外食シーンを変える新システム!
「原価バー」の秘密って?
<前編>

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外食シーンを変える新システム!
「原価バー」の秘密って?
<前編>

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横山信夫さん by「原価バー」

原価、だけど激安店じゃない。バー、だけどこだわりのフードも楽しめる。あっと言わせるアイデアでバー業界に新風をもたらす企業家、「原価バー」の横山信夫さんが登場!原価スタイルの秘密に迫る。

文:Ryoko Kuraishi

全店舗に共通するのは「全てのメニューを原価で提供」というコンセプト。入場料やそれぞれのメニューのラインナップ、価格は店舗によって異なる。

入場料(¥1,600〜、店舗によって異なる)+原価で、すべてのメニューが楽しめる!
そんな衝撃的なシステムをひっさげて、「原価バー」がオープンしたのは2011年のこと。
現在は都内に4店舗を構えるまでに成長した「原価バー」だが、そのシステムを考案したのがバーテンダーであり企業家の横山信夫さんだ。


このシステムが画期的な理由、それはメニューを見れば一目瞭然だ。
たとえば、こちらではこんな楽しみ方を提案している。
「シングルモルト飲み比べ」
グレンリベット12年(¥120)+グレンリベット18年(¥240)+ラフロイグ10年(¥180)+ラフロイグ18年(¥450)=¥990!
入場料を入れても¥3,000に満たない。


カクテルだって、マティーニ(¥120)、ホワイトレディ(¥120)、グラスホッパー(¥150)などなどさまざまなカクテルがすべて原価で楽しめる。
あるいは、普通のバーではなかなか味わうことの出来ない超高級酒だってグラスでいただける。
製造中止となった「ハイランドパーク40年」が¥8,000、幻の「ポールジロー ビクターサロモン」が¥4,300!!!
メニューはすべて原価(仕入れ値+消費税)、儲けは一切、乗せていない。

五反田店のハッピーアワーのお楽しみはブラックニッカのハイボール(わずか¥10)。開店前には店の前に行列ができることも。

ところで社長の横山信夫さんは、NBAにも所属するれっきとしたバーテンダーでもある。
ホテルバーで修業をした後、大森にある老舗のスコッチバーに入店、ここで徹底的にウイスキーを学んだ。
26歳のときに縁あって、銀座7丁目コンパル通りのビル内の物件と出合い、はじめて自分の城を構えた。


「建て替えを控えた建物で、1年間という期間限定。
そんなわけで家賃も格安だし、内装も居抜きをそのまま使いました。
本格的に自分のバーを立ち上げる前に経営を勉強させてもらおうと思って、思い切って開業しました」


銀座の激戦区にあってどうにか赤字を出さず、期間満了まで店を続けることができたという。
その後、ホームタウンである品川に戻って小さなオーセンティックバー「リベロ」をオープン。
手狭になったので後に五反田に移転したが、ここでも9年間、順調な日々を送った。
銀座時代に培った、経営のイロハの賜物である。

五反田店のオンメニューで最も高額なのが「余市20年」¥800と、「バランタイン30年」¥960。お財布が厳しくても気軽にトライできる価格だ。

「オーナーバーテンダーとしては順調だったんですが、実はこの時から全く新しいシステムをバーに導入できないか、独自企画を温めていました。
それが原価をウリにした、現在のシステムです。


僕が飲食業に携わるようになったホテル時代はまだまだバブルの余韻が残っていて、高級酒を好んで飲まれる方も多くいらっしゃいました。
ところが、それから10年も経つと景気はすっかり変わってしまい、お酒が好きでも飲む銘柄が限定されてしまう世の中になっていたわけです。
僕も生来の酒好きなので、もっと自由にお酒を楽しむにはどんな方法があるだろう、そんなことを日々、考えていました」


そうした不自由さを打開する鍵として行き着いたのが、「原価」のアイデアだった。
もちろん、空間やサービスでモノにプラスαの価値が付帯されることにまったく意義はない。
しかしそれゆえに楽しみ方が限定されてしまうなら、別のシステムを編み出すことが酒好きの心に適うのではないか。


「当時は料金体系が明確でない店がたくさんありました。
それに対して『利益はいくら』ときちんとお客さまに提示する新しいスタイルなら、バーに新風をもたらすことができるんじゃないか、そう考えたんです」

カクテルも豊富。シェイカーを振る横山さんは修業時代、カクテルコンペにも積極的に出場しており、「ジュニアバーテンダーコンペティション」などで入賞歴あり。「バー経営のほうが楽しくなって、いつしかコンペには出なくなってしまいました」

今までのバー経営の経験からまず、客単価を¥3,000に設定した。
メニューはすべて原価だから、儲けは入場料で計算する。
さて、¥3,000の予算から入場料(オープン当初は¥1,500)を差し引くと飲食に費やせるのは¥1,500。
¥150の商品であれば10品、オーダーできる計算だ。
一方、カジュアルかつリーズナブルな店に¥3,000の予算で出かけても、一品あたり¥500と考えると6品しかオーダーできない。
客の立場で考えるなら、同じ予算ながら生じるこの4品の差こそが「お得感」である!
経営者として横山さんはそんな風に計算した。


もろもろ考えてみると入場料+原価のシステムはいいことだらけに感じた。
お得感ゆえ、外食の機会が減っていた層にアピールできる。
値段を考えるとなかなか手が出なかった銘柄を「飲み比べる」など、新しい楽しみ方を酒好き、バー好きに訴えられる。
これまで酒好きが感じていた不自由〜たとえば飲酒の機会が減る、飲めるモノが限定される〜を取り払って、心おきなく飲み、食べてもらえる!

「価値を考えると1杯¥8,000でも格安だと思います」という「ハイランドパーク40年」と、「ポールジロー ビクターサロモン」¥4,300。

「客単価も一回転すれば赤字にならないように設定していますから、時間制も設けていません。
ですから、時間を気にせず自分のペースで飲んで頂ける。
お得感に加え、普通のバーと同じように自分らしく過ごせること。
これが原価バーの人気の秘訣だと思います」


今までのバーにはなかった、「本物の価値+リーズナブルかつ明瞭会計」というシステムの構築こそがバーの世界に携わる自分たちならではのアイデンティティである、と横山さん。
後編では、未来に向けて考えているさまざまなアイデアをご紹介。
バーシーンを活性化させるべく温めている秘策とは、一体……?


SHOP INFORMATION

原価バー
141-0031
東京都品川区西五反田2-5-8
野津ビル2・3F
TEL:03-6417-9909
URL:http://www.genkabar.jp/

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