PICK UPピックアップ
バーテンダーが熱烈支持、
生ハム&サラミ×酒の歓び。
<後編>
#Pick up
新町賀信さん×大場健志さん by「bar cacoi」
休日は国内の醸造所や蒸留所を巡るという大場さん。トップ写真は本文中で登場する、「ヴェッキオ・サンペーリ」と生ハム、村上重の奈良漬けの組み合わせ。
前編では生ハムのペアリングとしてクラフトビールを紹介したが、それ以外にも産地を揃えた生ハムとワインのペアリングや、一年で1カ月しか楽しめない、旬を迎えたマンゴーと生ハムの組み合わせなど、生ハムを楽しむためのペアリングを多数、紹介してくれる「サルメリア69」。
とはいえ、ペアリングとは「これとこれが合う!」と決め込むものではない。
あくまでも飲み手・食べ手のその日、その時の気分や旬によって変わるもの。
というわけで、「サルメリア69」店主の新町賀信さんは、「うちの定番のハムやサラミはわりと個体差があって、その都度味わいが少しずつ変わってくるんだけど、やっぱり生ものだから状態差はあって当然。
むしろ、それがストーリーになると思う」と考える。
「だからこそ、その人がどういうものと合わせたくて、どういう気分で生ハムを食べたいのか、お客さんとおしゃべりしながらその日の気分にいちばんフィットするものを提案しないと」
そうした「個体差におけるストーリー」に共感するバーテンダーの大場健志さんは、バーテンダーとしてのペアリングを、バーにおけるプレゼンテーションの中で酒のストーリーをさらに膨らますための「飛び道具」と捉えているそうだ。
後編では、大場さんから見た酒×生ハムのペアリング事情をお伝えしよう。
スピリッツ、リキュールはもちろんのこと、クラフトビールの充実ぶりは目を見張るほど。
前編から所変わって、ここは大場さんが東銀座で営む「bar cacoi」。
茶室を意味する「囲」を由来とするこちらは、囲を模したアイコンが目印の、カウンターだけのシックなバーだ。
カウンターの一角には炉のようなスペースが設けられ、鉄瓶からは盛大に湯気があがっている。
もともと、茶道をたしなんでいたという大場さん。
お茶の知識があったゆえ、バーでありながら中国茶や京番茶を提供していたが、そのお茶が縁で新町賀信さんの生ハムに出合った。
多くのバーがそうであるように、カウンタバーという構成上、がっつりした料理を準備するのは難しい。
が、新町さんの生ハムなら「おつまみ」という次元を超え、酒の味わいをより豊かにしてくれるフードペアリングの可能性を模索できる!そう考えた。
現在はウイキョウのサラミ、スモークしたカモの生ハム、日本人唯一の公認パルマハム職人が岐阜で生産している生ハム「ボンダボンのペルシュウ」の3種類を主に扱っている。
「MONSOON」と岐阜の生ハム「ボンダボン」。生ハムに添える爪楊枝も、日本橋「さるや」の黒文字楊枝を選ぶこだわりぶり。
それではcacoiで提案するペアリングの例をさっそく、ご紹介していこう。
クラフトビールも充実するcacoi、サワーエールもスタイルの一つとして定着した感があるが、「生ハムとの相性はイマイチ」と大場さん。
「酸味ということであれば、シェリーやマデイラワイン、ポートワインのようにエレガントな酸味のものは生ハムとは相性がいいようで、素直に合わせることが多いですね」
最近では、生ハムと同じイタリアくくりということで、マルコ・デ・バルトリしか作っていない酒精強化していないマデイラ、「ヴェッキオ・サンペーリ」と生ハムの組み合わせをおすすめしている。
口の中によだれが湧いてくるような酸味が、肉の甘みや旨味、脂身をしっかり受け止めてくれる。
あるいは、山田錦を使った再仕込み濃縮製法の日本酒、「MONSOON」と岐阜の生ハム「ボンダボン」。
ソーテルヌや貴腐ワインを思わせる極甘口の日本酒と、ごくごく薄くスライスされた"しゅわしゅわ”の生ハム、異なる甘さのハーモニーが秀逸だ。
