MAWSIM GIN:カンボジア発、
再生資源事業から生まれたクラフトジン。
<前編>

PICK UPピックアップ

MAWSIM GIN:カンボジア発、
再生資源事業から生まれたクラフトジン。
<前編>

#Pick up

Hara Tomotada/原有匡 by「MAWSIM」

「World Gin Awards 2023」でアジア圏初のWORLDS’ BESTに輝いた「MAWSIM GIN」。外来水生植物をバイオエタノールに変える試みから生まれたジンの、誕生の背景とは?!

文:Ryoko Kuraishi

プノンペン市内の中心部、古いビルの一角にコンセプトバーを擁する蒸溜所が。

カンボジアの首都、プノンペン。市内中心部に位置する古びたビルの一角にある蒸留所&バーがいま、注目を集めている。

その名は「MAWSIM(マウシム)」。蒸留所の名前であり、こちらが手掛けるクラフトジンの銘柄名でもある。

現在のラインナップは「MAWSIM GIN SPICES & HERBS」と「MAWSIM GIN TROPICAL CITRUS」の2種。

ジュニパーベリー以外に使われているボタニカルは、「MAWSIM GIN SPICES & HERBS」が野生のカルダモンやフレッシュペッパー、コリアンダー、キナ、ガランガル(東南アジア原産のショウガ)、ジンジャー、カシューナッツ、レモングラス。

「MAWSIM GIN TROPICAL CITRUS」にはバッタンバンオレンジ(カンボジア・バッタンバン州原産のオレンジ)、ライム、コブミカン、キンカン、パイナップル、パッションフルーツ、マンゴーが使われている。

ジュニパーベリー以外のすべてのボタニカルはカンボジア産のフレッシュなもの。

「MAWSIM GIN SPICES & HERBS」に使われているボタニカル。写真中央のフレッシュペッパーは、カンボジア東部の高原地帯、モンドルキリ産。果肉のつき方も香りも、他とは比較にならぬほど豊かなペッパーを、モンドルキリの契約農園にて完全有機農法で栽培している。カンボジア人が経営する農園とフェアトレードを行い、利益を地元の生産者へ還元しているのも特徴だ。

カンボジアはエキゾチックなスパイス&ハーブの宝庫

というのも、世界に出回っているスパイスやハーブの95%は熱帯アジア原産。つまり、カンボジアで手に入らない素材はないと言っても過言ではない。

また柑橘をはじめとしたフルーツだって、他エリアとは比較にならないほど種類豊富に揃う。

欧米など寒い地域で造られているジンのボタニカルはほとんどが乾燥したものだが、こちらでは地元産のフレッシュなものをそのまま使えるというメリットがある。

「カンボジアでクラフトジン」というと意外に思うかもしれないが、実は地の利を最大限に生かしたものづくりだといえるだろう。


素晴らしいロケーションに注目してジン造りを行う「MAWSIM」の母体は、岐阜県で古紙などの再生資源の回収および卸売を行う「サンウエスパ」。

岐阜県の、再生資源を扱う企業がなぜカンボジアでジン造りを?

ジンに欠かせないボタニカルを育む、植生豊かなカンボジアの熱帯雨林。

カンボジアの“やっかいもの”をエネルギーに?!

「私たちはもともと、古紙や紙くずを回収してリサイクルし、紙の原料として販売する事業を行っています。

日本では古紙はほぼ100%リサイクルされていますが、一方でシュレッダーにかけた紙くずは構造的にリサイクルが難しく、廃棄されていました。

これに対し、私たちはシュレッダーダストからバイオエタノールを作る技術を確立したのです。

古紙は植物の繊維(セルロース)からできていますが、このセルロースを、酵素の力で糖に変えて発酵させることで、バイオマス由来のエタノールを得ることができます。

しかも、従来のバイオエタノールはトウモロコシや小麦など穀物由来ですが、古紙から作られるエタノールはこれら食糧と競合しないのです。

そんなバイオエタノールに可能性を感じ、未来のエネルギーとして活用する事業を進めています」(サンウエスパCEO原有匡さん)

蒸留所に併設するコンセプトバー。テーブルやドア、床板などにも廃材を再利用している。

ところが、国内では廃棄物処理法に関わるさまざまな問題に直面。加えて、古紙由来のエネルギーという点に付加価値を付けづらく、実用化に向けて足踏み状態が続いた。

そこで、新しいエネルギー市場を求めて日本以外の国に目を向けるようになった。そのなかの一つにカンボジアという選択肢があったのだ。

古紙をバイオエタノールに変える技術を活用すれば、すべての非可食植物がバイオエタノールの原料になる。

カンボジアで目をつけたのが、7ヶ月で200万倍(!!)にも繁殖する水草。カンボジア各地で在来品種を脅かしているという南米原産の外来種、ホテイアオイ(金魚鉢に浮いているアレ)である。

「ホテイアオイでバイオエタノールを作り、燃料としてボートエンジンなどで利用する……そんな未来には夢があると思いませんか?」と原さん。

カンボジアの水辺のやっかいものをエタノールに変え、エネルギー利用するプロジェクトがスタートした。

サンウエスパ代表の原さん。

環境課題の解決にも役立ち、地域への還元も行える……ということで、現地で一年に渡りリサーチを重ねたが、ガソリンよりも高価になってしまい採算が合わない。

ならば、同じバイオエタノールでより収益性のあるビジネスを確立し、伴走させることでバイオエタノールのエネルギー化を模索すればいいと考えた。

では収益性のあるエタノールの活用法はなにか?「その答えが飲料用アルコール、つまりベーススピリッツでした」

同じバイオエタノールでも、飲料用の価値はエネルギー利用に比べて100〜200倍も高いのだとか。

では、この飲料用アルコールを何に仕立てるか。

それが、熱帯アジアというカンボジアの地域性を出しやすいクラフトジンだったのである。


後編では、MAWSIM GINのおすすめの飲み方とともに、造り手たちが描くサスティナブルな未来をご紹介します。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

MAWSIM
#133E1, St.108, Sk.Sras Chhork, Kh.Daun Penh, Phnom Penh
TEL:+855 98 420 205
URL:https://mawsim.shop

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