外食シーンを変える新システム!
「原価バー」の秘密って?
<後編>

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外食シーンを変える新システム!
「原価バー」の秘密って?
<後編>

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横山信夫さん by「原価バー」

五反田、赤坂見附、そして銀座。ユニークなシステムで支持されている「原価バー」だが、人気の秘密は価格だけではない。横山信夫さんがこだわるフードによって、酒&バーの可能性は無限に広がっていく。

文:Ryoko Kuraishi

オープン当初は、JR五反田駅から見えるキャッチーな看板に興味を惹かれて訪れる人が多かった。

前編でご紹介したような「明朗&お得」なシステムが知られるにつれ、さまざまな世代、職種の人々が夜毎、「原価バー」を訪れるようになった。
たとえば、バーの登竜門としてここを利用する20代。
若者の飲酒離れが叫ばれて久しいが、ここではやっとお酒を飲めるようになった若い世代が片っ端からカクテルを試し、自分好みの一杯を探すという。
ここで酒を勉強し、晴れて憧れのオーセンティックバーへ出かけるのだ。


あるいは、酒の楽しみを教えるため、上司が部下を引き連れて現れるなど、昨今のバーではなかなかお目にかかれなくなった光景も。
会社のイベントで高級シャンパンを気前よく開けたり(でも原価!)、食メインでの「女子会」を開催するなど、ここの使い方は人それぞれだ。
帰宅前に1人で訪れウイスキーグラスを傾ける、バーらしい使い方を好む常連客も少なくない。


代表の横山信夫さんいわく、「お酒を初めて飲む人も、こだわりの飲み方を追求したい人も、あるいはほかの店では試せないような希少な銘柄を楽しみたい人も、家庭を持って外で飲む機会が減ってしまった人にも。
あらゆる層に楽しんでもらうためにできたのが『原価バー』です」。

こだわりのフードメニュー。左は「ローストビーフ」、右上「フォアグラのソテー」、下は横山さん秘伝のレシピを用いて作られた「レーズンバター」(¥180)。「高級酒がコレでもか!というほど入れてあります」

原価BARを運営する株式会社ハイテンションはもともと、「酒を広く深く普及させたい」といった熱い志をもった3人が立ち上げたという。
「僕自身が最も好むお酒は、たった3人という少数精鋭のスタッフが小さなポットスチルを使って蒸留する、シングルモルト・スコッチの『エドラダワー(The Edradour)』。
ウイスキー造りに情熱を注ぐ3人の記事を目にしてから彼らの思いに強いシンパシーを感じるようになり、いつしか大好きなお酒の1本となりました」


そうアツく語る横山さん、そしてハイテンションが考える「原価バー」の使命とは、「中食(家庭外で調理された食品を持ち帰り、家庭内で食べる食事の形態のこと)や家飲みに流れてしまった人たちに、外食の良さを再認識してもらう」こと。
外食の魅力は店の雰囲気やホスピタリティ、家では味わえない酒や料理のバリエーション、大切な人と一緒にゆったりと過ごすひとときなどいろいろあるが、原価で提供することでそうした外食の楽しみの一つを、より気軽に、肩肘張らず楽しんでもらえるという。


このように、さまざまな楽しみかたができる「原価バー」だが、酒以外にもこだわりがある。
それは酒の可能性を無限に広げるフードへのこだわりだ(もちろん原価!)

独自イベントも続々。こちらはジャック・ダニエルをテーマにしたセミナー。そのほか原価バーの経営理念を知ってもらうセミナー「原価飲み会」、カップルに向けた「手相イベント」(赤坂見附店のみ)などユニークな企画が。

もともとバーや酒に興味を持つようになったきっかけが、キッチンスタッフとしてレストランで働いていた経験だったという横山さん。
アルバイトながら食の世界の奥深さに強く惹かれた横山さんは、料理を勉強する過程で酒の魅力に開眼。
それぞれにユニークな歴史や謂れのある酒と料理のマッチングこそが、食文化に深みを与えると認識した。


