ドイツ蒸留所留学!日記

SPECIAL FEATURE特別取材

ドイツ蒸留所留学!日記
[vol.04] - 第4回 フルーツブランデーの蒸留所巡り

#Special Feature

文:江口宏志 蒸留家見習い。現在「Monkey 47」のマスター・ディスティラーでもあるクリストフ・ケラー氏の営む蒸留所、Stählemühleで修行中。 12月~1月に、Stählemühleのフルーツブランデー・ハーブスピリッツを体験できるテイスティング・イベントをBar Benfidichほか各所で行います。詳細は、http://hiroshieguchi.com/2015/11/20/stahlemuhle_tasting_tour_in_japan.php まで。 hiroshieguchi.com

江口宏志氏がドイツの南の小さな村で奮闘する、蒸留留学日記の第四回。

ある日の朝、「発酵させたアップルの入ったタンクを運ぶからバンに積んで。」
と頼まれました。
よくわからないまま車に積んで、運んだ先は近所のなんでもない農家の軒先。
裏に回ってみると小さな小屋があって、そこには小屋にぴったり収まるこれまた小さな蒸留機があります。
Stählemühleだけではまかないきれない量がある時、こうやって近所の蒸留機を借りて蒸留をさせてもらうことがあるそうです。

そういえば、それを手伝っているトーマスという男性の家にも、小型の蒸留機があって、自家製のフルーツブランデーを作っています。
このあたりでは、蒸留は僕が考えていたよりもずっと身近なものみたいです。

こんなことがあって以来、他の蒸留所が気になってきました。
蒸留所を回ってみたいとクリストフに相談したところ、真っ先に紹介してくれたのが、Marderという蒸留所。

ブラックフォレストの南の端、スイスの国境近くのAlbbruck-Unteralpfenという小さな村にMarderはあります。
1953年に創業、2009年からは3代目のステファンが代表となって、2代目である父と家族とで経営しているごく小さな蒸留所。
主なスタッフは奥さんとステファン、そしてお父さんの3人。
限られた人員でいかに効率良く作業を行うかを考えぬかれています。

それでいて生産量は年間約15,000ボトル。
僕がいるStählemühleの数倍です。
アップル、梨、プラム、チェリーといったこの地域で採れるフルーツを使ったフルーツブランデーを中心に、ヘーゼルナッツ、カカオといったナッツ類や、変わったところでは、地元のビールメーカー「Rothhaus」と組んで、ビアブランデーなんかも作っています。
さらに、ジンやウィスキーまで作っているというのだから恐れいります。

2007年に建てたというまだ新しい建物の一階に蒸留所。
二台の蒸留機をブランデー用とジンとウィスキー用で使い分けています。

「果物を提供してくれる生産者のことも、それを買ってくれるお客さんのことも知っている。
そして作っているのは自分と家族だけだから、その循環の全てを自分はわかっている。」
とステファンは胸を張って教えてくれました。

その次に訪れたのは、Marderからブラックフォレストの山道をひたすら北上し一時間半、Staufenという趣のある町にある、Schladerer。クリストフ曰く、ドイツでもっとも美しい蒸留所とのこと。

町の中心部にある白い外壁に囲まれた内部が全部Schladerer。
大きい。

案内してくれたのは代表のフィリップさん。
Schladererは1844年に創業されて以来、シュラデラー一族が世襲していて、フィリップは6代目の社長。
いかにも育ちの良さそうなやわらかい物腰と流暢な英語を話す好青年です。

スタッフは約50人。生産量は年間約8,000,000リットルと相当な量。

蒸留機もフルーツブランデー用に10台、ガイスト(スピリッツ)用にさらに10台とかなりの規模。訪れた時間が遅く、実際稼働しているところは見れなかったけれど、プラムの蒸留が終わった後の濃厚な香りが蒸留所に漂っていました。

この規模になると発酵タンクも巨大で、建物内は温度管理もしっかりされています。
近代的な日本酒の蔵元のよう。

Marderとは対極ながら、これはこれでフルーツブランデー蒸留所の姿。刺激になります。

最後に訪れたのは、オーストリアのブレゲンツという町の外れにある、michelehofという蒸留所。

前日に伺う旨連絡をしておいたものの返事がもらえず、嫌な予感はしていたのだけど、案の定誰もおらず、蒸留所の中は真っ暗。
呼び鈴を押すと隣の牛小屋の上階の窓が開き、女性が出てきてくれたものの、英語が全く通じません。僕もドイツ語がわからないし、 お互いに困っていたら、どこかに電話で連絡をしています。

数分後にやってきたのはどう見ても小学生高学年のかわいらしい女の子。
どうやら娘さん。
でも、「 この蒸留所で働いている人は?」と聞けば、
「父と母と、あとは私。ときどきおばあちゃん。」と断言するだけあって、しっかりと蒸留所を案内してくれました。

一階は蒸留所、作業場、ショップ。
蒸留所は2つの蒸留機があって、シルバーの外装が新鮮。サイズはそこまで大きくない。
おそらくだけどブランデー用とウィスキー用で使い分けています。

古い農家家屋をフルリノベーションした建築もモダンでかっこいい。
蒸留所の奥は作業場になっていて、昔の設いをそのまま使っています。

2階はテイスティングルーム。3階はセラー。
フルーツブランデーは特注っぽいステンレスのスクエアなタンクに、ウィスキーは木の樽に。

迷った末にウィスキーを買ってみました。50ユーロ(約6750円)。
ホテルに帰って早速飲んでみると、香りにはクセがなく樽臭も抑えめ、その代わりけっこう強い甘みがある。
シングルモルトってどうしても樽臭の強いものを想像してしまうけれど、僕にとってはけっこういい意味で裏切られました。

三者三様、それぞれのフルーツブランデーに対する価値観や美意識が、明確に蒸留所に反映されていて、やっぱり蒸留って面白いなあと思ったのでした。



Marder
http://www.marder-edelbraende.de/

Schladerer
http://www.schladerer.de/

michelehof
http://www.michelehof.at/

Stählemühle(シュテーレミューレ)
http://www.staehlemuehle.de/

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牧場に生えたりんごの収穫。りんごをめぐって牛たちと激しい争いが繰り広げられます

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