食前酒には「アペロール」が定番!!
北イタリア・アペリティーヴォ事情。

SPECIAL FEATURE特別取材

食前酒には「アペロール」が定番!!
北イタリア・アペリティーヴォ事情。
[vol.03] - 後編from VENEZIA

#Special Feature

イタリアのアペリティーヴォ事情を探るべく、その代表格であるスプリッツ、ひいてはそのベースとなるリキュール「アペロール」をメインにイタリア各都市を訪ねる旅。

最後の街は、ヴェネチア。

運河と細い路地が島中を迷路のようにめぐる幻想的なこの街は、“水の都”、“アドリア海の真珠”などと呼ばれ、世界中からツーリストが集まる一大観光地でもある。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

シーズンにかかわらず、常に観光客であふれているため、一見、この街で普通に生活しているヴェネチアっ子というのは存在しないような錯覚に陥る。

しかしツーリストとはまったく別の世界で、ヴェネチアっ子たちは古くからの生活習慣を守りながら、昔と変わることなく暮らしている。

アペリティーヴォも然り。

例えば、ヴェネチアではワインのこと、ひいてはアペリティーヴォのように軽く一杯飲むことを「オンブラ」と呼ぶ。

それは昔、サン・マルコ広場で屋台をかまえていたワイン売りが、太陽の光から逃れるために広場の鐘楼の影(オンブラ)にあわせて移動していたことに由来している。

つまり“オンブラに行こう=ワイン売りのところに行こう”という訳だ。

ヴェネチアっ子たちは、コーヒーを飲みに行くような気軽な感覚で「オンブラに行こう」と誘いあい、アペリティーヴォどころか朝から晩までお気に入りのバーに集まっては「オンブラ」をし、おしゃべりに興じている。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

ところでそんなヴェネチアでのバー文化で最も特徴的なものが「チケッティ」だ。

これは小皿に盛られた軽いおつまみのことで、そのメニューは小さなパニーノやブルスケッタ(カナッペのようなもの)などの一般的なメニューから、タコの煮もの、サウド・イン・サウール(鰯のフライのマリネ)やバカラ・マンテカート(干し塩鱈のペースト)といったヴェネチアの郷土料理までさまざま。

何十種類もの「チケッティ」を揃え、これを自慢にしている店も多い。

雰囲気的にはスペインのタパスのようなノリで、いくつものフードを気軽にとって飲みながら食べる。

日本の居酒屋にも通じる部分があるが、イタリアの他の都市ではあまり見られない、ヴェネチア独特のバーカルチャーである。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

プロセッコを使うのが、ヴェネチア流スプリッツ。

リアルト橋のふもとにあり、レストランも併設しているため、「チケッティ」の味のよさが評判のバー「ムーロ・リアルト」の責任者ダヴィデ氏はこう語る。

「近くに魚市場があるため、このあたりは特に朝から市場で働く人たちがやってきます。彼らがオーダーするのは朝から白ワイン(笑)。これが午後のアペリティーヴォタイムになると、アペロールスプリッツに変わります。イタリア人、特にヴェネチア人にとって、“アペリティーヴォ=アペロール”ですから……。ちなみにヴェネチアのアペロールスプリッツは、白ワインではなくプロセッコを使うのが特徴なんですよ」

実はこの店、アペロールの消費量が世界で2番目のバールとのこと。

1日に出るアペロールスプリッツは700杯を超えるとか。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA> バーテンダーのジャンカルロ氏は、自分の名前と映画のタイトルをもじったオリジナルカクテル「Carito’s Way(カリートの道)」も用意している。

アペロールにトニックウォーター、しぼったライムとミントを加えたもので、ワインやプロセッコを使わないためアルコール度が低く、ライムとミントが甘さをほどよく緩和してくれると好評だ。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

ヴェネチアの郷土料理にもアペロールスプリッツを!

続いてもう1軒、「チケッティ」の味にこだわる店を訪ねた。

エノテカ(ワインバー)とオステリア(食堂)の中間、という意味を込めてエノステリアという肩書をつけている「ティモン」は、もともとはおいしい「チケッティ」を出す店として知られていたが、その名声が広まったこともあり、増築してランチやディナーを本格的に出すオステリアに改装した。

ディレクターのアルヴィーゼ氏は言う。

「ヴェネチア人にとってアペロールスプリッツは必需品。スプリッツとプロセッコはDNAとしてヴェネチア人の体内に刻まれているんです(笑)。ここに来られるお客様はヴェネチアっ子が60%、観光客が40%ぐらいの割合ですが、アペリティーヴォとしてだけでなく、食事と一緒にアペロールスプリッツを楽しまれる方も多いんですよ。ヴェネチア名物のバカラ(干し塩鱈)料理などは最高にアペロールに合うと思います」

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

アペロールスプリッツ発祥の地はヴェネチア!?

さて、チケッティをはじめとする料理の話に終始してきたが、もちろんドリンクで勝負するという老舗バーもある。

ヴェネチアっ子たちが日光浴に来るスポットとして有名なザッケレ地区にある「ニコ」は、同店自慢のジェラート以外は簡単なおつまみしか置かないという、昔ながらのバールスタイルを保っている。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

オーナーのウォルター氏とマウリツィオ氏は語る。

「ジューデッカ島を見渡せる絶好のロケーションから観光客にも人気の地区なので、このあたりのバールにはツーリスト向けにピッツァなどの軽食やセットメニューを出す店も多いんです。しかしウチは違いますよ。1937年創業当時から、ジェラテリア&バールというスタイルを貫いています」

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>「ですから、たとえ30分でもアペリティーヴォのために必ずバールに足を運び、仲間とともにスプリッツを1~2杯飲む、という伝統習慣を大事にしているヴェネチアっ子が多く訪れます。イタリアの他の都市では、瓶入りのアペリティーヴォ用ドリンクなどが出回っているようですが、ヴェネチア人はきちんとカクテルになったアペリティーヴォを好みます。そしてやはりスプリッツがマストですね」

「スプリッツのベースは、年配の男性ならカンパリ、若者や女性は圧倒的にアペロールです。アルコール度もアペロールのほうが低いので、飲みやすく消化がいいのも理由だと思います。ちなみにアペロールスプリッツの発祥の地はパドヴァだという説もありますが、ヴェネチア人はヴェネチア発祥だと思っているんですよ(笑)」

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from VENEZIA>

パドヴァ、ミラノ、ヴェネチア。都市によって違いはありながらも、それぞれの人が“お気に入りのドリンク”以上の特別な思いを寄せるアペロールスプリッツ。

古くからの伝統的なドリンクスタイルが若者にも受け継がれている様子に、イタリア文化の変わらぬ偉大さを垣間見た気がした。

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>

食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>

     
食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>MURO RIALTO ムーロ・リアルト
Campo bella Vienna, Rialto, San Polo 222 Venezia
041-2412339
http://www.murovenezia.com
食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>TIMON ティモン
Fondamenta Ormesini Cannaregio2754 Venezia
041-5246066
食前酒には「アペロール」が定番!!北イタリア・アペリティーヴォ事情。<後編from MILANO>NICO ニコ
Zattere 922 Venezia
041-5225293
http://www.gelaterianico.com

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