社のほか、オリジナルも扱っている。
スリーリバーズのスタイルがよく表れているラインナップから、おすすめを一部紹介してもらおう。


「まずはコニャックから。
いま注目のプロプリエテール・コニャックの中でも、とりわけ希少で評価が高い『ラニョー・サボラン』社。
プロプリエテールとは自家栽培、自家蒸留、自家熟成、自家ボトリングを行っている生産者のことです。
製造工程の始めから終わりまでを一貫して手がけるモノ作りの姿勢に共感します。
ラニョー・サボランは製造工程のすべてに作り手の意識が行き届いて、とてもエレガントな味わい。
創業者とその娘、孫と3世代に渡る女性3人が経営しています。
 

数年前、新婚旅行のついでに向かったのはノルマンディー地方にあるデュポン社の蒸留所。緑豊かな、美しい田園地帯へテイスティングの旅に出かけた。。

お次はアルマニャックで『ドメーヌ・ボワニエル』。
こちらも現在では少なくなったプロプリエテールで、やはり女性オーナーが経営しています。
ブドウの品種ごとに蒸留・熟成を行い、加水することなく瓶詰めを行っているのはアルマニャックの業界では大変珍しいですね。
最高のアルマニャック!と自信を持ってお薦めできるんですが、現オーナーに跡取りがいないことだけが気がかりです……。


カルヴァドスのデュポン社は、収穫からボトリングまでをデュポン・ファミリーが管理している、家族経営の希少な生産者です。
世界各地の三つ星レストランやバー、ホテルで取り扱われていますね。
熟成に内側を焦がしたオーク樽を使用したり、新樽への移し替えを行ったり、手間ひまを惜しまず、最高級品のカルヴァドスを生み出しています。


次はブランデー、偉大なる蒸留酒の造り手にして果物の作り手、ヴィットリオ・カポヴィッラ氏が手がける『カポヴィッラ』です。
オーナーはもともと醸造機械の仕事をされていたんですが、蒸留への情熱が高じてついに湯煎式蒸留器を完成させました。
その職人気質がブランデーにもよく表れています。


最高級の完熟果物のみを圧搾し、何も加えず自然な状態で発酵させ、さらにナチュラルなマザーウォーターを使って蒸留させるというこだわりよう。
果物の品質に満足がいかなければその年の蒸留は行わないという完璧主義者でもあります。
頭が下がりますね」

左はドメーヌ・ボワニエルの現オーナーであるマルティーヌ・ラフィットさん。宣伝なども一切行わない小さなドメーヌだが、業界では超有名で美食家の間ではつとに知られた生産者だ。ここも残念ながら跡取りがおらず、ブランドの将来が案じられる。

これら真摯な生産者は、スリーリバーズのブランド・ラインナップに共感してくれた蒸留所や作り手が紹介してくれることもしばしば。
ブランドリスト自体が、スリーリバーズの名刺のようなものなのだ。
だからセレクトには手が抜けないのだが、こうした一癖も二癖もある生産者たちとつきあう上で役立っているのが「普段の遊び」だと大熊さんは言う。


「僕は飲むのも食べるのも大好きなので、最近はもっぱら『マリアージュ』というか、マッチングの妙の追求にはまっています。
バー以外のシチュエーションで飲むことも好きなので、酒×食べ物の相性だけでなく、場所やシチュエーション、その場にいる人々のマッチングも含めてあれこれ考えるのが楽しいですね。


たとえば、最近のヒットは熟成したカラスミと、これまた熟成したシェリーの組み合わせ。
アウトドアも好きなので、キャンプにはブレンデッドの古いものを数種持参して、飲み始めから焚き火の前での最後の一杯までをトータルでオーガナイズすることも。
沖縄では現地のシークワーサーとパッションフルーツ、沖縄産の砂糖を買い求め、ホテルのテラスで夜空を見上げながら、地元の泡盛で『泡盛りーニャ』を楽しみました」
 

27ヘクタールの敷地で約6000本、およそ50種のリンゴを育てているデュポン社。リンゴの収穫からカルヴァドスのボトリングまで、全てを手作業で行うプロプリエテールである。

「基本的にこういうことを始終考えています。
日本酒の会にも足を運ぶし、新しい食事処ができたと聞いたらとりあえず出かけますし。
そうやって外に出ていろいろ見聞きし、楽しく遊んでいることが新しい発見や視点につながり、結果的には商品選びに役立っているのかな」


「お酒を愛する全ての方へ感謝」と話す大熊さん。
「まだ10年ですので、これからも地道にブレずに、スリーリバーズのスタイルで背伸びすることなく身の丈にあったやり方で、本物のお酒を紹介し続けていきたいです」


スリーリバーズが紹介する「本物」のお酒、これからも期待しています!

SHOP INFORMATION

(有)スリーリバーズ
東京都練馬区田柄4-12-21
TEL:03-3926-3508

SPECIAL FEATURE特別取材