野沢温泉蒸留所:注目のクラフトジンは
村の風景をイメージ。
- 後編 -

PICK UPピックアップ

野沢温泉蒸留所:注目のクラフトジンは
村の風景をイメージ。
- 後編 -

#Pick up

Yoneda Isamu/ヨネダ イサム by「野沢温泉蒸留所」

後編で掘り下げるのは、「野沢温泉蒸留所」のクラフトジン。酒類品評会「SFWSC2023」のジン部門で日本最多となる4つの金賞を受賞するなど、国内外の注目を集めている。

文:Ryoko Kuraishi

2023年12月に誕生したバースペース。インダストリアル風のバーカウンターは、缶詰の製造に用いられていた機械を流用したものだ。

「野沢温泉蒸留所」でリリースされているのは、定番の「NOZAWA GIN」、「CLASSIC DRY GIN」、「IWAI GIN」、「SHISO GIN」、そして地元の道祖神火祭りを讃える限定ボトル「DOSO GIN」の全5種(2024年2月現在)。

ジン造りのスタートはいまから2年前、オーナーが「野沢温泉村のジンを造ろう」と発案したこと。

「野沢温泉蒸留所の主役は、野沢温泉村の湧き水である」という造り手たちの思いから、この湧き水を育む村の自然をクラフトジンで表現しようとしたものだ。

サムさんらスタッフは村人たちと一緒に山に入り、たくさんのボタニカルを採集した。その数、およそ100種類。

そこから素材同士の相性を見極めてレシピを開発していった。

こちらはタスマニア・Knapp社(タスマニア)の小型ポットスチル。限定品やプロトタイプの製造にはこちらを使っている。

「定番のクラフトジンについてはそれぞれ、村を取り巻く自然をテーマに設けています。

たとえば、標高1,650mの毛無山を中心に、野沢温泉村を取り囲む山々とそこにあるブナの森の風景のイメージから、山の頂から少し標高を下げ、村が位置する標高600〜1000mの辺りの、人の営みのある風景。

さらに山麓の、畑や果樹園が広がるランドスケープというように、それぞれの風景にインスパイアされた香り、余韻、味わいを作り出しました」

「NOZAWA GIN」は森の中を散策している気分になれる爽やかな香りと味わい。蒸留所周辺の森で手摘みしたクロモジの華やかで甘い香りと、同じく近隣の森で採れたスギのスッキリした苦味が特徴。

ウッディなニュアンスを添えているのは村産のカキドオシ。

「CLASSIC DRY GIN」はまるでマティーニのようなパンチの効いた味わい。一粒ずつ丁寧に手剥きしたサンショウ、甘い香りのオリスルート。トップノートは広島産ビアフランカレモンの繊細な柑橘香だ。

クラフトジンの素材いろいろ。写真上:スギのチップ。下左:野沢温泉村のスモモ。下右:フレッシュの大王ワサビ。

「IWAI GIN」はフレッシュなフルーツや植物の、春の芽生えを思わせる生き生きとした味わい、香り。熊本のマイヤーレモン、長野県中野市産の手摘みのスモモ、そして桜の葉!どこか桜餅を思わせる、ユニークなフレーバーだ。

「トニックウォーターを加えるとスモモのニュアンスが現れて楽しいんですよ」

そのほかにも地元の赤シソを使った「SHISO GIN」がある。

「村のジャム工房『St.Anton』のシソジュースを加えたもので、村の昔ながらの営みをイメージしました。

スタッフが『おばあちゃんの家を思い出させる、どこか懐かしい香り』とコメントしましたが、まさにそんな気分で飲んでいただけます」

そして、野沢温泉村のコミュニティを代弁するジンを、という思いで開発したのが「DOSO GIN」。

「日本三大火祭り」の一つと言われる野沢温泉村の道祖神火祭りに敬意を表し、火祭りの香りをジンで表現した。

「火祭りのハイライトが、祭りのために建てられた社殿の火付けなんですが、トースティングしたブナの木のチップで、バニラの香りをつけています。炎の熱は少しだけ加えた鷹の爪で。

長野県産ほうじ茶が香ばしさを、シナモンなどの冬のスパイスが温かみのあるスモーキーな香りを引き出します」

バースペースで提供しているジンのフライト。

酒ツーリズムで村と共生する。

今後、野沢温泉蒸留所として取り組んでいきたいのは、村のグリーンシーズンを盛り上げる施策だ。

ウィンターシーズンに比べて訪れる人が減ってしまうグリーンシーズンに、村のレストランやショップを活気づけようというのだ。

「通年で営業する蒸留所だからできる、夏を盛り上げる仕組みがあるんじゃないか。そう考えていろいろな企画を考えています。

今年の夏には蒸留所の敷地内にある桜の木下にテラスを設け、ビアガーデンをオープンしますし、体験型の酒ツーリズムを実施できないか検討中。

たとえば、クラフトジンに使うカキドオシの収穫やレモンのピーリングなど、ジン造りの裏側をコンテンツ化してみたらどうだろう、とか。

蒸留所が盛り上がることでその熱気が周囲にも波及して、グリーンシーズンの村全体が盛り上がる。そういう存在になれたらいいですね」

蒸留所内にバーがオープン!

12月に蒸留所内の試飲スペースをバーにリニューアルしたばかりで、現在は「NOZAWA GIN」、「CLASSIC DRY GIN」、「IWAI GIN」、「SHISO GIN」の4種のジンのフライトや、それぞれのジンを使ったギムレットやマティーニ、アップルサワー、ネグローニといったスペシャルカクテルと、「野沢温泉蒸留所」にインスピレーションを与えてくれる世界中のウイスキーを使ったカクテルを提供している。

ツーリストやスキーヤーのニーズを踏まえたリニューアルだが、バーテンダーからプライベートジンに関する問い合わせも多いそうで、今後はバーに向けた取り組みにも力を入れていきたいというから、小規模の試験蒸留やテストバッチの可能性もありそうだ。

もちろん、蒸留所ツアーの予約も絶賛受付中。

「バーテンダーのみなさんにぜひ、ユニークな設備と製造を見ていただきたいと思います。
世界の酒類品評会に認められた、野沢温泉村ならではのものづくりにご期待ください!」

SHOP INFORMATION

野沢温泉蒸留所
長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9394
TEL:0269-67-0270
URL:https://nozawaonsendistillery.jp/en

SPECIAL FEATURE特別取材