バーテンダーの次なる挑戦は、
「おいしい」のプロデュース!
<後編>

PICK UPピックアップ

バーテンダーの次なる挑戦は、
「おいしい」のプロデュース!
<後編>

#Pick up

高宮裕輔さん by「Bar au comptoir」

バーテンダーからオリジナルの食品開発へ、そしてイベントの企画や飲食業のプロデュースへ。バーテンダーの活躍の場を求め、商品プロデュース会社を立ち上げた高宮裕輔さん。その挑戦を追いかける!

文:Ryoko Kuraishi

深夜でも食事が楽しめるよう、週替わりで内容を変えて提供しているパスタ。¥800〜。Photos by Tetsuya Yamamoto

高宮さんがプロデュース業に目を向けるようになったのは、ちょうど自分の店を構えたころ。
当初はバーで働きながら、食品加工の工場で製造の現場にも携わっていた。
この2年間の現場での経験が大きかった。
アイデアを商品とするためのHOW TOを得た高宮さんは、自らが温めていた企画の開発に取り掛かった。


「初めに手がけたのは『生七味』。
生の唐辛子、青実山椒、黄ゆず、金ごま、ショウガ、愛知の青海苔に海塩という7つの素材で、『食べる調味料』という新感覚の七味を開発したんです。
厳選した素材を、食感も楽しめるような微妙な大きさに刻んで混ぜて、という手間も時間もかかる品で(笑)。
これは伊勢丹や大手高級スーパーでも取り扱ってもらえ、初商品ながらかなりのヒットとなりました」

カウンターのいちばん奥は、高宮さんお気に入りの小さな「書棚」。「落合務の料理ノオト」から「日本山岳史」まで、高宮さんのパーソナリティを物語る本が並ぶ。

この次に手がけたのが「ペペロンチーノの素」。
塩、ニンニク、パセリ、唐辛子だけで作った調味料で、茹でたパスタに加えるだけで本格的な一皿に仕上がるという、手軽さと完成度の高さをウリにしたが、こちらも素材の食感を引き立てる具材の刻み方に苦心した。


このように商品を開発し、マーケットに売り出すために必要なのは「バランス」だという。


「近年は消費者の食への意識も大きく変化し、安全やおいしさ、作り手の姿勢などが注目を集めるようになりました。
そういう時代だからこそ、明確なコンセプトとオリジナリティを備えた商品が求められるのだと思います。


とはいえ、自分のこだわりばかりを具現化しても商品にはならないんですね。
いい素材を使えればいくらでも美味しくなりますが、コスト面も考えなくてはいけない。
自分らしい味わいやオイジナリティと、消費者のニーズとのバランスを図らなくてはいけない。
また、工場に生産をお願いするにあたり、現実的に作れるものに落とし込まねばならない。
味わい、オリジナリティ、コスト、工程のバランスだと思うんです」

こちらは岡山県美作市の生産者から届いた野菜の一部。キュウリにインゲン、デストロイヤー(イモ)と玉ねぎ。カクテルの材料に、パスタに、あるいはつまみに。この店に野菜は欠かせない。

そして、昨年リリースしたのが、ブラッディメアリー用のカクテルソルト。
岩塩とセロリシードをブレンドしたスパイスは、トマトの青臭さを和らげ、かつトマトのみずみずしさや酸味を引き立ててくれる。
そもそも、ブラッディメアリーの生みの親、フェルナンド・プティオのオリジナルレシピにもセロリソルトは使われていたという。


もともとは店で出すブラッディメアリー用に自分でブレンドしていたカクテルソルトで、商品化するつもりはまったくなかった。


「材料のハラペーニョ、パセリシードはいずれも自然のものですから、当然、味や香りにばらつきが出ます。
店で出す場合は、現場で調整すればいいから簡単ですが、商品化するにあたって『均一性』という問題が生じます。
『生七味』の時も経験したんですが、商品化ってここがいちばん難しい。
適した素材がなかなか見つからなくて、原料メーカーをいくつも回りました」

季節のカクテル、「パプリカクーラー」(トップ画像)を作る。「酒飲みは野菜を欲している人が多いので、サラダ代わり(笑)」と、嬉しい心配り。¥1,200。

そうまでしてもこのソルトを世に出したいと思ったのには、理由がある。
「実は、これはバーテンダーに向けてのメッセージでもありました。
というのも、これまでのフードプロデュースの過程において、バーテンダーには食品を開発する素地があるなって気がついたからなんです」


シェフやパティシエは大手食品会社のプロデュース業に携わるなど、本業以外の活躍もめざましいが、それにくらべてバーテンダーはそうした機会が少ないように感じられた。
酒と合わせるための食品プロデュースも、バーテンダーよりソムリエが抜擢されるケースが目についた。


「僕が商品をリリースできるくらいですから、この業界には新商品のプロデュースやコンサルティングなどで活躍できる逸材がたくさんいると思うんです。
このカクテルソルトは、バーテンダーの可能性への、僕なりの挑戦です。
そして次の挑戦は、同じようなアイデアを抱くバーテンダーたちをサポートしていくことです。


アイデアとセンス、そして情熱のあるバーテンダーが、商品開発やプロデュース、コンサルティング、イベント企画など現場以外の舞台で輝いていけるよう、多少なりともそのお手伝いができれば。
バーテンダーの仕事の幅が広がれば、僕たちの業界はさらに発展していく。
バーテンダーと食の組み合わせで、いろいろなことに挑戦していきたいですね」


高宮さん本人の最終的な目標は、バーテンダーとして大手メーカーの食品開発に携わることだとか。
その夢に向けてバーテンダーが発信する、新しい食の物語にどうぞご注目あれ!

SHOP INFORMATION

Bar au comptoir
東京都練馬区石神井町7-1-1 コピーヌ石神井公園
TEL:03-5393-2019

SPECIAL FEATURE特別取材