「甘口が苦手な方には、アブサンやベルモットを垂らして。
独特の香りや風味が、それぞれの長所を引き立て合います」
スモーキーなウイスキーにぴったりの、燻製茶「ターリースーチョン」をチェイサーに。
「サラミはウイキョウの風味がしっかり効いており、古いジンのストレート、マティーニなどと相性抜群。
マティーニではオリーブの代わりにサラミをお出しすることもあります。
新町さんのところで購入したものをうちでスライスするのですが、お酒と合うように食べ応えを感じられる厚さに切っています。
生ビールやハイボールともオールマイティーに合いますね。
カモのスモークは、口の中を上品な脂でコーティングし、それに酒を馴染ませるイメージで。
カモの食感が繊細なので、アルコール感の強すぎるものだと負けてしまうんです。
マンハッタンだったらオールドのカナディアンで、ベルモットもペドロヒメネスに、というように、食感の相性を考えてお出ししています。
古いブレンデッドのウイスキーの場合は台湾の燻製茶『ターリースーチョン』など、スモーキーな中国茶をチェイサーに。
お茶がハムの脂を溶かしつつスモーキーさは口中に残るので、その余韻がウイスキーにぴったりはまるんです。
あとはカモとウイスキーの間にワンクッション、つなぎをいれてあげる。
たとえば京都・村上重の奈良漬け。
『竹鶴17年』×奈良漬け×生ハムの組み合わせなんかがおすすめですが、『竹鶴17年』と生ハムはどう考えても合わないんです、ウイスキーが強すぎて。
ところがそこに奈良漬けの穏やかな発酵感を加えることで、アルコールの強さを和らげつつうまいことスモーキーな生ハムに風味をつなげてくれる」
カウンターには、日本茶に中国茶、そのほか香り豊かなお茶っ葉がずらり、勢揃い。
このように、大場さんが考える「点と点のペアリング」は、それぞれを別々に呑み、食し、口のなかで一つのカクテルを作るイメージだ。
さらに、奈良漬けや京番茶のように日本らしい素材、味わい、香りのものをあえて洋酒と組み合わせ、日本人らしいペアリングを提供したい、そんな風に考えている。
「新町さんのお店では、生ハムを食べたい方が生ハムを主役にしたペアリングを求めていらっしゃいますが、バーの場合、主役はあくまでもお酒。
いくらおいしい生ハムがあっても、生ハムのために酒を揃えるわけにはいきません。
ただし、生ハムの選び方、奈良漬けやお茶のようなワンクッションの使い方、あるいはサラミのスライスの厚さひとつでそのお酒の余韻や風味をより深く味わっていただくことができる。
ですから、うちでは季節のフルーツをおすすめする感覚で生ハムを提案しています」
そんな研究熱心さが高じて、ついにはスライサーを購入してしまったという大場さん。
新町さんが部位を選びスライスしてくれる生ハムは超一級品で、それは新町さんにしかできない技と言いつつも、「あの切り立てのおいしさをぜひ、うちでも再現してみたい」。
「練習しているんですが、やっぱりすごく難しくて(笑)、でもバーに合う薄さや部位、切り方、テクスチャーや柔らかさまで試行錯誤して、いつかは新町さんの神業スライスとうちで切ったものを合わせてお客さまに提供できるようになればいいなと思っています。
新町さんは『いい生ハムの条件は“余韻”があるもの』とおっしゃっていますが、それはお酒も同じこと。
香りがいいとか最初のインパクトが強いって、実はあとからいくらでも付け足せると思うんです。
本当のおいしさって、後づけできない『余韻』があると思う。
バーテンダーとしてはそうした上質な余韻があるもの同士の組み合わせをいろいろ試して、自分の手札として用意しておきたいですね」
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