新潟県上越に誕生!
美術館のようなクラフトジン蒸留所。
<前編>

PICK UPピックアップ

新潟県上越に誕生!
美術館のようなクラフトジン蒸留所。
<前編>

#Pick up

Tsukada Kazushi/塚田和志 by「越後薬草蒸留所」

昨年10月、新潟県上越市に誕生した「越後薬草蒸留所」は、蒸留所内に現代アート作品を展示するギャラリースペースを設けた、美術館のような蒸留所だ。今月は「越後薬草蒸留所」のジン造りをレポート。

文:Ryoko Kuraishi

定番の「THE HERBALIST YASO GIN」。香りを生み出すさまざまなボタニカルを7つのパートに分け、それぞれ蒸留方法も変えて香りを最大限に引き出した。

野草の世界をアートとして捉える

野草のプロフェッショナルが立ち上げたクラフトジンブランド、「THE HERBALIST YASO」。

この造り手が、新潟発のクラフトスピリッツ蒸留所、「越後薬草蒸留所」だ。

手がけるのは、新潟県上越市に拠点を構え、この地の野草を使った酵素ドリンクや発酵食品を開発・製造してきた「越後薬草」。

同社が手がける代表的な商品が野草酵素飲料だが、その製造中に生じるアルコールに目をつけたことから、スピリッツの開発がスタートした。

「THE HERBALIST YASO」の蒸留拠点として誕生した「越後薬草蒸留所」は、野草と発酵にまつわる世界観をアートの一つとして体感してほしいというユニークなコンセプトを掲げている。

それではさっそく、蒸留所内を見学してみよう。

蒸留所の3階に設けられた、360°の大パノラマが特徴のラボフロア。地元食材を活かした料理とジンのペアリングを楽しめる。

蒸留所内はテーマによって3フロアに分かれている。

1階は蒸留器が置かれ、蒸留している様子を見学できるファクトリーフロア。

2階はオープンスペースのアートギャラリーフロアで、こちらには植物や発酵をテーマにしたアート作品が展示されている。

3階は上越の風景を360°の大パノラマで味わいながら、ジンと地元食材を使った料理のペアリングを楽しめるラボフロア。


主役となるのは、「YASO」と名付けられたジン。

「野草」の語感と、原材料である80種の植物の「80(やそ)」をかけあわせたものである。

野草酵素のパイオニアならではの知見で、種々の野草の成分を抽出する。

酵素ドリンクの副産物、アルコールを活用したい!

「そもそも上越市は代表的な和漢植物であるよもぎの、全国有数の産地です。

また、高温多湿の夏と低温多湿の冬の温度差、豪雪地帯という風土により、古くから発酵文化が発達しており、“発酵どころ”として知られてきました。

そんな上越で、私たちは40年前から地域の特性である『野草と発酵』を組み合わせた独自商品の研究・開発・製造を行ってきました」

そう話すのは、同社の代表である塚田和志さん。

「私たちの野草酵素ドリンクは地元産のよもぎをはじめ、スギナ、ドクダミ、海藻や果物など80種の原材料のエキスを発酵・熟成させて完成します。

発酵のプロセスでは酵母菌や乳酸菌などの微生物がはたらきますが、その副産物として年間数十トンにも及ぶアルコールが生成されます。

野草酵素飲料は清涼飲料水ですので、生成されたアルコールを発散させなくてはいけませんから、これまでは蒸留器を使って空気中に放出していました」

代表の塚田さん。

「清涼飲料水にとっては不要なアルコールですが、自然の恵みからもたらされる副産物ですから、これを『越後薬草』らしい形でうまく活用することができないかと考えるようになりました。

そうしてたどりついたのが、クラフトスピリッツというアイデア。

とはいえ、塚田さん自身はお酒に弱く、それまでジンやスピリッツを味わったことがなかった。

「ですから、当初は自分たちで製造するつもりはなく、酒造メーカーに原料として供給しようと考えていました。

けれども提供先との交渉がなかなか進まず、それなら自社でトライしてみようと、とりあえずスピリッツ製造免許を取得したのです。

聞けば、クラフトといわれる造り手の中には、海外からベーススピリッツを買い付けて再蒸留しているところもあるとか。

私たちは酒蔵と同様、自社でベーススピリッツを製造することができます。それもウリになると思いました」

中国江蘇省製の陶器のかめを用いて発酵・熟成させる野草エキス。エキスには野草の力が凝縮されており、まろやかなコクやうまみも生じている。このエキスが「THE HERBALIST YASO」の原料になる。

はたしてアルコールにどんな活用の形があるのかとリサーチしてみたところ、酵素ドリンクの「80種の野草」というキーワードとリンクするのがジンだった。

さらに調べてみると、ジュニパーベリーが入ってさえいれば「ジン」と名乗れることから、味わいも原材料も非常に多彩であることがわかってきた。

たとえば、塚田さんが「複雑な味わい、澄んだ香りに衝撃を受けた」という「モンキー47」。

「自分たちが目指すジンにおいてベンチマークはありませんが、あれだけ個性派のジンがあることも励みになりました」と塚田さん。

ジンがもつ自由度の高さ、懐の深さに興味をそそられ、上越という土地の個性を強調したジンを造ってみたいと思い至る。

「自由すぎるジンの世界で、自分たちならではのキャラクターを開拓していこうと思ったのです」


後編に続く。

SHOP INFORMATION

越後薬草蒸留所
新潟県上越市小猿屋73番地
TEL:025-544-3050
URL:https://yaso80gin.jp

SPECIAL FEATURE特別取材