現代東京の夜をさまよう
ノマドバーテンダーの生き方術。
<後編>

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現代東京の夜をさまよう
ノマドバーテンダーの生き方術。
<後編>

#Pick up

神条昭太郎さん by「TWILLO」

夜も更けて、モバイルサロン「トワイロー」はますます盛り上がる。都内を移動するというトワイローの「冒険」の日々の醍醐味を、神条昭太郎さんに語ってもらおう。

文:Ryoko Kuraishi

クリスタルのグラス、キャンドルの明り、一輪のバラの花。まるで映画のセットのようなしつらいだ。

銀行員、そして政治家秘書時代も、飲むことは大好きだった。
「スピリッツからウイスキー、甘いリキュールまでなんでも」という神条昭太郎さん。
しかもあらゆる酒を、ストレートでたしなむという。


アルバイトをしながら世界各地を巡っていたとき以来の、バーテンダー経験。
「バーテンダーとしてきちんとした修業はしていないし、『なんちゃって』なんです」と謙遜するが、もともと好きだった分だけ、酒には自身の美学を注ぎ込む。
現在の酒のラインナップは、NYやどこかの街でのバーテンダー経験を基に、自らの好みを色濃く反映させたセレクションだ。


「4大スピリッツはそれぞれ1種類ずつ。
昔はシングルモルトも扱っていましたが、いまはスコッチとバーボンが各1種。アブサンや薬草系など好みのリキュールが少々。
焼酎、日本酒、ワイン、ビールも用意しています。


ラインナップは季節によって変えていますが、トータルはだいたい20数本。
これだけ絞っても、それでも屋台の重量は250〜300kgになるし、一人では登れない坂道もあります(笑)。
ボトルの数は多い方がいいんでしょうが、モバイルというスタイルを考えれば、自然に数は絞られます」

オープンは夜10時過ぎ。ツイッターで営業場所を知った常連たちがひとり、またひとりと現れる。

銀杏並木の横で営業していたときは現在の倍以上のボトルを扱っていた。
移動することを前提に、段々ミニマルになっていった小さなバックバーは現在の神条さんの「好きなもの」が凝縮されている。
基本的には自分が好きで、かつ、そこそこリーズナブルなものを。


世の中にはジンやラム、テキーラ、あるいはシングルモルトの専門店があり、希少な銘柄を含め何百種というボトルを揃えていたりする。
それは素敵なことだけれど、当然ながら神条さんが目指すのはまったく別のスタイルだ。


「たとえばジンひとつをとっても、普通のバーにはタンカレーもボンベイサファイアも、スモールバッチのジンだってあるでしょう。
とはいえここはモバイル・サロン、この小さなバックバーでお客さんを満足させなくちゃいけない。
ということはお酒だけではない、時間や空間全体を含めてプレゼンテーションやここならではのコンテンツが求められているんだと思います」


普通のバーにあって、ここにないもの。
普通のバーにはないけれど、ここにはあるもの。
神条さんが日々、リヤカーを引きながら見つめるもの。
その一つが、「風景」である。

自らが好むキューバンシガーも。

日頃、見慣れた風景も、そこにトワイローが出現したことによって見知らぬ風景になったりする。
あるいはバーカウンターのキャンドル越しに見つめる夜のシーンに、いつもと違う風情や情緒を見つけたり。
トワイローがあることで、見慣れた都会の風景に非日常感がもたらされる。


まるで現実感を伴わないその空間には、新たな出会いや冒険の高揚感がみなぎっている。
それこそがトワイローの世界感だ。


Less is Moreの精神を反映させた店のありかたももちろん、他のどこにもないものだ。


より便利に、より種類豊かに。
客の要望やリクエストにきめ細かに応えてくれる、現在の飲食業界の方向性とは明らかに異なる店作り。
ボトルの数をミニマルにすればするほど、嗜好性は強まっていく。


店主のパーソナリティを反映させるのは、たった1本ずつのボトルという究極のセレクションなのだ。

スペースを最大限に有効活用する。アイデア勝負のボトルホルダーも。

「今後の予定もゴールもないままさまよっている」というトワイロー。
神条さんが日々綴る「冒険」の物語と非日常感に憧れて、普段はバーに行かないという女性客も足繁く訪れる。
お酒には詳しくない、そんな常連客も多い。
とはいえ、けっしてオーセンティックなバー愛好家向けの店ではない。


「そう考えると、もしかしたらここはバーの入り口というよりバーの出口なのかもしれません」
と神条さん。

「お酒はあるけれど、一種類しかない。
今日はここにいるけれど、明日はどこにいるかわからない。
気に入ってもらえたとしても、また同じ場所で会えるかどうかはわからないんですから」


でもだからこそ、今日、あるいはいまという時間の大切さを共有できる。
今日は『今日』一日しかなくて、それをいかに終わらせるかは自分次第。


今日を終わらせる最後の舞台として、存在できればいい。
モバイル・サロン「トワイロー」は、そんな都会に暮らす冒険者たちのオアシスとして、今夜もどこかで明りを灯す。

SHOP INFORMATION

TWILLO
なし
TEL:なし
URL:https://twitter.com/twillo0

SPECIAL FEATURE特別取材