バーテンダーの次なる挑戦は、
「おいしい」のプロデュース!
<前編>

PICK UPピックアップ

バーテンダーの次なる挑戦は、
「おいしい」のプロデュース!
<前編>

#Pick up

高宮裕輔さん by「Bar au comptoir」

巷には有名シェフの名を冠した食品が溢れているけれど、もしもバーテンダーが食品をプロデュースしてみたら......?今月はバーテンダーと食の関係を考える。

文:Ryoko Kuraishi

こちらが「BLOODY-MARY CELERY-SALT」。左はオリジナル、右がスパイシー。スノースタイルで提供しやすいよう、パッケージを平たくしたのもバーテンダーならではのアイデア。各¥1,260。Photos by Tetsuya Yamamoto

ブラッディメアリー専用のカクテルソルト「BLOODY-MARY CELERY-SALT」をご存知だろうか?
シチリア島の良質な岩塩と、メキシコ産の香り高いハラペーニョ、そしてセロリシードを使った、ブラッディメアリー専用のスパイスである。


この商品を開発したのが、「Bar au comptoir」バーテンダーの高宮裕輔さん。
現在は食品をプロデュースする会社も立ち上げ、フードプロデューサーの顔も持つ。
そんな二足のわらじを履く高宮さんに、バーテンダーと食のおいしい関係を伺った。

ブラッディメアリーは、新鮮なトマトを丸ごと、ペストルで潰して仕立てる。

高宮さんが食に興味を抱くようになったのは、バーテンダーの修業時代。
当時働いていた西麻布のバーには、近隣で働くフレンチのシェフや和食の料理人が仕事後に飲みに来ていた。
「料理の経験はまったくなかった」高宮さんだが、彼らの口から語られる料理の可能性——多彩なテクニックや無限に広がるペアリングの奥深さ——にすっかり魅了されてしまった。


「そういうプロたちに基本的なことを教えていただくうち、昼間の空いている時間に仕込みを手伝わせてもらえるようになったんです。
子供のころは大工になりたかったくらい、手先は器用な方で、少し覚えたらびっくりするくらいはまってしまいました(笑)」


やがてめでたく自分の店を構えると、ここで料理魂が爆発してしまう。
酒に合う料理やつまみも提供したいとメニューに凝るうち、店が回らなくなってしまった。

「BLOODY-MARY CELERY-SALT」でスノースタイルに仕上げた。シグネチャーのブラッディメアリー¥1,000。

「一人でお酒を作って料理もやっているのだから回らなくなるのは当たり前(笑)。
でも、やりたいことがたくさんあってついつい、あれこれと手を出してしまいました」


もう一度、足元を見直すことになった高宮さん。
お酒をメインにしつつも、周辺には遅くまで食事ができる店がないことから、仕事帰りに立ち寄って飲みながら楽しめるようなメインディッシュを、種類を絞って提供することにした。
現在は季節の野菜を使った一皿と、パスタの2種類のみ。
どちらも週替わりで内容を変えている。


「たまたま知り合った岡山や徳島の生産者から、その時々のいいものを送ってもらっています。
トマトやキュウリは、周辺の直売所や同級生の実家の農家から。
僕はこの辺りが地元なんですが、練馬区にはまだまだ畑があるんですよ。
素材調達という意味では、恵まれた環境かもしれませんね」


料理のために取り寄せた採りたての食材は、そのままカクテルの材料にもなっていった。
こうして出来上がったのが、この店の目玉ともいえるフレッシュな野菜や果物のカクテル。
生のパプリカをジンに合わせた「パプリカクーラー」や「生ショウガのモスコミュール」、「ルッコラとキウイのカクテル」などなど。


なかでも、シグネチャーといえるのが「フレッシュトマトのブラッディメアリー」だ。

すだちのギムレットにスイカのソルティドッグなど、季節の野菜や果物を使ったカクテルの名前がずらり。

「せっかくおいしい野菜が手に入るのだから、その美味しさと栄養を丸ごと閉じ込めたようなカクテルができないかと思って」
そう言ってトマトを丸ごと一個、ペストルで潰してブラッディメアリーを作ってくれた。
なんでも、ミキサーを使うと分離してしまう果汁が、ペストルを使うと時間が経っても分離しないのだとか。
仕上げに、自らが開発したカクテルソルトでスノースタイルに。
これが「Bar au comptoir」のブラッディメアリーである。


「ミクソロジーも料理から派生したものですが、僕も新しいカクテルを考える時は料理本を読んでヒントをもらうことが多いです。
たとえばキュウリにディルとホワイトバルサミコを合わせて『キューカンバークーラー』というカクテルを考えたのですが、これも冷製スープを作る感覚ですね」


カクテルも料理もセオリーは一緒だと言う。
材料を眺めながら頭の中でブレンドし、その香りや味わいを想像する。
想像の中でレシピがある程度まとまったら、そこで初めて現物を作ってみる。

登山が趣味という高宮さん。毎年8月には、店の顧客を連れて富士山に登る。「お酒を飲みに来る場ではあるけれど、こういう機会を設ければお客さん同士も仲良くなれる。バーが新しいコミュニティになっていくといいですね」。(写真提供:Bar au comptoir)

「味や香りって、頭の中に蓄積されたデータ量が勝負なんですよね。
頭の中で材料をブレンドしてみても、データがあれば容易に想像することができますから。
だからなるべくたくさん、自分の中にデータのストックを持っておきたい。
そのためにはたくさんのバーやレストランに足を運んで、常に新しい味わいを探求しなくてはと思っています。
そこで新しいアイデアを発見できたらラッキー!」


高宮さんの場合、そうやって料理にインスパイアされたアイデアは、秘密のレシピ帳に書き留められる。
そのレシピ帳はまさにアイデアの宝庫、高宮さんが「作りたい」と思ったネタが満載だ。
もはや「自分だけでは活用しきれない」といいい、フードプロデュース業で生かされる予定だとか。


そうしたひらめきを具現化するのが、フードプロデュースである。
商品開発の楽しさを知った今、自分の商品だけでなく、他店舗のオリジナル商品のプロデュースにも乗り出したいと考えているそう。


後編ではバーテンダーが挑むフードプロデュース業について、その可能性をお伝えしよう。


後編に続く。

SHOP INFORMATION

Bar au comptoir
東京都練馬区石神井町7-1-1 コピーヌ石神井公園
TEL:03-5393-2019

SPECIAL FEATURE特別取材