その思いはもちろん、現在の店作りにも反映されている。
店に並ぶのは、スペイン産イベリコ豚上ランクの「セボ」を使った「イベリコ豚の生ハム」(¥500)や、最高級オージービーフ「葡萄牛」に特製ソースを添えた「自家製ローストビーフ」(¥500)、そこいらのホテルでサーブされるフォアグラに勝るとも劣らない、「フォアグラのソテー」(¥500)など。
(いずれも五反田店のメニュー、価格)


「料理人としてのキャリアが長いわけではないので、もちろんシェフにはかないませんが、それでも出来うる限りいい素材を手に入れ、酒の味を引き立ててくれるこだわりのフードを提案しています。
酒が主体のバーとはいえ、お酒とフードの組み合わせをアレンジすることで味わいのバリエーションは無限に広がりますから」


食へのこだわりをさらに深めるべく、今月末からは契約農家から仕入れた旬の素材を扱っていく予定だ。
また、契約農家との交流が深めていき、さらにプレミアムな商品を開発する新企画も温めている。

五反田店とは趣を変えた、いかにもオーセンティックバーの造りは銀座店。こちらは入場料¥2,500+メニューはもちろん、すべて原価で提供。

「北海道のとある農家が作っている、飛び抜けて糖度の高いトマト、メロンがあるのですが、それで世界最高の『プレミアムカクテル』を開発し、店で提供したい。
たとえば世界一のブラッディメアリー。
世界一のウォッカ、世界一のトマト、最高級の塩など、いずれも世界最高級の素材を揃えて一杯のカクテルを作る。


野菜は時期によって糖度や味わいがどんどん変化していきますから、常にレシピを更新してその時々の『世界一』を目指します。
オーセンティックバーなら¥3,000くらいになってしまいますから現実的ではないですが、うちのシステムなら¥500くらいで実現できる。


さらには農家と一緒に、プレミアムカクテル用の素材を共同で作っていきたいとも考えています。
安かろう・悪かろうではなく、『入場料を払えば究極のものを楽しめる』、それが『原価バー』の本質ですから、この方向性をさらに深化させてくつもりです」


訪れる人の驚いた顔が見たい、喜んでもらいたい。
ただそれだけの思いで始めた「原価バー」。
今後も引き続き、驚きのイベントや企画を用意している。

銀座店は酒のラインナップも異なる。世界でここでしか飲めない希少なボトルも多数揃えた。フードはフランスバーベキューが中心だ。

今考えているのはシャンパン・デー。
普通ならグラス売りしない超高級シャンパンを気前よく開けてしまうスペシャルイベントだ。
店のSNSで情報を発信して来場者を募り、一定の予約数に達したらその数に応じて高級ボトルを開けてしまい、みんなで飲み切ろうという企画である。
「普段、なかなか高級シャンパンを楽しむ機会を持てないですよね。
こういうイベントが、企業理念である『外食ならではの酒の楽しみ方をより深く広める』につながると考えています」


このスタイルを用いれば、高級シャンパンだけでなく、たとえばオークションで落札した高級ワインやメーカーから手に入れた希少な銘柄をたくさんの人に味わってもらうことができる。
「うちはとにかく数が出るので、各メーカーさんが御得意向け限定のボトルをまわしてくれることも少なくない。
例えば、ニッカウヰスキー創業80周年を記念した今年、数量限定で発売される『竹鶴ピュアモルト シェリーウッドフィニッシュ』も五反田店に一本、入荷することになりました。


儲けは入場料分しかないですが(笑)、そうやってお酒の楽しみを提案するのがうちのスタイル。
たくさんの人にお酒を楽しんでもらう方式にメーカーの人も共感してくれているのではないでしょうか。
自分たちはこのスタイルに自信があるので、さらに広めていきたいと考えています」


もちろん、次なる店舗のオープンも準備中だ。
まずは横山さんたちの理念に賛同してくれる経営者と一緒にフランチャイズ展開を考えている。
段階を追って全国各地に原価システムを広め、そしていずれは海外にも...横山さんの夢は尽きない。


原価という画期的なシステムのバーがアジア各国で人気を博すのは、そう遠くない未来なのかもしれない。

SHOP INFORMATION

原価バー
141-0031
東京都品川区西五反田2-5-8
野津ビル2・3F
TEL:03-6417-9909
URL:http://www.genkabar.jp/

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